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「ん…おいしい…もっと…」
楓花は、ルーシーにペットボトルに挿したストローを差し出した。
ペットボトルは楓花が持っている。
「ルーシーさん、口で吸って飲んで…」
「うん…ん…」
後ろにいるケントから見ると、それは奇跡的であり、そして恐ろしい光景だった。
「まさか、あれって…」
傷を治す水を1本使って足を洗い、もう1本は飲ませてくれている。この間のテンの時にはかけて一晩寝たら治っていたのに…大盤振る舞い過ぎて恐ろしい。
しかも、少し飲ませてくれた薬の瓶…あれはエリクサーなのでは?
昔、貴族の護衛でオークションに同行した時に見た物と似ていた。
いくらエリクサーでも、膿んでいると完治は難しい。
だけど…その前にあの特別な水を使ってくれていた。これならもしかしたら…そう思うけれど、ここまでしてもらっていいのかと心配になる。
奴隷になって尽くしたって、尽くしきれる恩ではない。
楓花には、ケントの呟きは聞こえていない。目の前にいるルーシーを手当てすることに集中していた。
「なんだか少し楽になりました。」
「それはよかった。少し眠ってください。」
「ん…」
ルーシーさんは目を閉じ、穏やかな呼吸になった。
足の腫れは、かなり引いてきているようだけれど、念のために抗生物質の軟膏とワセリンを混ぜ合わせた物をガーゼに塗り付けて、それを傷のある場所に貼り付け包帯を巻いた。
「アーサーさん、お待たせしました。お薬を飲みましょう。」
楓花は、ルーシーが飲めたので、症状の重いアーサーには量を増やして与えた。
体を起こすことはできないようなので、スポイトで吸い上げて飲ませた。
このスポイトは、1本ずつパックされていて倉庫にあったのだ。おそらく万能薬を小分けするためのものだろう。
少し大きめの50mlのスポイトなので、飲ませるには使いにくい。
20mlまで吸い上げて、それを慎重に流し込んだ。
アーサーさんの喉が上下しているので、飲めてはいるようだ。
全部飲ませて様子を見ていると、アーサーさんの目が開いた。
「アーサーさん、気が付いてよかった。お水は飲めそう?」
「ん…」
「これを咥えて、吸ってください。そうしたらお水が飲めるわ。」
アーサーさんにも、ストローを差し出すと水を吸い飲み始めた。
お水が飲めるなら、少しは安心だ。
アーサーさんは、半分ほど飲むと眠ってしまった。
楓花は、ルーシーにしたのと同じように、抗生物質の軟膏入りのワセリンを塗ったガーゼを両手に充て、包帯で巻いた。
「顔色もいいし、これでひと安心ですね。」
「フーカさん…本当に女神様だ…」
「大袈裟です。このまま寝かせておきましょう。それでは、ハナさんとテンさんがお腹を空かせているでしょうから、料理を作りましょう。」
しゃぶしゃぶや鍋と思ったけれど、疲れてしまったのでキャンピングカーに戻り、生姜焼き風味の野菜炒めを作る。薄味に作り、自分の分には少し醤油をかけた。それに白飯、サンドイッチ用の食パン、適当に作ったオニオンスープだ。
「簡単ですけど、どうぞ。」
「治療していただいた上に、食事まで…」
「食事を一緒にするのが来た目的ですからね。どうぞ召し上がれ。」
「うわ~食べていいの?」
「どうぞ」
一人分ずつ盛り付けたので、ハナさんとテンさんはもりもりと食べ始めた。
ケントさんは遠慮していたが、一口食べるとそのまま勢いづいた。
テンさんとハナさんはパンを選んだが、ケントさんは両方を選んだ。
だから、お皿の上はもりもりだった。
「この白いのも、パンも肉に合う…。」
「そうでしょう?私はこのごはんが好きですけど、パンもいいですよね。」
「このパン好き」
「うん、治ったときに食べておいしいとおもったけど、やっぱりおいしい。」
テンさんとハナさんは、サンドイッチの印象が強いのだろう。
すごく楽になって最初に食べたものということで、いいイメージを持っていると思う。
食事を終えると、テンさんとハナさんが食器を洗ってくれる。
その間に楓花は、寝ている2人の様子を見に行った。
寝息を立てているけれど、とても穏やかなので安心できる。額にそっと触れてみる。熱は出てはいるが、それほど高くはなさそうだ。
「ケントさん、お庭に車を留めていても大丈夫ですか?」
「もちろん。」
「でしたら、そちらにいます。もしも、様子がおかしくなるようなら教えてください。」
「ありがとう。近くにいてくれるなら、安心だ。」
「手を出していただいてもいいかしら」
「はぁ。」
楓花は、ケントの手首に四角いシールを貼り付けた。
「これでガードに入れるので、車の扉にあるボタンを押して教えてください。」
「わかった。今日は来てくれてよかった。ありがとう。」
「はい、また明日来ますね。おやすみなさい。」
「おやすみなさい。」
楓花は、キャンピングカーへと戻った。
楓花は、お茶のティーパックをマグカップに入れた。お湯は先に入れてあり少し冷ましている。
正しいお茶の淹れ方ではないけれど、そもそも急須ではないのでかまわないだろう。熱いお湯だと渋みが強くなるので、少し冷ましてあるからいくらかましだといいけれど…。
「まぁ、美味しいかな?」
楓花はノートを見て、目的の事が見つけられず本を開いた。
【傷の治し方は、魔法のヒール、リペア、ハイヒールなどがある。
一般的な手当としては、水で洗うが水が汚染されていることも多く化膿しやすい。ポーションを使えば治せるが、膿んでいる部分は治せない。一般人がポーションを買うことは難しく。膿んだ場合は切断する事が多い。】
「だめじゃない…対処療法も究極すぎる。」
消毒薬とか、昔の赤チンのような物はないようだ。
今は、湿潤療法と言って傷口が感染していないなら、ジェルタイプの絆創膏を貼るタイプか、毎日傷口を洗ってワセリンで保護する方法もある。だけど、ここでは水の衛生状態が信用できない。
包帯も汚れていたし、衛生観念が低いのかもしれない。
だけど、あのペットボトルの水はおかしい。
楓花は、確認のために冷蔵庫を開け、水のペットボトルを見た。
「これ何?」
『水の入ったペットボトル500ml:普通の水。マイクロプラスチック7粒入り。』
「うん、見たくない情報までありがとう。」
ペットボトルを手に取ってみても、表示は変わらない。
やっぱり、ただの水よね?
そう思ってキャップを開けた。
一口飲んでみるけれど、ただの水だった。見えないけれど、マイクロプラスチック入り…。
楓花はじっと水を見ていた。
『癒しの水:わずかだが癒す効果がある。』
ん?
なぜ急に表示が変わったの?
全然癒されていないよ?
口を付けたから?いや、でもあの時洗う時には当たり前だけど口はつけていない。
楓花は、カップのティーバックをフリフリしてから外した。
大和でも、犬や熊に噛まれたら破傷風と狂犬病ワクチンなどいくつかの注射を数か月に渡って注射する。そういったものがなければあの膿み方もありえるのだろう。
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