第二百四十話
お待たせしました。
第二百四十話です。
もう一人のカンナギ、そう語ったのもまたカンナギと名乗る少女であった。
彼女の言葉に怪訝な表情を浮かべる私達だが、当の彼女は真面目な表情を崩さなかった。
『簡潔に言うのなら、君に夢という形で接触してきたのは、私の姿を真似た偽物なんだ』
「……そう、なんだ」
普通なら疑ってかかるべきだけど、今カンナギに言われてしっくりきた。
夢の中の彼女は、どこか芝居がかったようで違和感があったからだ。
でも、今目の前にいるカンナギは自然体で、どことない人間臭さがある。
『そして、キーラという魔族の子供の不安を煽りこの遺跡に誘き寄せたのも、偽物の仕業。本当は止めたかったけれど……私はほとんど身動きができないように封じこめられていたんだ』
「で、この遺跡に漂う濃密な魔力がなくなって、動けるようになったってことね?」
『うん、その通り』
それじゃあ、ウサト達を別の場所に転移させたのもそのカンナギの偽物の仕業なのか。
「で、その偽物ってのはなんなのよ」
『彼……いや、彼女の正体は———勇者の刀だ』
勇者の、刀?
そもそも生物ですらないことに疑問に思っていると、勇者の武具と縁の深いレオナが、カンナギへと質問を投げかける。
「……無機物に命が宿ったってことだろうか?」
『彼女は、元々は生きてすらいなかったんだ。神龍ファルガの肉体の一部から作られただけの武器。ただそれだけのはずだったんだけど……』
そこでカンナギは言い淀むが、すぐに続きの言葉を口にする。
『邪龍の心臓に突き立てられたもう一振りの刀に影響されて、神龍ファルガの力の断片としての自我が目覚めてしまった』
「邪龍!?……それじゃ……!」
邪龍の魂を封印するために、先代勇者はその心臓に小刀を突き刺した。
今はウサトが、籠手として持っているものだけど———その小刀から邪龍に影響されたとしたら、それは決していいものではないはず……!
『いいや、目覚めた時点では彼女の精神性は子供みたいなものだったらしい』
「え?」
『でも、彼女が目を覚ましたのは封印されている私の意識の中。誰とも話すことができず、何も見ることができない。唯一できたのは、自身の魂に刻みつけられた神龍ファルガの一部の記憶と、眠っている私の記憶……そして、自我が目覚める前の刀としての記憶だけだった……』
「……」
『でもそれだけじゃ、何百年という長い間の孤独を紛らわすことなんてできるはずがない。彼女は、壊れることすら許されずに、長い孤独に耐えることを強いられていた』
数百年もの間の孤独。
それも、自我を得てから他人の記憶しか見たことがなく、それ以外を知らない。
『だから、彼女がウサトという人間を初めて目にした時、かなりの衝撃を受けたんだ』
「……どうしてここでウサトが出てくるんだ?」
『邪龍の心臓から、勇者の小刀を抜いたのが彼だからだよ。その瞬間から二つの刀は繋がった』
「繋がった?」
私の呟きに、カンナギは答える。
『ウサトが手にした小刀、籠手を通して彼女はようやく記憶以外の外の景色を見ることができたんだ。……おまけに、封印が緩んで外の世界に干渉できるようになってしまったけどね……』
今までカンナギ自身の記憶と、ファルガの記憶しか見ていなかったけど、ウサトによって外の世界を知る切っ掛けを得たってことなのか。
『その時から、彼女はずっと君達を見ていた。サマリアール、ミアラーク、ヒノモト、リングル、魔王軍との戦い―――そして、この遺跡に来るまでの軌跡を』
「見てたって、え? 今までの私達のやり取りも?」
『うん。ついでに私も見てた。あ、あー! 引かないで! いや、悪いと思ったけど、私もぶっちゃけ寂しかったし……! 君達の旅路は見てて飽きなかったから……!』
ネアに睨まれ、途端にあたふたとするカンナギ。
今までのことを見られていたことに、若干嫌な感じはするけど、責めるほどじゃない。
「貴女はいつ目覚めたの?」
『私の方は、ウサトが邪龍の心臓の刀を抜いた時だよ。その時まで、勇者の刀に自我が目覚めたことすら知らなかった。知った時は本当に驚いたよ……』
ということはそれまでの間は……。
少しだけ、夢の中で話したあいつに同情してしまう。
「で、結局、その偽物の正体は勇者の刀に自我が芽生えた誰かってことでいいのかしら?」
頭痛を堪えるように額に手を当てるネア。
彼女にとって、カンナギの話は荒唐無稽なものに聞こえているのだろう。
たしかに、魔術云々があるとしても無茶苦茶な話だ。
『———私の偽物の正体は……ファルガであり、私であり、誰でもない誰か。そんな彼女の目的は……ウサトという存在に自分を救ってもらうことにあった』
「「……」」
『あの子は、ずっと君達の旅路を見ていたからね。いつしか孤独な自分を救ってもらいたいと思うようになってしまったんだ』
多分、私とネアの心境は同じものだろう。
分かってはいたけど、ウサトって本当に変な人を寄せ付ける体質なんじゃないかと思う。
「だったら、こんなまどろっこしいことしなくても、普通に助けを求めればよかっただろ」
「そうね。彼、単純だし助けを求められればすぐに行動するでしょ。単純だし」
フェルム、ネアの指摘に私も頷く。
基本的にウサトは……というより、スズネもカズキもお人よしの部類に入る。
そんな彼らに助けを求めたら、彼らは迷わず助けに向かうだろう。
しかし、カンナギの表情は暗いままだ。
『……彼女は、歪んでいるんだ』
「歪んでいる? どういうこと?」
『作られた武器としての使命。魔王への恨み。その身で切り刻み血を吸ってきた魔族という種族への憎悪。感情を得てからもそれらは消えてはいなかった。だから、素直に助けを求めようとせず、魔王を倒すために君達を無理やりにでも強くさせようとする手段を選んだ』
「もしかして、ウサト達が渦に吸い込まれたのは……」
『アマコ、君の想像通りだよ』
ウサト、スズネ、カズキが吸い込まれたのは彼らを魔王と戦うために強くさせるための何かをさせようとしたからなの?
そしたらあのゴーレムも偽物が用意したものか。
な、なんて手間のかかることを。
『彼女は、善意でウサトと勇者達を強くしようとしている。でも、そのやり方には心がない……そして、ウサトには……』
「ウサトに、何かしようとしているの?」
『自分自身である勇者の刀を与え、それに加えて……勇者の光の魔法を、与えようとしているんだ』
その言葉に最初に反応を示したのはネアであった。
彼女は、動揺した様子で頭を抱え、その表情を真っ青にさせた。
「……嘘、治癒魔法だけでもあれなのに、光魔法? なにそれ、これ以上化物を化物にするつもり……?」
なんかネアが凄まじいショックを受けているけど今はスルーだ。
「それに、何かあるんだね?」
『彼女は、ウサトに自分を武器として使ってほしいという願いと、魔王を、魔族を滅ぼしたいという願いを混合してしまっている。色々な願望が混ざり合って、それが破綻していることすら気づいていない』
「もし、ウサトが光魔法を受け入れたら、どうなるの?」
ネアの質問にカンナギは答える。
『元あった魔法は上書きされて、別のものへと変わってしまう』
「待って、別のものって………ウサトの治癒魔法は……」
『うん、光魔法に上書きされて、消滅してしまうだろう』
「「!?」」
ウサトが、治癒魔法使いじゃ……なくなる?
驚愕のあまり声も出せないでいると、目の前のカンナギは腕を組む。
『でも、私が危惧しているのは別のことなんだ』
「これ以上に、何かあるの?」
『小刀を通じて伝わった邪龍の汚れた力は、あの子の精神に強い影響を与えている。もちろん、悪い方向にだけどね』
ウサトの魔法が喪失するかもしれないこと以外に、何があるのか。
事態が想像していた以上に悪いことを理解しながら、彼女の言葉に耳を傾ける。
『彼女は今、ウサトに救ってもらいたいという強い願望を支柱として、かろうじて自我を保っている。もし、その願いが叶わないということを彼女が自覚してしまえば……』
「自我が崩壊してしまうってこと?」
『いいや、もっと悪いことになる。最も強い願望を失うことで、後に残されるのは魔族に対しての殺人衝動……それも、邪龍に感化されたもっと悪質なものだ』
ここに来て邪龍の事件が尾を引いてくるのか。
封印から解放されても尚、どれだけ私達の旅に影響を与えれば気が済むんだ……。
『正直、そうなってしまうと私にも何が起こるか分からない。だから、早くウサト達と合流しなくちゃいけないんだ』
「場所は分かっているの?」
『うん。でもそろそろこの部屋に―――』
その時、私達の側方にある壁が壊され、電撃と共に何者かが入り込んできた。
もう予知するまでもなく、誰がきたかを理解した私は、腕を大きく広げてカンナギへと飛び掛かった変人―――スズネを見て、思わず額を押さえてしまう。
「こぉの、ケモミミ! 逃がさないぞぅ!!」
『うわあぁぁぁ!?』
演技でもない本気の悲鳴を上げるカンナギに突っ込むスズネだが、そのまま通り抜けてしまう。
舌打ちをしながら床に着地した彼女は、ようやく私達の存在に気付き首を傾げる。
「……無事合流できたってことだね!」
「私が思うに、スズネは少し痛い目にあった方がいいと思う」
「出会い頭に辛辣!?」
「先輩っ! どうしたんですか、急に走り出したりして……」
スズネの後ろからカズキがやってくる。
それを見て、平静を取り戻したカンナギは動悸を押さえるように胸に手を当てながら、私達へと声をかける。
『さ、さあ、スズネとカズキと合流できたことだし、ウサトのところへ向かおう!』
どうしよう、なんだかこの人を見ていると不安になってきた。
ウサトは、本当に大丈夫なのだろうか?
●
勇者の刀から流れてくる力。
僕の腕を駆けあがるように昇ってきたソレに明確な悪寒を抱いた僕は、すぐさま刀を手放そうとするが、どういうことか刀を掴んだ籠手が動かない。
磁石みたいにくっついている!? いや、動かせないようにされている!?
このままでは取り返しのつかないことが僕に起きる―――気がする!
「ならば! むんっ!」
左拳を振り回し、自分の右肩に叩き込む。
関節辺りに拳が当たったことで、腕の力が抜け強制的に手が開かれる。
その瞬間を狙い、一気にカンナギから刀を抜いた僕は、地面へと勇者の刀を放り投げる。
地面に突き刺さったそれを目にした僕は、安堵に胸を撫でおろす。
「———ふぅ、危なかった」
信じたくなかったけど、やっぱり何か仕掛けていたか。
「なんでこの人、いきなり自分の身体殴りつけたんですか……?」
「多分、あれだな。手が開かねぇから関節殴って、無理やり力を抜いたんだろ」
「なんで貴方は分かるんですか?」
意識を戦闘へと切り替え、刀を引き抜いたカンナギへと振り返る。
先ほどまで封印されたまま眠っていた彼女は、上半身を起き上がらせていた。
「……これが、人の身体」
自身の手を呆然と見つめた彼女は、ぺたぺたと自身の頬と身体を触る。
そして、光を映さない左目に気付くとすぐに自分の着ている着物の袖を破り、それで包帯のように目を覆っていた。
僕の視線に気づいたのか、アマコと同じ碧色の瞳をこちらに向けた彼女は、年相応の笑顔を浮かべた。
「ありがとうウサト! ようやく目覚めることができたよ!」
「……」
「……ウサト?」
今、僕はどんな顔をしているのだろうか。
本当はこの人を疑うべきなのだろうけど、そうしていいのか迷ってしまう。
僕の反応に首を傾げた彼女は、地面に突き刺さっている刀を見て得心がいったような表情になると、石棺から出てくる。
そして、覚束ない足取りで刀を地面から引き抜くと、それを僕へと差し出してくる。
「はい、これ!」
「……いや、これは……」
「これは君のものだよっ!」
でも触ったらまたさっきと同じことになるんじゃ……?
籠手の共鳴はまだ続いている。
「カンナギ」
「ん? なに?」
「本当のことを、話してください。これを受け取ったら、僕に何が起こるんですか?」
そう質問すると彼女の表情が露骨に歪む。
しかし、すぐに申し訳なさそうな顔になると、ぽつりぽつりと“光の種火”とやらを受け取った時の副作用―――というか、代償のようなものを説明してくれた。
どうやら、僕はこの刀を受け取ると光魔法を会得し、その代わりに治癒魔法を失ってしまうらしい。
「で、でもほら、治癒魔法は失っちゃうけど、もっと強い魔法が手に入るんだよ……?」
「……」
「確かに治癒魔法は君にとって大事な魔法だ。だけど、君が光魔法と勇者の刀を持てば魔王とだって戦える。それこそ、魔族なんて敵にすらならない」
「……」
「お、怒っているよね? ご、ごめん……何もいわずにやらせようとして……」
無言の僕に、途端に弱気になるカンナギ。
俯いているせいか、彼女の碧色の瞳が暗く、淀んだものへと変わっているように見える。
そんな変化を気にしていると、肩を大きく震わせたカンナギが、突如として豹変する。
「わ、私を連れていけば、魔王は倒せるよ!」
「……!」
「あいつは私を置いていったから、魔王を殺せなかったんだ! 私を置いていかずに持っていけば、確実に殺せて、魔族も滅ぼすことだってできたはずなんだ!」
「カンナギ、君は……」
「だから、今度こそ私を連れて行って! 勇者として、魔王を殺すために! 私を!」
様子がおかしい。
情緒が不安定な彼女の言葉に、僕だけではなくコーガ達も異変を感じ取る。
痛々しさすらある彼女の様子に、躊躇しながらある意味で決定的な質問を彼女へと投げかける。
「君は、カンナギ本人じゃないんだな」
「……。え? 違うよ? 私はカンナギだよ?」
「嘘は、つかなくてもいいんです」
「嘘なんかじゃないよ。ちゃんと記憶もある。勇者の記憶もある」
彼女の言葉は、これ以上なく冷え切っていた。
疑問は元からあった。
彼女のこれまでの言動と、今の反応を見て彼女の正体に予測はついた。
僕は、必死に抜身の刀をこちらへ差し出そうとしているカンナギに、左手を伸ばす。その左手を見て、表情を明るくさせる彼女に心を痛めながら―――その刀を、拒絶するように押し返す。
「その刀は受け取れない」
「———え?」
「僕には治癒魔法が必要だ。だから、その力は僕には必要ない」
カンナギの言葉が本当ならば、この刀を受け取ってしまったら僕は光の魔法を手にして、先代勇者のように二つの勇者の武具を持つことになるのだろう。
正直、治癒魔法を失うことはそれほど重要じゃない。
それよりも、魔族を滅ぼすという言葉に僕は強い拒否感を抱いた。
魔族にもグレフさん達のように平和に暮らしている人達や、キーラのように辛い生い立ちを経験しながら必死に生きようとしている子供達がいる。
それを理解せずに、ただ滅ぼそうとするのは間違っていると思えた。
「僕は、勇者の代わりにはなれない。だから君を武器として連れていくことはできないんだ」
この子は、僕と先代勇者を重ねていた。
僕に光魔法を持たせ、恐らく、自分自身であろう勇者の刀を持たせ、そして魔王を倒させたかった。
でもそれは無理だ。
僕の言葉に、放心するように後ろへ後ずさりしたカンナギは刀を握りしめたまま、俯いた。
「うん……うん、ごめんね。分かったよ。そうだよね、君ならそうするよね。最初から分かっていた」
「……ごめん」
「謝らなくてもいいんだ。考えれば、私はもう救われているんだ。こうやって、ようやく人の姿になれたし……あれ?」
そこで俯いたままカンナギは頭を抱える。
どうしたのか、と思い彼女へ近寄ろうとすると、何かを小さく呟き始めていた。
「救われるって、なに? 私はもう救われているの?」
「……カンナギ?」
「———私の、本当の願いってなんだっけ?」
カンナギの右目が紫色に移り変わったその時———凄まじい速度と共に飛び出した彼女が僕の傍を横切った。
そして、流れるようにその刀を引き抜き、僕の後ろにいるコーガに、その刀を突き刺していた。
「……ごふ……!?」
「———あれっ?」
……は?
当人であるカンナギでさえも驚愕の表情を浮かべ、コーガに突き刺した自身の手元を見ている。
完全な不意打ちを受けたコーガは吐血し、後ろへ倒れる。
そんな彼を見下ろしたカンナギは、戸惑いと、苦悩の入り混じった歪んだ笑みを浮かべる。
「て、てめ……」
「あー、えと、ごめん? でも君、魔族だから死んでもいいよね? そこの君達もね」
「っ、キーラちゃん!」
コーガの血が付いた刀をキーラへと振り下ろそうとするカンナギ。
それを見て、シエルさんが咄嗟に彼女を庇うように抱きしめる。
その姿を目にした僕は躊躇せずに、全力の回し蹴りをカンナギへと繰り出すが、彼女はそれを分かっていたかのように避けてしまう。
「……くっ!」
この避け方、僕の動きを予知したのか!?
彼女が僕達から距離を取るのを確認してからコーガへと近づく。
「コーガは助けるべきか悩んだけど、大丈夫か!?」
「いや、そこはちゃんと助けて……」
「あ、ありがとうございます……」
コーガとは敵同士ではあるけど、治さないわけにはいかないか……!
慌てて、駆け寄ってきたシエルさんは、割と重傷なコーガの傷口を押さえながら、彼へと話しかけている。
「コーガさん! 敵の治癒魔法使いに助けられるなんて恥ずかしくないんですか!! そこのところ、コメントお願いします!!」
「お前、ウッキウキだな……! つか、やばい……」
治療を受けながらコーガが自身の手を見つめ驚愕している。
「魔法を、奪われた……!」
「なんだって……?」
傷口に治癒魔法を流し込み治療しようとしていると、カンナギは驚いた様子で僕を見ている。
その瞳は、変わらず黒に近い紫色のままだ。
「———ウサト、なんで攻撃してくるの!? 意味が分からないよ!」
「何を、言っているんだ……?」
血に濡れた刀、それを見さえせずにそう訴えかけてくるカンナギに変わった様子はない。
本当に、自分が攻撃された理由を分かっていない……?
「君は、自分が何をしたか分かっているのか!? コーガはいいとしても、キーラは無関係な子供なんだぞ!?」
「ちょっと、怪我人に鞭打たないで……」
「コーガさんって、弱気になると心細くなっちゃうタイプですか……?」
後ろはスルー!!
僕の叫びに、カンナギは酷く困惑した様子を見せる。
「でも、魔族を始末することは悪いことじゃないはずだし……とりあえずごめん。謝るよ」
「本当に、分かってないのか……?」
「分かってるよ? 我はそのために……我? いや、私であってるよね? うん、私が作られたのは魔族を滅ぼして、魔王を殺すため。だから、目の前にいる魔族は殺さなきゃならないんだ」
そう言葉にしてから、彼女の瞳の色が紫から碧色へと移り変わる。
「ん? もうそんなことはしなくていいんだっけか? でも、まだ魔王は生きているし、魔族もいる。あれ? 違う、私の願いはそんなことじゃない。こんなこと、したいわけじゃない……?」
悲痛な面持ちで頭を抱える彼女。
いつもの僕なら駆け寄っているところだけど、今の彼女に近づくのは危険すぎる。
「私は、君に、助けてほしかった……だけなんだ」
「……僕に?」
「だって、君は私が初めて目にした本物の人だったから。エヴァ、レオナ、カロン、アマコ、カノコ、カズキ、スズネ、キーラみたいに、助けてほしかった」
彼女の瞳の色が碧色と紫色と明滅する。
人格が入れ替わるように、言動と感情を一変させながら彼女は、刀についた血を払う。
「でも私は魔族を滅ぼさなくちゃならない。魔王を殺さなきゃならない。私を最後まで、武器として使って欲しかった。でも、その願いはかなわない。だから、しょうがないよね?」
暗く淀んだ、紫色の―――邪龍を思わせる禍々しい瞳へと変わった彼女は、その刀の切っ先を僕の後ろにいるキーラとシエルさんへと向ける。
「カンナギの身体はあるんだし、私だけでやるしかないよね? だって、君が拒むんだからさ」
刀身からコーガの闇魔法に似た黒い魔力が溢れ出る。
溢れ出たそれは、カンナギの腕を伝わり彼女の衣服を黒く染めていく。
「魔王を殺す。魔族を滅ぼす。人の形をした化物は、この世から全て消し去る。それが、私の生まれた理由だから」
僕は、選択を間違えた。
助けを求める彼女の手を跳ね除けてしまった。
その事実に、打ちのめされながらも、僕は後ろにいるキーラ達を守るべく、拳を構えるのであった。
カンナギ(偽):擬人化悪堕ちケモミミ眼帯巫女
ファルガであり、カンナギでもあり、何者でもない誰か。
その正体は、勇者の刀に芽生えた意思。
不完全な意思を持った命であるので、その精神は幼く、酷く歪んでいる。
勇者に置いて行かれたことは、自我を得た後になっても消えないトラウマとして記憶に強く刻み込まれている。
いつも困っている誰かを救っていたウサトに、自分も助けてほしかっただけの子供。
邪龍の穢れにより、魔王、魔族に対する憎悪が増幅され、ただの人間にさえも牙を剥きかねない危険な存在へとなり果ててしまっている。
今回の更新は以上となります。




