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「ごめんなさい。セクハラって怒られますね。」
「いえ…その…大丈夫です。」
大丈夫って何だ?落ち着こう。
全然大丈夫じゃない。
自分は28才で、目の前にいるのは40才だ。おばさんだ、勘違いをするな。
こちらにいるからか実質的には、35才くらいの時間は過ごしているかもしれないが、それでも目の前にいるのは、御大に夫を奪われた被害者だ。
弱っている心に漬け込むように押し倒すのはまずい。彼女に誘っているつもりはないのだ。
それにしても…こういった部屋だからだろうけれど、このパジャマにありがちな柔らかい生地のドレスが売っているのか…。ドラマとかでは見たことがあるかもしれない。真っ白いデコルテが見えて、谷間が見えていて…誘っている?いや、違う。
ふんわりとした袖は、手首のところで窄まっている。
手首…細いな…。
握ったら折れそうだ。
「それでどうしたらいいですか?」
「そのままで。」
ガードの展開状態は鑑定がなくても見ようと思えば見える。
なるほど、確かに体表5cmほどのところに薄いベールのような物があるか…これが輝いて見えるから余計に美しく見えるのかもしれない。
「今、ここにガードがあるのはわかりますか?」
「いえ、全然わからないです。」
「敵対行為を受ければ弾くのはわかりますね?」
「はい。」
「敵対行為のつもりはなくても近づくとやんわりと弾きますね。人がそれ以上寄ることはないと考えていいです。」
「なるほど…でも、治療するのに触れたりしていますよ。」
「はい、それはおそらく触れようとしたので0.0001㎜になっているのでしょう。」
「へぇ…そうなのね。」
「私から触れてもいいですか?」
「はい、どうぞ。」
楓花さんが手を出してきた。触れた感覚は、滑らかだが弾力もあり素手で触れているのと変わらない。
柔らかくて気持ちがよいので。ずっと触っていたい。
「ケイさん?」
敬一郎は名を呼ばれてハッとした。
「申し訳ない。あまりにも気持ちよくて、つい…」
「そうですか?まぁ…」
それから、いくつかの確認事項を行い、楓花のスキルがかなり特殊であり、常時発動型なのを確認した。
翌日、ノートを読ませてもらう。
書きかけのようだが、御大が最期の時に向けてできる限りの準備を整えていたことが分かった。大量のポーションなどもその一例だ。
彼は、自分のスキルを受け渡すための術を使い、あちこちに仕掛けてあることも伺えた。一度に受け渡すと器が壊れてしまう。だから、分散し少しずつ彼女に馴染ませることにしたようだ。
彼の命の結晶が、大和のあの家と車だった。
桁の違う個人資産を持っていたはずなのに、蓋を開けるとあの小さな家と土地、あの車と僅かな株式、それと相続税を支払えるだけの現金になっていた。
彼の作った弁護士事務所や大和の表と裏は、敬一郎が引き継いでいる。
それは、こちらの世界でも同様だった。もちろん、公にある資産も受け継いでいるために生活の不自由は一切ない。楓花に渡されたのは、彼の個人資産だけだった。
楓花は3日ほど、敬一郎の屋敷で過ごしそれから次の町へと向かって車を走らせた。
大学進学を悩んでいた敬一郎に御大は声をかけてきた。
怪しい話過ぎたのだけれど、親の力のなさに嫌気がさしていた自分は夏休みのある日誘いに乗った。
高校2年の夏休みは、アルバイトと称して家を出てこちらに渡ってきた。
それから、世界を跨ぐ生活が始まった。
高校3年の夏休みに入る頃、この家の跡継ぎとして迎えられた。
夏休みの向こうでの40日のうち34日こちらでの100日で家のことを教わり、社交界へと送り出された。
受験シーズンを潰してしまうからと、大学進学に必要な知識をスキルで受け継ぎ、さらに彼の弁護士事務所に入ることを条件として学費の援助なども受けた。
それがあって、今がある。
彼の残した弁護士事務所には、大きな資産と別の顔があった。
金鉱山を持っており、細々とだが採掘は続けられていた。その金鉱石は、国内の金加工を行う2社が買い取っていた。
この車を準備するだけでも相当大変だったはずだ。
こちらの世界へ渡らないと空間術は使えない。
それに、楓花さんの話しでは2階と3階もあるらしい。部屋が狭くキャビンスタイルなのは、それ以上広げるだけの余力がなかったのだろう。物を入れるアイテムバックであれば、そこまでではないが生物が入って活動できる場にするというのは数段階レベルが異なる。
これを固定させるためにどれほどのマナを使ったのやら。
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