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レストランを出て、敬一郎さんと並んで歩く。
初めての街並みは歩いているだけでも楽しい。
塀に囲われ区画が区切られている街と聞いているけれど、圧迫感はなかった。
「パンを食べながら何か考えていましたね?」
「あら…わかりました?パンにハーブを入れたらおいしいかもと思って…」
「ほぅ…ハーブを?」
「はい、ローズマリーとかバジルが合うと思うけれど、ここだと似たようなものがあるかな?と考えていました。」
「それは、試してみてもいいかもしれません。」
デザートはなかった。
食後のリリカ入りのお湯を飲んでから、レストランを出た。
街を歩きながらリリカの実を売っている店を探した。
屋台では売られているけれど、鮮度の良いものばかりではない。
いくつかの店を見て、一番端にある細身の女性の店で立ち止まった。
店員さんはともかく、商品はどれも瑞々しい。
「鮮度がいいですね。」
「ありがとうございます。リリカの果樹園をしていまして、並んでいるリリカは今朝収穫したものです。」
「それはいいですね。1籠欲しいです。」
「1籠も!ありがとうございます!1籠だと大銀貨3枚にもなりますが。」
値札は1個銅貨1枚となっていた。
30個くらいは入っていそうなので、問題ない。
「はい、かまいません。」
楓花は大銀貨を3枚渡し、籠を受け取った。
歩き始めて少し経つと、敬一郎さんが足を止めた。
「楓花さん、少し目をつぶっていてください。」
少し歩いたところで、敬一郎さんが足を止めてそう言った。
数人の男たちに囲まれてしまったようだ。
目をつぶっていろと言われても、私は何が起きているのかしっかりと見定める主義だから、それには従えない。わからないままになるのは、もう嫌なのだ。
敬一郎は、剣を抜くと一撃で倒していく。
楓花は、しっかりと見ていた。
倒れた男が、もぞもぞと動いたのを視界の端に捉え、慌ててリリカの実をぶつけた。
丸いものを投げるのは、得意だった。
リリカの実をぶつけられた男は、そのままナイフを投げられずに落とした。その音に反応した敬一郎は、その男にとどめを刺した。
「楓花さん…」
「ごめんなさい。見えてしまったのよ…。」
「目を閉じないからですよ。」
「それでナイフを投げるのを止められましたね?」
「はぁ…仕方がないですね…。」
敬一郎さんが笛を吹いた。
すぐに兵士たちが駆けてくる。
「閣下!これはいったい…」
「ここで襲われたので切り伏せた。」
「そりゃあ…こいつらバカすぎる…」
兵士たちが苦笑して、彼らを荷台へとのせ始めた。重ねて積んでいるので生きてはいないのだろうけれど、大和では考えられない光景だ。死者への畏敬の念は、ないのかもしれない。
「敬一郎さん、町の外に出ても大丈夫かしら?」
「問題ありません。そろそろ行きますか?」
車をアイテムバックから取り出してもらい、走らせた。
街中は人が多いのでゆっくりと進む。入ってきた門を通り塀の外へ出た。
「ナビさん、ガードを3m、ステルスにして。」
『かしこまりました。ガードを3m、ステルスい設定。』
「ケイさん、今日はここで泊まってもいいですか?」
「もちろん構いません。」
楓花は、車をステルスのまま停めた。道から少し外れたところなので邪魔にはならないだろう。そもそも、ステルスだと邪魔はしないらしいけれど、念のためだ。
楓花は、襲われたことに動揺していた。
そして、襲ってきた人たちを躊躇なく殺した敬一郎に、どう接していいのかわからなくなっていた。
自分だって襲ってくるものは反撃していいと思っているから、その行動を批判するつもりはない。だからと言って実際に人間を斬ったことがないので、どうしても戸惑っていた。
「あの…いつもああやって殺してしまうの?」
「いつもではありません。拘束で済むならそうしています。言い訳をさせてもらえるなら、今回は人数が多かったのと…彼らの印を見たから躊躇なくやってしまいました。」
「印ですか?」
「はい、額に墨が入っていました。三本線は犯罪を3回も行った証です。」
「それって…どういう意味になるの?」
「人殺しならその場で切り伏せられます。誘拐や暴力などであれば、捕まえてから問いただし墨を入れて、労務をさせてから解放します。その都度墨を入れて釈放しますが、4本目はありません。」
「それってつまり3本まで許されるという意味ですか?」
敬一郎は頷いた。
「この世界では、倫理観が低くなかなか定着しません。ですから痛みをもって犯罪を抑えています。」
「そうですか…」
「ましてや、私と大魔導士のマントを着ている楓花さんを狙ったのです。当然ですよ。」
それがこの世界での決まりであるならば、それを守らない人が罰せられるのは仕方がない。
「その…大魔導士というのはどういう人のことですか?」
「魔導士というのは、この世の理を学ぶ者という意味があります。例えば…科学や生物といった当たり前の理が、この世界では当たり前の知識ではありません。」
「科学や生物ですか?」
「はい、それには現代知識による手当も含まれます。」
「医療ではなく、手当が??」
「そうです。ばい菌という昔の子供に教えるのに使われた言葉さえありません。そういった概念がなぜか定着していないのです。ですから、清潔にしてという言葉さえ理解されません。」
「…そうなの?」
「はい。泥汚れがあろうと平気です。気にもしていません。」
「そうですか…それはなかなか手ごわいですね。」
「はい、ですからおそらく…楓花さんの手当は、この世界では唯一無二の医療です。」
「それは仰々しいというか、恐れ多いです。」
「実際そうなのです。」
「でも…そうなると、私の当たり前が、当たり前として通じないですよね?」
「そうなります。」
キャビンへ移り、コーヒーを淹れた。
それをソファーでゆっくりと味わう。もちろんチョコレートもお供にしている。
それで一息つくことが出来た。
楓花は、敬一郎を見た。
「やっぱり、移動します。」
「そうですね。それであれば、車の性能をゆっくり見たいので…人がいないところがいいですね。」
「それなら、虹湖でいいですか?」
「虹湖ですか?まぁ…そうしましょうか。」
「では、向かいますね。」
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