14
鳥小屋に戸はなく、出入り自由なようだ。
グリフォンたちの前を通り見ていたが、気になった頭のグリフォンの前で楓花は足を止めた。
「これは、最近主を亡くしまして。餌も食べないのです。」
「そうなの?かわいそうに…餌をあげてもいいですか?」
「どうぞ」
その子は他の子と違って毛に艶がなく、元気もない。目に光がないので怖くなかった。
楓花が1歩近づく、その子はこちらに気がついているが逃げる素振りはない。
楓花は、バックの中からブラックベアーの心臓を取り出した。内臓肉なら食べるだろうか?
袋を開けて口元へと差し出した。
グリフォンは匂いを嗅ぐ仕草のあと、嘴で器用に心臓だけを摘み、上へ向いて口へ入れた。
なるほどそう食べるのか。
食べ終えたグリフォンは楓花を見た。
視線を向けられた楓花だったが、不思議と怖くはなかった。
「美味しかったの?心臓はもうないわ。肝も食べる?」
楓花は声をかけながら、ブラックベアーの肝を取り出した。結構大きかったので楓花には重かったのだけれど、思いの他軽々と取り出せた。心臓と同じように差し出すと、グリフォンが食べた。
食べ終えたグリフォンが近寄ってくると、頭を楓花の前へと差し出してきた。
一瞬、周囲がざわついた。
「楓花さん、天冠…その頭のとさかの根本を撫でてやってください。」
「え?こう?」
楓花はおそるおそる撫でてみる。以外にも毛は柔らかくふわふわとしていた。
グリフォンは、楓花の体に頭を擦り付ける。
「くすぐったいよっ」
「楓花さん、この子に新しい名を与えてください。」
「名前?」
グリフォンは薄いピンク色をしていた。満開の桜のような薄いピンク色だ。
「桜とか?」
「サクラって名前はどう?」
グリフォンの天冠が光り、光の輪が二人を包み上から下へと通して消えた。
目の前に小さな笛が浮いている。
「この笛は何?」
「サクラが楓花さんを主と認めたのです。」
「え?主?そんなの困るわ。私、お世話できないもの。」
「それはご安心ください。こちらで世話をします。その笛は持っていてください。グリフォンは1000㎞くらいなら音は聞こえるそうですから、呼んでやってください。」
「1000㎞も?」
「はい、その日の風向きにもよりますが…そういわれています。」
「わかりました。」
「グリフォンは獰猛な部分もありますので、主以外とは触れ合いませんから気を付けてくださいね。」
楓花は、サクラを撫でた。
もふもふしていて気持ちがよい。
敬一郎はものすごく緊張して連れてきていた。
魔導士であるけれど、威圧感が足りない楓花だからグリフォン隊の一員というのは、立場の助けになるはずだ。
一番おとなしい子を楓花に与えようと思ったものの、不安があった。
グリフォンは獰猛で、気に入らなければ食べられてしまう。
楓花が、この子の前で足を止めたのには驚いた。
グリフォン隊のグリフォンの中でも最も獰猛で気性が荒い。
餌をやってもいいかと言い始めたときには、少々戸惑っていた。だが、この子も襲う様子がなかったので許可を出した。
まさかまた主を認めてくれるとは予想外だった。
このサクラの主は御大だった。
御大が亡くなり、こちらでは2年が過ぎていた。その間、まったく餌を食べていない。もう数日の命だと思っていた。
それに…前と同じ名前だ。
この子を見て、そう思うのも理解できるが…不思議な縁があるのだろう。
「フーカ様、こちらをグリフォンの首にかけて貰えますか?」
「これは?グリフォン隊の印です。これがあれば、フーカ様をお守りしやすくなります。」
「そうなの?首にかければいいのね。」
サクラともふもふしている楓花に、リハルドがピンク色の布を差し出した。盆の上に載っているそれを楓花は受け取る。
騎士が持ってきてくれた足場を使い、首から下げた。すると不思議なことに背中には鞍が現れた。
「鞍は見えますか?」
「はい。」
「飛ばなくていいので、一度乗ってみてください。」
「ええっ!?」
楓花は敬一郎の手を借りて鞍に座った。不思議なことに、立っているのに近い姿勢でも乗っていて安定した。
「大丈夫そうですね。サクラとは会話ができるので、飛ぶときも会話をしてください。」
「わかりました。」
楓花は、すぐに鞍から降りた。
「では、またね。サクラ。餌は食べてね。」
楓花は、サクラともふもふしてから先ほどの部屋へ戻った。
「さて、それでは…薬についての確認です。昨日使った2種類はわかりましたが、もう1種類は何ですか?」
「軟膏です。例えば…あかぎれを治したり…」
「あかぎれ?使っても?」
「はい、どうぞ。」
敬一郎が手袋を外した。
結構荒れていた。
「どうしたんです?」
「これは…酸に触れてしまったのですよ。」
「それだとあかぎれではないです。こちらを使ってください。」
楓花は、中級軟膏を渡した。
敬一郎がそれをひと掬い塗ると、みるみるうちに通常の肌に戻った。
「なっ!?」
「こちらは中級軟膏です。」
「これらを売っているのですか?」
「基本的に売っているのは初級です。」
「なるほど…ですが、お持ちのポーションを使っていては、長くは続かないですよ。」
「それなら大丈夫です。材料さえあれば作れるので…。」
「!?」
「材料を揃えるのは大変ですけどね…。」
「作れるのですか…」
「はい」
「はぁ…なるほど…」
「ですから、継続的にできますので心配はいらない…」
「尚更心配になります!」
「ええ!?どうして?」
「いいですか?今、公に初級以上のポーションを作れるのは、王家所属の薬師と気難しくて人の田舎に籠っているのと2人だけです。」
「たった2人!?」
「そうです。王家所属の薬師は、まだ若く初級をマスターしたところで、師を失っています。ですから、公にまともに薬師となるのは1人だけです。」
「まぁ…それなら、私もいれば少しは安心では?」
「そうじゃない。供給としては安心かもしれませんが、あなたが狙われる。どこかに閉じ込められてポーションを作らされ続けるかもしれませんよ。」
「それは嫌です。」
「ですよね、ですから…今から関係者に口止めをしましょう。その上で表には、私を出してください。ヒシフォートクラレンスのケイがいると分かれば、例え王家でも手出しはできません。」
「そうなの?それならぜひお願いします。」
そこまで言ってから、でもそれでもし敬一郎が、利益を握るならどうしようかとも思う。様子を見て、ひどいようなら考えればいいか。
「出かける時には必ずマントをつけてください。それと…そうか、この指輪を差し上げます。」
「指輪?」
「これはガードの指輪です。これがあればあなたを守れる。」
「それなら大丈夫です。腕輪を付けたので…その消えましたが…。」
「そうですか、では…申し訳ないが今夜確認させてもらってもいいか?」
「夜?はぁ…いいですけど…?」
「閣下、到着しました。」
「わかった。」
敬一郎は、立ち上がった。
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