不運
なかなかハードな仕事だが、失恋後はマンションをローンで買っただけで恋人もできないし合コンも外されるしアラサーの独女の道をひた走ってるだけなので、キツい仕事もドンと来い状態だ。
潮風に吹かれながら買った惣菜に合う酒の種類を悩んでた。家の中の冷蔵庫は食べ物ないが酒やジュース類はたっぷり入ってる。缶詰やパウチ、冷食なども。
つまり働く女の冷蔵庫なのだ。
ふと恋人達すらいないマンションの敷地の歩道にもう入ってた。マンションの中庭から建物内に入れるのだが、結構緑がこんもりしてる。
その奥にガラス張りのエントランス内の滝も垣間見える。
さすがに人気は消える。
急に横の茂みが動いた。中から黒いキャップに黒マスクの黒のパーカーの男が出てきた!
その手には夜目でも分かる…ナイフだ。しっかり人が切り刻める牛刀?だ。
「ヒッ!」波瑠は1歩後ずさったが、男が前から肩を抱き寄せようと手を出してきた。
人目のある場所だ。
ナイフを突き出すより抱き寄せて腹を刺すほうが逃げやすいのだ。
防犯カメラに手元が映らないのは後々裁判でも有利なのだ。
意外に冷静に犯人の意図が透けて見えるのだが、向きを変えて逃げるほど身体が反応しない。
惣菜のスーパーの袋を手前に構えたぐらいで後退りも出来ない。
「オイッ!何やってんだ!」結構甲高いデカい声が後から聞こえた。
マンションの住人みたいだ。
波瑠と同じコース取りで帰宅したのだろう?
その声に黒づくめは焦ったようにショッピングモールの方へ走る。
「オイッ!待てよ!コラッ!」と住人らしい男が追いかけようとしたが、
「相手は牛刀持ってます!近付かない方がいいです!」と波瑠は男のスーツの裾をしっかり掴んだ。自分のせいでケガ人が出たらイヤだ!
牛刀はリンゴに果物ナイフ刺すより力要らない。
スッと腹に刺し込めるのだ。 なんで銃刀法違反掛けないのか不思議なくらいだ。
「追いかけなくて、どこのどいつか分からないで、良いのかよ?」と腰が抜けて座り込んでる波瑠に男が聞く。
「ショッピングモール内で追い込まれて牛刀振るわれたら、それこそ大惨事です。良いんです。大丈夫!」波瑠はガタガタ震えながら、それが最善だと思う。
相手も慣れてなかった。興奮状態でモールに飛び込まれるのが一番恐い!
明るいオートロック内のエントランスラウンジでソファに住人らしい男性は波瑠を座らせた。明るい場所で見ると見覚えがある男だった。
「あなたは!馬頭観音の呪いからウチの社を助けて下さった…え〜と…」波瑠は名前が思い出せなかった。
「僧侶兼ホラー動画の配信者の三笠です。
結構頑張ったんですけどね〜」と三笠は頭をうなだれる。
「すみません!私事でゴタゴタしててあの頃は…」波瑠がそれ以上話すのを三笠が止める。
「男性ですね。まだ生霊が付いてますよ。気を付けて。」波瑠の後ろ側を見ながら三笠が話す。
「かなり恨まれてましたね。後、女も居ます。
あーーッ、アナタみたいな人が1番無能な人間に恨まれやすいんですよ。」と言われて波瑠は動揺する。
「な、なんで私が?」どう考えても被害者だと思うのだが。
「いやいや、アナタはちゃんと災いとなる人間を避けない。自分の人間力に自信があるのです。
彼らの禍々(まがまが)しささへ吹き飛ばせると。
それがね〜他の嫌って避ける人間より恨まれる原因なんですよ。」三笠が小さく唱えて波瑠の後ろを祓った。
「祓えました?これで大丈夫ですか?」と波瑠は聞いたが、三笠は首を振る。
「アナタが人を恐れ警戒する心を養わない限り無理でしょうね。また増えていくだけです。」三笠はそう言い去ろうとする。
「…彼氏に裏切られて棄てられて、まだそれでも恨まれるんですか?一体、私が何を悪い事したって言うんですか?」思わず涙がこぼれた。
「救われたいですか?」三笠が座る波瑠の手を取ってひざまづく。
まるでプリンセスにひざまづく王子様?
いや、ホストか?
「では、私に協力を惜しまないと誓えますか?
ごまかさずウソをつかず、私に協力すると?」三笠がニヤ〜ッとしている。
思い出した!この人は花村ホールディングスを救ったが、その内容は全て自分の動画で公表したのだ。
つまり、ここで誓えば波瑠のプライベートは全て全国親戚に親、同級生まで知れ渡る訳だ。
「あ、あの…私の顔とかは…」波瑠は目を伏せる。
「会社名、氏名、顔も一切晒しません。豊洲など地名も隠します。
今回は生霊退治ではなく、あなたを刺し殺そうとした犯人を突き止めたいんです。
少し昔に遺恨がありまして…
負けている気がするんですよ、ある人物に。」
と波瑠の目を見て話す。
「さっきの犯人を追いかければ早かったのですが、逃がしたからには必ず見つけて取り押さえたい!
ある人物に私への警戒心を持って貰うためにね…」と波瑠より遥か遠くを見ている。




