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未亡人が、遺産としてキャンピングカーを受け取ったら、大変な事になりました。  作者:
第3章 ヒシフォート

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 時計を見ると、17時で寝るにはかなり早いのだけれど、眠たかった。髪が濡れたまま寝るわけにもいかないので、タオルドライしながら椅子に座った。

 そうだ、メイドさんが外にいた。

 声をかけたほうがいいだろうか?

 外に女性とはいえ騎士らしき人もいた。招かれた家で、使用人たちを拒否している…このままではまずいかな…。

 楓花は、ナイトドレスの上に花の刺繍が施された薄いショールを羽織った。


 「お待たせしました。お風呂は上がりましたが…」

 「それではお着替えを…終わっていますね。御髪を整えさせていただいてもよろしいですか?」

 「はぁ…お願いします。」

 「では、こちらへ…」

 「あら便利ね!」


 ドレッサーが、タンスの中へと入っていた。

 扉が全開にされて折り畳まれる。なるほど…そうやって隠せるのか…。





 メイドは、お客様のお風呂の世話に来たが、風呂は一人で入ると言われてしまったので、部屋の外で待っていた。

 警備に当たっている騎士3人もドアの前で困っていた。

 本来、1名の騎士とメイドは部屋の中にいるものなのだ。

 供を連れていないために、執事長から命じられたものの入れてもらえない。これを報告してしまえば、自分たちのコミュニケーション能力が疑われてしまう。


 この真珠宮と呼ばれている本殿に宿泊できるお客様は限られていた。

 特に主であるヒシ家当主ケイ閣下は、女性を寄せ付けず浮いた噂もなかった。

 メイドや騎士たちは20代である。全員が子爵家や男爵家の子女だ。そして、このお屋敷に勤め始めようとした3年前に、親から言われた言葉がある。


 「ヒシ閣下は45歳だ。見た目に騙されることのないよう仕えよ。嫁になれるようなら、そのように取り入りなさい。」


 そう言われて勤め始め、旦那様のお帰りの出迎えに出た時には驚いた。

 自分と変わらないか、年下にしか見えなかった。だけれど、優雅な表現や余裕のある態度や様々なところで、やはり年齢を重ねている事を感じる。

 毎日、多くの貴族の当主や子女からの手紙が届くが、女性から届くもののほとんどは、恋文だと聞いたことがある。旦那様がそれを読むことはないらしい。


 女嫌いだとも噂されていたけれど、メイドや給仕への態度は優しいもので、嫌われているようには感じない。だけれど、勘違いして色を仕掛けた女たちが、すぐに外へ出されたのも見てきた。


 その旦那様が、顔色を変えてグリフォンを飛ばし駆け付けたお相手だ。

 しかも、閣下のグリフォンに同乗してお越しになった。どう考えても特別なお方のはずだと、屋敷中の総力を挙げて部屋を整えたつもりだった。


 「お待たせしました、お風呂を上がりましたが…」


 ドアが開いて、なぜか「お待たせしました」と謝罪をなさった上で、「お風呂を上がりましたが…」と言葉尻は途切れた。

 タオルという旦那様もご愛用の布で、髪を包んではいたけれど、着ていたのは見たことのない布で出来たドレスだった。しかも美しい色とりどりの刺繍が施された、透けるほどにうすいショールを身に着けていらっしゃった。


 おひとりでドレスを着たの?

 しかもなんて美しい…豊かな胸の膨らみがわかる。くびれた腰と大きな女性らしいお尻へと布が流れ落ちている。

 いやいや違う、品定めをしている場合ではなかった。頭にタオルを巻いているのは、髪まではご自分でできなかったのだろう。


 「御髪を整えさせていただきます。」


 そう言って、騎士の1人と共に部屋へ入って自分たちの大きなミスに気が付いた。

 なんてこと!

 ドレッサーが隠れたまま!そりゃあ困るわよ!

 ドレスを着て、髪を整えようと思ったって出来る訳ないじゃない!

 ああ…これはまずい…。


 メイドは慌てていたが、出来るだけ静かに足早にドレッサーに近づき、両開きのドアを開けた。

 

 「まぁ便利ね!」


 驚きますよね。ドレッサーもない客室に通されたと思いましたよね?

 これ旦那様に言われたらどうしよう。どうにか取り繕うことはできないだろうか?


 「面白い仕掛けね。私、鏡があると眠れないので助かるわ。」

 「そうなのですか?」

 「ええ、鏡って少し怖い気がしない?」

 「思った事はないですが、どうしてそう思われるのですか?」


 気軽にお話しくださるので、つい質問をしてしまった。

 お客様へ質問するなど、失礼極まりない事だ。お友達や同僚と話しているのではない。ああ、失態に失態を重ねてしまった。


 「光を反射するし、何か違うものを映しそうだと思わない?」

 「なるほど、そういうものですか。」

 

 失態続きなのだけれど、あまりに気さくに話してくださるので、失態を忘れそうだ。

 それにしても、これほど美しく長い髪があるのか…。

 真っ黒な髪は、まっすぐなのに毛先だけは、内側にカールしていた。

 つやつやで、櫛がすっと通る。毎日丁寧に梳いている髪だった。

 

 楓花の髪も身体も、エリクサーにより急速に修復されていた。大きな怪我があって飲んだわけではなかったために、腕の神経や血管を修復するだけでは余力が大きく、肌のシミや皺も弛みから肌のキメまでもが修復されていた。


 


 鏡を見ている楓花は、自宅と比べると暗い部屋だったためにそこまでは気が付かなかった。薄暗いと難点が隠れるのね、くらいにしか思っていなかった。

 肌を治すついでに視力までよくなっていたけれど、その前の鑑定眼鏡で視力も自動調整されていたので、それにも気が付かなかった。

 あの眼鏡をかけてから、この世界では度の入った眼鏡をかけても、裸眼でもどちらでも全く問題なく見えるようになっていたのだ。



 メイドは髪を梳きながら、ショールに触れないように細心の注意を払っていた。

 この薄絹のショールに櫛を当てようものならどんな惨劇になるのか…考えるだけでも恐ろしすぎる。

 これほどの刺繍を施すなら、何年もかかるに決まっている。しかも近くで見れば見るほど、均等な力で縫われていることもわかる。これほどの技術の結晶…傷つけるわけにはいかない!

 髪を梳いては、お客様のタオルで髪の水をふき取る。




 ドレッサーの前で髪を梳いてもらっている楓花は、美容室よりも丁寧に梳いてくれていると感心していた。

 濡れている髪をあまり梳くと枝毛が出来るなんて思っているとタオルで拭いてくれる。

 さすがはメイドさん、お世話に慣れている。


 ショールに緊張しているなんて夢にも思っていない。

 このショールは、珍しく楓花が一目ぼれして購入した品ではあった。機械刺繍でショールを囲う形で花があしらわれていた。楽市天国で2990円の品だ。気に入りすぎて色違いで4枚も購入していた。




 部屋にノックがされ、女性騎士が入ってきた。


 「失礼します。」

 「どうしました?」

 「閣下から、まだお休みでないのであれば、晩餐はいかがかと使者が来ております。」

 「わかりました。いただきます。」

 「かしこまりました。そのように。失礼しました。」


 女性騎士が部屋を出た。


 「では、着替えないとね。」

 「え?ドレスですよね?」

 「これは寝るための物だもの、ディナーには失礼でしょう。」


 楓花は立ち上がると、バックからドレスを取り出した。

 この世界の様子を見て、結婚式に来ていたドレスたちを引っ張り出して積んでいたのだ。ドレスコードの程度がわからない。


 「ねぇ、どの程度のドレスがいいのかしら?」

 「今着ていらっしゃるドレスのように裾が長いもので、ディナーですからできれば肩が出るものがよろしいかと…。」





読んでくださりありがとうございます。

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