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商隊の者たちは、飛び立つグリフォンを見送った。
「さてと、俺たちもヒシフォートへ向かおう。」
一番近い領都であり、今来ていたグリフォン騎士団のいるヒシ家の都だ。
馬を走らせると1時間で到着できるが、隊列を組んで向かうと3時間から4時間は掛かってしまう。会頭たちが解放されるのがいつかはわからないが、被害者なのだから滅多な事はないはずだ。自分たちは早く着いて、会頭たちが出てくるのを待たなくてはならない。
「それにしても、美味しかったですね。」
「ああ、昨日から今日の料理まで夢みたいなご馳走だった。」
「それに、ガードの中ってすごいですね。風は弱くなるし、嫌な湿気もなかったです。」
「本当に…死ぬものだと思った。あの魔導士様がいたのは、奇跡だしこの上ない幸運だった。」
「はい、本当に…私たち…今、生きているなんて信じられません。」
「そうだな。俺たちは生きている。それに…あのお方の料理は手早くて美味しくて…」
「ええ、料理人より手早かったですね。」
「本当に…1時間では、スープの1つも出てこないぞ。」
「はぁ~あの卵のスープ…しみわたる美味しさでした。」
「俺もそう思った。」
商隊は、各馬車で料理の話か怪我の治療の話で盛り上がりながら進んでいった。
一方の楓花は、グリフォンの上で必死に耐えていた。
直接的な風が苦手なので、バイクにも乗られない楓花にとって受ける風が辛い。
その上、高いところは大の苦手だ。足元があっても怖いのに、生き物に乗ってとなるとその恐ろしさはレベルが異なる。ジェットコースターなどは、目を瞑ってバーにしがみついても怖いのだ。
そんな楓花にとって、グリフォンの上はもう怖すぎて会話をできる状況ではなかった。
「橘様、着きましたよ。」
「はい…」
「こちらでは先ほどのように私をケイと呼んでください。私は楓花さんと呼びます。よろしいですね?」
「は…はい!」
到着したらしいが、震えが止まらない。
鞍の出っ張りを掴んでいた手の力が抜けない。握力なんてないから必死にしがみついた。楓花は、完全に前屈みで身体を縮めることで風圧を減らすようにしていた。
後ろから手が伸びてきて、手を包み込まれる。
「楓花さん、大丈夫ですから手の力を抜きましょう。」
指を1本ずつ持ち上げられていく。そこでやっと周囲を見回そうとして、背中に覆い被さった敬一郎さんが指を外してくれたことに気が付いた。
男性の幅のある身体に包み込まれている状態だった。
ひぇ…まずい…おばちゃん相手になんということをさせているのか。
敬一郎の色のない眼を思い出して、鞍から手を放し握って開いてを繰り返した。そこでようやく背中に風を感じる。
よかった。身体を起こしたものの、今度はその高さに眩暈がしてくる。1.5m?2mはあるかもしれない。中途半端に高く、飛び降りることのない高さだ。
「私が先に降りますから、そのまま座っていてください。」
「はい。」
背中を支えていた敬一郎がいなくなると、お尻がずり落ちそうで慌てて鞍を掴んだ。
降りた敬一郎を見ると、手を指し伸ばしてきた。
それって、腕に飛び込んで受け止めさせるってこと?
このおばちゃん体形の私を?
いやいや、その細い体で受け止められないって…。
「私の腕が嫌なら、飛び降りるしかありませんよ。」
「わかりました…すいません。ごめんなさい。」
ひぃぃ!
楓花は、なんとか手を放して敬一郎の首へと抱き着きながら体を下した。
「大丈夫ですか?首を傷めたりしていない?」
降りてすぐに楓花は怪我をさせていないかと不安になっていた。腰をやったとか言われたら一大事だ。
敬一郎は足がガクブルの楓花を見て微笑んでいた。案外力があるらしい。
重かったよね?
正直に言っていいのよ。
「大丈夫ですよ。女性1人くらいどうってことはありません。」
涼しい顔でそう言うと、マントを整えてくれる。
うん…25か6の将来有望な弁護士の子に介助されているよ。
40にもなって…でも、高いところから飛び降りるなんて怖いものは怖い。
「では、こちらへどうぞ。」
差し出された手を取ると、一緒に来た騎士たちの前を通って石造りの建物へと入り、階段を下りていく。
城の中へと案内され、応接間へと通されていた。
部屋には、敬一郎だけがいて2人きりだ。
ここまで来てやっと楓花は落ち着きつつあった。
敬一郎さんはこちらの人だったの?
それに、ここってお城?
いや、違う?
でも、お城っぽい。
今いる部屋は、12畳ほどでそこまで大きくはない。
天井が高いので、もっと広い部屋がたくさんありそうだ。
部屋の中央に、ビロードを張ったカウチと1人掛けのソファーがいくつかあった。
壁には飾り棚が1つ置かれている。
暖炉はあるけれど、夏なので片付けられていた。
さて、どうしてこうなった?
車は敬一郎が持っているので逃げることはできない。
「さて、まずは車をお返しします。ここに出しますから、楓花さんのバックに入れてください。それなら安心できますね。」
楓花は、声も出せずにコクコクと頷いた。
敬一郎がソファーを1脚移動させ、空いたスペースにキャンピングカーを取り出した。
楓花はカバンを開けると、サイドミラーにカバンを被せて収納した。
収納してこれでどこにでも行けると安心して振り返ると、敬一郎が笑うのを耐えようと握った手を口元へ当てているが、肩が揺れていた。
「え?何?何か変でした?」
「いえ…くっ…ちょっと…ふふっ…予想外の…あははは!」
堪えきれなかったらしい敬一郎が、大笑いをしていた。
え~?本当にどこが面白かったのか全然わからない。
敬一郎にとっては面白いどころではなかった。
声を大にして言いたいくらいに面白かった。
遺贈手続きであった時の楓花さんは、色のない瞳で表情も変えずにいた人だ。感情のすべてを失ったようなそんな人だった。
御大もどうにかしなくてはと思ったことは容易についた。
そんな人がこちらにいると手紙を受け取り、慌てて駆け付けた。
この世界最高峰である魔導士のマントを着て、にこやかにお茶を振る舞っている姿にあっけにとられた。
マントの意味も分からず、御大が入れていたものを着たのだろう。
大和の服装では目立つ、その程度の判断に違いない。
魔導士の訓練も受けていないのだから、魔導士がどのような態度で、どのように振る舞うのかを知らないのだから当然だと思いつつも、その姿は意外と嫌ではなかった。
グリフォンに乗せれば、体を小さく丸めて震えていていた。階段を降りるときも、足元がおぼつかないので1歩ずつ降りてもらったが、とにかく動きが見ていて不安だった。
車を収納するなら、後ろに回って梯子に下からバックに入れるとか、ドアのレバーを引いて入れるとか手段があるにも関わらずバックをがばっと開いて、サイドミラーにかけるから面白過ぎた。しかも、その時にはとても真面目な顔をしていたのだ。
「え~なんです?何が変だったの?」
「いえ、変ではっ…変っ…ケラケラ…」
楓花は、あまりに笑っている敬一郎に聞いてみるけれど、笑いすぎて返事になっていない。
部屋にノックがされると、敬一郎は笑いを止めて無表情となった。だが、肩はかすかに揺れていて、笑いを止めきれてはいない。
「なんだ?」
敬一郎がドアに向かって返事をした。ドア越しに声が返ってくる。
「お茶のご用意ができました。入ってもよろしいでしょうか?」
「入れ。」
「失礼します。」
部屋に入ってきたのは、メイド姿の女性だった。
猫耳!?
耳下できっちりとそろったおかっぱ頭で猫耳の手前にはカチューシャをつけていた。
猫耳メイドはワゴンを押して入ってくると、テーブルにドーム型のカバーが乗ったお皿を置き、大きなティーポットとティーカップ2客、取り皿を2枚とフォークとトングを置くと敬一郎に近づいた。
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