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「フーカさん、何かありました?」
「いえ、ケントさん急に訪ねてしまって、ごめんなさい。」
「いや、それは構わないよ。」
「その…ちょっとね…。あっ…そうだ!お肉を持ってきたの、みんなで食べませんか?」
「肉?」
「オークを仕留めたから、お裾分けよ。」
「オーク!?」
「楓花さんが?」
「そうなの、ちょっとナイフの使い方とかね。」
「なるほど、そのためにわざわざ…ありがたくいただきます。」
ケントさんの言葉に、トレーに盛り付けたしゃぶしゃぶ用の薄切りと生姜焼き用のスライス肉を取り出した。
「こちらどうぞ」
「え…何?この薄さ…」
「すごい…きれい…」
「これ、楓花さんが?」
「ええ、まあ…ナイフがよいので…」
「いや、これはすごい。それで、これってどうやって食べたらいい?」
「他の皆さんは?」
「それが…」
「ルーシーとアーサーは怪我をして寝ているの。」
「怪我?見せてください。」
「いや…だが…その…ちょっと…」
「見せて!ケントさん、ひどい状態でも一応見せて。」
念のために付け加えた言葉にケントさんが頷いた。
隠したのはひどい状態だから?それって…どういう…。
2階のすぐの部屋に二人とも寝ていたけれど、かなり嫌な臭いが部屋に充満していた。膿んでいる独特の臭いだ。楓花は、そのまま窓を開けて空気を入れ替える。
これはかなりひどそうだ。
「準備してきます。少し待っていてください。」
楓花は、一度車に戻ると専用容器に入ったポーションを5本入れる。
それと水のペットボトルを10本、洗い流すには量が必要だろう。そして、抗生物質入りの軟膏も持ってきていた。それと救急箱だ。ガーゼや手袋、ピンセットなどが入っている。
天龍のチームハウスに戻ると、すぐに2階へと上がった。
ルーシーさんの足を見るとかなり大きく腫れあがっていた。
楓花は、ラテックスグローブを付けてから、包帯を取る。緑色っぽい膿が出ている。これは感染状態だ。
盥に入れるだけでは、この足は洗えない。楓花は、ゴミ袋に足を入れさせた。
「ケントさん、袋のここを持って広げていてください。」
「わかった。」
「ルーシーさん、足を洗いますよ。我慢してくださいね。」
楓花は、ペットボトルを開けた。その水を少しずつかけながら足の傷を洗っていく。洗えば皮膚が塞がっていく。膿みが出ているのなら、表面だけが治るのはよろしくない。中の膿が出てくる余地を残しつつ慎重に洗っていく。
「こんなところかな…。」
「治せない?」
「そうじゃなくて、中に膿が溜まっているから出てくるようにしないといけない…。傷を完全に塞ぐと膿の出る場所が無くなって、中に溜まってしまうわ。よく洗ったから、少しこのままにして、中に溜まっている膿を出したいかな…」
「なるほど…」
「この体勢はつらいでしょうから、一度足を拭きましょう。」
ルーシーさんの足を袋から取り出して、バスタオルの上へと乗せた。足の傷口から膿が流れて出てくる。
洗い流した傷口はグジュグジュとしていて、なんだかわからない。こういう時はアレの出番だ。今の大和では、衛生的に過ごせているから湿潤療法ができるけれど、こういった傷なら消毒するしかない。楓花は、プラスチックのボトルを手にすると、シュッとひと押しして液体をかけた。
「うぁぁぁ!!」
ルーシーさんの体は飛び跳ねたけれど、傷口は確認できるようになった。
ケントさんが、身を乗り出して傷口を見た。
「今、使った物は何?」
「消毒しました。」
「消毒?」
「よくないものの働きを一時的に抑えます。」
「そんなものがあるのか?」
「ええ、まぁ…このまま少し様子を見ましょう。」
ルーシーの元を離れた楓花は、アーサーのベッドへと近づく。
「アーサーさんは?」
「アーサーは、右腕も左腕も…腕を獣に噛まれてしまって…」
「そうですか…」
アーサーさんは、かなり高熱が出ているようで、顔も体も赤くなっていた。汗がひどいのに、両手はバスケットボールほどに腫れ上がっていて、原型がわからない。
楓花は両手のラテックスグローブを交換した。
アーサーさんに声をかけても、意識が朦朧としているようだ。
こちらも片手ずつ袋に入れてもらい、水をかけて洗い流した。袋にたまった水は嫌な色になっていた。どう見てもかけた水の倍くらいはありそうだ。増量分は膿が出てきたのかな?
両サイドにバスタオルを敷いて、腕をそれぞれ乗せる。
洗い流したからか、少しだけ腫れが引いていた。
「アーサーさん、消毒するので我慢してください。」
アーサーさんが、薄く目を開けた。
「ケントさん、アーサーさんの口にこれを噛ませて。」
「わかった。」
楓花は、タオルハンカチをケントへ渡した。
先ほどのルーシーさんを驚かせた反省だった。
痛みが強いようだから、噛むものを渡して覚悟をしてもらう。
それをアーサーが噛むのを確認してから、消毒液のプラボトルをプッシュした。
アーサーさんは、ハンカチを必死に食いしばっていた。
腕を見ると、傷口がわかるまでに改善はしていた。牙の痕がいくつもあった。これで肉を食いちぎられなかったのか…。それはそれですごい。
「少しこのままにします。」
この世界だと効果がわからないので見守る事にした。もしかしたら、薬品焼けのようになってしまうのかもしれないと少し不安だった。
ルーシーさんの元へ戻って見てみるが、悪化している様子はない。
これなら大丈夫だろうか?
「ん…」
ルーシーさんが薄目を開けた。
「ルーシーさん、楓花です。わかりますか?」
「うん…どうしてここに?」
「お肉をお土産に持ってきたの。お肉は食べられないでしょうけど、何か食べられそう?」
「ん…喉乾いた…。」
「それなら、お水ですね。少し待っていて。」
楓花は、水ボトルのキャップを開けると、ストローを挿した。
飲ませようとして、はたと気が付いた。
「あの…コップありますか?」
「ええ、もちろん。」
ケントさんが、持ってきたコップにバックに入れてきた万能ポーションを少し注いだ。
それをゆっくりと飲ませる。
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