9
「ギルマス大丈夫ですか!?」
「え?」
「ん?」
椅子の上には、上半身裸の少年と頭を濡らしたセイヤさんが叫んでいる。
そして、濡れたタオルを持ったおばさんというのは、どういう絵に見えるだろうか?
「失礼しますね。リー頭の怪我は?」
「うん、治してくれた。」
「治す?…え?体にも傷がないわね。」
入ってきた受付の女性が、少年に近づいて体を見ていた。
会話からは家族のように見える。
「静まれ!」
セイヤさんが一括した。
その場にいた全員が背筋を伸ばした。
「これは他言無用。いいな。」
「はい!!」
全員が返事をして、少年と受付の女性、セイヤさんを残して下がっていく。
「リーさんというのね、治ってよかったわ。飴ちゃんどうぞ。お姉さんも。」
雰囲気に馴染めず、緊張感を解くために楓花は黒糖飴の包みを1つずつ渡した。
「ほらほら、これを食べて一息つきましょう。」
「はぁ…」
楓花が包みを開けて口に放り込むのを見て、リーと姉も口へ入れた。
リーにとって、それは初めて食べる甘い物だった。
年に数回食べられる果物が唯一の甘味だったのだ。それとは比べ物にならないほどに甘い。
「んー!!」
「ゆっくり舐めてくださいね。喉にもいいですよ。」
楓花は、のんきにそんなことを言っていたが初めて食べている3人は、もう声なんて出なかった。この信じられない甘さをじっくりと味わう他ない。
10分ほど静かになっていたが、誰もそれを気にはしていなかった。
楓花が好んで購入しているのは炭酸水であり、フレーバーの有無もあるが3種類に決まっていた。
そうではないペットボトルは、入っていたものだけれど普通の水のはずだ。だって未開封の市販品なのだ。
倉庫に入っていた容器に入っているポーションではない。楓花が開けたのは、間違いなく新しいペットボトルを開けたはずだった。
それでなぜ傷が治ったのか?
万能ポーション1滴で目が見えるようになる?
「うん、うまかった。こんなに甘いものは初めて食べた。」
「そうですか?セイヤさんはお子さんとかいらっしゃる?」
「息子と娘がいる。」
「お二人?」
「ええ、7歳と4歳で走り回っています。もう7歳だというのに落ち着きがなくて…」
「かわいい盛りですねぇ。」
「いや~まぁそうですね。」
「それなら、お土産に飴ちゃんをどうぞ。」
「え?いいので?」
「はい、守っていただきました。これではお礼にはなりませんが…」
「とんでもない。目を治してもらったので十分というか、何かしなくてはならないのはこちらだ。」
「あの…彼らは…その…」
「心配いりません。兵舎で取り調べを受けているはずです。」
妙に丁寧な即答だった。
これは、私が知る必要はないということ。それがこの世界だというなら馴染むしかない。
「そうですか?それなら…目は治ってよかったです。飴ちゃんもどうぞ。」
「ありがたく、受け取る。治療費はいくらくらいがいいだろうか?」
「それはいりません。私の車を守るための怪我です。セイヤさんはお近づきの印に、今後もよろしくお願いしますということで。では、そろそろ失礼します。」
「わかった。心からの感謝を。また来てください。肉も大歓迎です。」
「ふふっ。わかりました。また仕留めたら持ってきますね。」
「ギルマス!目が見えるようになったの?」
今頃、お姉さんが気付いた。
「ああ。信じられないだろう?奇跡だ。」
「まぁ…そんな事が…。」
お姉さんが驚いた様子でセイヤさんの顔を見ていた。
楓花はセイヤたちに挨拶をして、建物を出た。
今度は、問題なく守られていた。周囲の兵士に礼を言って飴ちゃんを渡してから、車を出した。
入ってきた南門までゆっくりと走った。外に出て塀の影になる場所まで走らせると、空間移動のボタンに場所を登録した。
さてと、一度アートンに行って、ハナさんとテンさんの傷の様子を確認してみようかな。
「ナビ、空間移動をアートンに設定。ガード50cm、ステルスにして。」
『かしこまりました。空間移動、目的地アートン。ガード50cm、ステルス設定にしました。』
『空間移動します。』
一瞬、真っ白になりアートンの外壁が見えた。
車のステルスを解除し、ゆっくりと走らせる。アートンの門をくぐるときには、手に入れたばかりの冒険者のキーホルダーが役に立った。
「楓花です。ケントさん、ルーシーさんいませんか?」
楓花は、天龍の玄関前に立ちノックをしながら声をかけていた。
室内から音がしたので大人しく待つ。
「フーカさん!?」
出てきたのは、ケントさんでその後ろからテンさんとハナさんも出てきた。
「フーカさんだ~!」
「ケントさん、テンさん、ハナさん、こんにちは。怪我の調子はいかがですか?」
「平気です。」
「普通に動けるよ~」
テンさんが、ペコリと頭を下げると服を脱ごうとした。
「待て待て、中へどうぞ。入り口でやることではない。」
「そうですねぇ…」
「申し訳ない。」
「狭いところですが、どうぞ。」
通されたのは、リビングダイニングだった。
石壁だった。シンプルな部屋だった。
大きなテーブルに、椅子が8脚置かれている。この間のメンバー以外にいるのだろうか?
勧められた席に座ると、テンが豪快に上衣を脱いで傷跡を見せた。
「あら、大丈夫そうね。痛くなったりする?」
「ううん、全然。前と変わらないよ。」
「そっかぁ、よかった。」
綺麗に治りすぎている。ペットボトルの水だったよね?
いや、抗生物質は塗ったのだった。でも、ポーションが入っていたかもしれないから、よく調べてみた方がいいかも。
今度、自分でペットボトルの水を用意して、入っていたものと変わらないか見比べた方がいいかもしれない。
読んでくださりありがとうございます。
アイコンタップと合わせて星印を★★★★★~★☆☆☆☆にしていただけると嬉しいです。




