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震えている場合じゃない。
楓花は、警報音を聞きながら、腰の剣に手を添えたものの…抜くことは、できなかった。
「ぐぁっ…」
くぐもった声を上げて、目前の兵士が倒れた。
私の後ろには、別の兵士が倒れていた。
その前では、セイヤさんが剣を抜いていた。
前に倒れている兵士も、後ろにいる兵士も、車の見守りを頼んだ時の兵士ではなかった。2人共ヘルメットもつけていない。
「フーカ様、怪我はないか?」
「なんとか…」
「焦った…」
「あの兵士さんはどこ?」
「ダイはどこだ!」
「すいません…います…」
車の下から、兵士さんが出てきた。いくらキャンピングカーで少し車高が高いと言っても、人が入られるほど高かっただろうか…。
かなりぎりぎりだったようで、ヘルメットは外し頭に擦り傷が出来ていた。
「無事だったか…」
「すいません。切りつけられたので逃げ込んでしまいました。」
「逃げたのでは、警備の意味がないだろう!」
「はい…や…すいません。」
「セイヤさん待って、怪我をしているからせめて手当を…」
セイヤが兵士さんを怒っているので、とりあえず止めた。
不幸中の幸いで、私は無事で兵士さんも生きていた。
兵士さんといっても、かなり若そうだ。
「フーカ様、申しわけない。今度こそしっかりとした者に警戒させる。」
「はい、お願いします。あなたは一度手当をしましょう。」
「すいません。ごめんなさい。」
騒ぎを聞いたのか、遠くから兵士らしき団体がやってきた。
「我々は、ヒルストンの見回り兵隊だ。事情を説明せよ。」
「はい、すみません。私がここで車を守っていたところ…」
「車?」
「はい、この魔導車です。」
「魔導士様が、このようなところに?」
「お肉を卸しに来ました。」
「なるほど。」
「ここにいる人達に見ていた者もいるだろう。聞いて回るといい。」
「わかりました。」
兵士たちは、兵士のふりをした犯罪者たちを連れていった。
彼らは生きているのだろうか?
甲冑なのだから、滅多なことはないと思いたい。
「つっ…」
「ごめんなさい。手当をしましょう。」
怪我をしてしまった兵士を連れて、買い取り所の中へと入った。
個室を借りて、甲冑を脱いでもらう。
まだ手足の細い少年だった。どう見ても小学校高学年か中学生だ。
大和の子供ほどの幼さはないけれど、体格は細い。
なるほど…これなら車の下へと潜れるかもしれない。
「水で洗うから痛いかもしれない。少し我慢してね。」
「はい…」
楓花は、バックの中から応急セットを取り出した。それと水のペットボトルだ。ラテックスグローブを付けてから、傷口を見る。頭だから出血が多かったけれど、傷口は大きくはない。傷に水を当てやすいようにこめかみの髪をかき分けた。
バスタオルを当てて頭から顔にかけてついた
傷をペットボトルの水で洗う。
洗い流しているだけなのに、傷はやはり消えていく。髪の毛のない傷跡のような物になった。この間も思ったけれど、この世界の人たちの回復力には驚かされる。
「ん」
「体の傷も洗ってみようね。」
「うん…」
子供らしい返事がほほえましい。
楓花が、兵士の手足の傷を拭いていくと傷が治っていく。
セイヤは、ただただ驚いて見ている。
「大丈夫そうですね。」
楓花が立ち上がる。
セイヤが、楓花に椅子をすすめた。
「フーカ様、申しわけないのだが…その水でこの傷跡を拭いてもらえますか?」
「セイヤさんのお顔ですか?傷としては治ってしまっているのに?」
「ええ、ですが…貴方なら治せたりはしないかと…。」
「無理だと思いますが…水を掛けるから冷たいですよ?いいですか?」
「ああ、構わない。」
「お顔ですからねぇ…横になるといいかな?ソファーにしましょうか」
横になったセイヤさんの顔の近くに膝をついた。
鼻から口に水が入らないようにタオルを当て、別のタオルを水で湿らせてポンポンと当てていく。
少し長く当てて傷が消えるように祈った。
「消えないですね。」
「そうか…でも、気持ちがいい。」
「そう?水をそのままかけてみましょう。少し我慢してくださいね。」
「ん…」
「少し薄くなったような気もするけれど消えてはいませんね。ご期待に沿えずごめんなさい。」
「いえ、だめもとでしたから。ありがとうございます。治っても治らなくても、妙にじんわりと気持ちがよかった。」
「あっちょっと待って、これを少したらしてみます。」
楓花は、高級ポーションを1滴垂らした。
傷のひきつりがかなり薄れていく。少し見えていた白目が見えなくなった。それだけでも印象はかなり変わった。
少しは見やすい顔になったかしら?
「ん…なんだかすごく楽だ。」
そう言いながら、セイヤさんの両目が開いた。
右目は傷がひどかったはず…。目はもうだめになっているように見えたけれど…。
「セイヤさん?」
「え?…ええええ?」
セイヤさんは左目を閉じて手をかざして見ていた。
「見える…」
傷は残っていて、まだひきつってもいるけれど、会った時よりは薄くなっていた。たとえ片目が見えていても、もうひとつが見えるか見えないかは大きい。
楓花は、ポーションの瓶をバックに入れた。
「うぉぉぉおおおお!!!」
セイヤさんの雄叫びに、数人が駆け込んできた。
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明日も、18時と19時30分の2回更新予定です。




