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未亡人が、遺産としてキャンピングカーを受け取ったら、大変な事になりました。  作者:
第3章 ヒシフォート

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5


 様子がおかしい。

 妙に丁寧な上に、礼を取られた。

 騎士団の団長という男の、丁寧な対応に楓花は戸惑う。


 「詳しいお話しをするなら、中へどうぞ。手首を出してください。」

 「はっ」


 楓花は、リハルドの手首にシールを貼った。


 「これで、中に入れます。あっ…取り調べは1人では困りますね。あと何人必要ですか?」

 「可能でしたら2人もお願いしたい。」

 「では、手首を出してくださいね。」


 楓花は、追加で2人の手首にもシールを貼った。

 それから、ガード内で聞き取り調査が行われた。


 時折、2人の騎士の内の1人が、ガード外へ走りメッセンジャーをしているようだ。

 楓花の聞き取りは、早い段階で行われたが、気が付いたら襲われていたので話せることは多くなかった。

 早々にガード内に入れて治療を始めたので、それどころではなかったというのが正しい。


 会頭さんや秘書さんが、答えるのを聞いて「そうだったのね」なんて思っていた。

 それにも飽きてきたので、キャビンへ戻ってお湯を沸かした。

 コーヒーは、この世界の人たち飲めそうもないわね。

 麦茶にしよう。

 気温が上がって汗をかいてくるくらい暑い。

 冷たい物が飲みたい。

 少しのお湯に麦茶のパックを10個ほど入れて煮だした。

 お水用の2Lポット5本に氷を入れて煮だした麦茶を注いだ。

 それをさらに水を入れて薄める。これで丁度いいくらいのはずだ。


 騎士の人たちには、紙コップに入れて飲ませればいいか…。

 楓花は、外に出るとポットを数人に渡してみんなに飲むように勧めた。


 リハルドと会頭たちのところに紙コップに入れたお茶を持って行った。

 それを渡すと、そのまま聞いている。



 リハルドは、かなり戸惑っていた。

 出された冷たいお茶は初めて飲むもので、とても香ばしくて美味しい。

 通常であれば、怪しいものに口を付けることはない。

 だが、目の前にあるのは騎士団の旗と同じ色合いの魔導車であり、主家の紋章が付いている。断るのは失礼というものだろう。

 御名を訪ねるとタチバナ・フーカ様だという。

 御大が、何度も口にしていたお名前だった。

 よほどの思い入れのあるお方なのだと思っていた方が、目の前にいるのだ。驚くなというのが難しい。

 そして、御大や閣下と同じ黒目・黒髪の持ち主だ。まったく関係がないというのは無理がある。ましてや数少ない魔導士だ。それも、かなりの使い手に見える。

 賊を先に連行させたが、一緒に現当主へ宛てた手紙も預けていた。

 1時間もあれば届くだろう。戻ってくるのに2時間はかかる。

 恐らくは、連れてくるようにと言われるはずなので、それまではここで取り調べをしなくてはならない。

 ならないのに、フーカ様は呑気にお茶をごちそうしてくれている。

 飲み干せば、「お代わりいる?」と聞いてくるのだから困ったものだ。

 こんなに美味しい飲み物を断る者はいないだろう。


 とても取り調べをしているようには、見えないだろうな。

 周囲を見ると、長い机の上に鍋がのっていた。

 大捕り物をした現場で呑気だ。

 かなりの大怪我をしていたと聞いていたのに、怪我人は見当たらずフーカ様が治癒させたという。


 「あれは?」

 「あちらは、フーカ様が作ってくださったスープです。とても美味でした。」

 「ほぅ…」


 「食べます?」

 「え?」


 戻って来たフーカ様に聞こえていたらしい。

 そんなに食べたそうだったかと、リハルドは恥ずかしくなった。


 「温めてきますね。」


 少しすると、トレーに3つのカップとスプーンがのって出てきた。

 見慣れないスープだったが、味わい深くうまい。


 「この白いのはなんです?ふわふわもっちりで美味しいです。」

 「それはニョッキです。お芋に小麦粉を入れて作ったパスタですね。」

 「この貝殻のような物は?」

 「それは、マカロニという小麦粉で出来たパスタです。」


 何を言っているのか半分も理解できないが、うまい事だけはわかった。

 そして、また茶をもらって飲んでいた。

 ふと暗くなった。

 伝令に出した騎士が戻ってきたのかと顔を上げて驚いた。

 目の前には、現当主閣下のグリフォンがいた。

 降りてきた閣下は、髪を乱していた。いつも澄ましているのに珍しい。


 「あら?」

 「楓花様、お久しぶりです。」


 かなり慌てた様子で走ってくることに、リハルドたち3人は驚きつつも立ち上がって敬礼をした。

 閣下には、ガードは効いていないようだ。


 閣下は、魔導士のフーカ様に近づき何かを話している。

 顔は真剣だった。これもまた人前ではあまり見せない表情だった。

 それに対して、魔導士は最初こそ怪訝な表情をみせていたが、今では緊張感などどこにもなかった。


 「ケイさん、とりあえずお茶をどうぞ。冷たくて美味しいわよ。」

 「いただきます。」


 閣下は、毒見もさせずにグイっと飲んだ。

 信頼している。それも相当に…。


 「はぁ、それにしても…いえ、いろいろとお話しがありますから、屋敷へ来てください。」

 「それはいいですけど…どうやって行けばいいですか?」

 「車を収納してもよろしいですか?」

 「はい、それは構いませんが…」

 「では、車に許可すると指示してください。」

 「あっ…ちょっと待ってまだ駄目だわ。」

 「わかりました。」


 「では、バウム・クーヘンとその秘書も騎士団で取り調べをする。商隊だけでも動けるだろう?」

 「それは、もちろんでございます。」

 「え?怪我はもういいの?」

 「はい、魔導士様のお陰で大きな問題はございません。この御恩は必ずお返しいたします。どちらにご連絡をすればよろしいでしょうか?」

 「それでしたら、アート…」

 「楓花様への連絡は、グリフォン騎士団本部に連絡をすればよい。彼女は、騎士団の相談役だ。」

 「なんと…やはり高名な魔導士様でしたか、存じ上げず失礼いたしました。」

 

 会頭と秘書は、隊への指示を出すと騎士団のグリフォンに乗って行った。

 楓花は、長机などを片付けると運転席へと乗り込んだ。


 「ナビ、菱沼さんが収納する。」

 『かしこまりました。』 


 楓花は、キャンピングカーから降りると商隊へと声を掛けた。


 「それでは、みなさんこちらを念のためにお渡しします。使い方はわかりますね。」

 「はい。」


 楓花は、初級消毒薬と癒し水を2本ずつ渡した。


 「では、ガードが消えます。皆さまよい旅を」


 駆け付けた菱沼敬一郎が、キャンピングカーを収納した。

 楓花は、促されてグリフォンへ乗り込む。敬一郎の前に乗っている状態で、後ろから抱きかかえられているのは、おばちゃんとしては申し訳ない気分になる。

 グリフォンの毛はふわふわとしていて、鞍がなければ掴まれないだろう。


 「しっかりと掴まっていてください。」

 「はい。お願いします。」



読んでくださりありがとうございます。

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