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楓花は、ヒルストンの南門から100mのところに到着した。
楓花はキャンピングカーを停めてキャビンへ移ると、装備を確認した。
トラブルがあっても、自分を守らなくてはならない。剣を助手席に置き、剣を携えるベルトをウエストポーチの上に取り付けた。
さらにマントを着た。目立たないようにベージュ色の方だ。
「ナビ、ステルス解除。」
『かしこまりました。ステルスを解除します。』
車を走らせて門の前へ行くと、甲冑を着て槍を持った人たちがいた。
車を見つけた兵士2人が槍を構えてバツ印を作る。
その脇にいた兵士4人が槍を立てて近づいてきた。
完全に不審者に対する対応だろう。
楓花は緊張して、窓を少しずつ開けた。
「魔導士様ですか、どういった訪問でしょうか?」
一応、丁寧に聞いてくれた。魔導士ってまたか…面倒だし訂正はしない。
楓花は兵士たちの様子を見ながら窓を開けた。
「お肉を売りに来ました。」
「肉ですって!?このヒルストンに?」
「はい、オークとブラックベアーを買ってもらいたくて…」
「オークにブラックベアー!?わかりました!どうぞ、中へお入りください。まっすぐに走ると、広場の先に冒険者ギルドがあります。最初に出てきた茶色い建物の前に止めてください。」
「広場の先ですね。ありがとうございます。」
兵士の見送りを受け、楓花は塀の内側へと入っていった。
門を入ると、石畳が続いていた。
アートンとは異なり、白い石を積み上げられた建物が並んでいた。その中に、茶色い石でできた建物が見えた。とても目立つ。
「あれかな?」
車を停めると、入り口に立っている兵士2人のうちの1人が走ってきた。
体が細くて薄い。まだ少年らしい。
「こんにちは。」
「こんにちは、ヒルストンへ、ようこそ。魔導士様、ご用件をお伺いします。」
また魔導士?
なぜ魔導士と呼ばれるのかよくわからない。でも、そうか…マントには身元保証がついていた。そのせいかな?
「お肉を売りに来ました。初めて来たのですが、買い取りしてもらえますか?」
「魔導士様、他の冒険者ギルドの登録証などはお持ちでしょうか?」
「ないです。どうしたらいいでしょう?」
「では、私が魔導車を見ていますから、先に登録をしてください。」
「ありがとうございます。では、お願いします。」
楓花は、キャンピングカーを降りた。ガードは発動しているので、そう問題は起きないはず。
建物の中に入る。自然光のみの明かりの中で人々は仕事をしているようだ。
勝手がわからないので聞いてみるしかない。
楓花は人の少ないカウンターに向かった。
近づくと、顔に大きな傷のある男が腕を組んで下を向いて座っていた。
右目の周辺に大きな傷があり、白目が少し見えているので、片目は見えないのだろう。がっちりとしていて、背は高いけれど身体は細い。
「すいません。初めて来たのですが、登録をお願いできますか?」
「ん?」
担当者が顔を上げて、楓花を見た。上から下まで視線を走らせていたが、一瞬胸元へと視線を止めた気がする。
「魔導士様が、うちに登録ですか?」
「オークのお肉を買って欲しいのです。その為には登録すると聞いたのですが…。」
「肉ぅ?まじで?売ってくれるのか?」
「はい。車に積んできたので…。」
「すぐに登録手続きをしよう。これに、名前と所属があれば…ああ、ヒシ家だからそれでいい。」
「え?」
男が、自分の胸元をチョイチョイと突いて見せた。
楓花は自分を見ると、マントの胸元に菱形の刺繍が入っている。
なるほど、このマントが身分を保証してくれたようだ。これは遺産として引き継いだだけで、私の物ではないけれど…いいのだろうか?
受け取った紙を見て、男が声をあげながら楓花の顔と紙を見比べた。
「え?40ぅぅ!?」
「ギルマス!ご婦人に失礼です!」
後ろの女性職員が、注意してくれた。
ギルマスということはここのトップだったのね。
「はい…おばちゃんですみません…」
「いやいや、大声出してごめん。」
「いえ…。」
「俺はセイヤだ。肉を売ってくれる人は、大歓迎だ。」
近くに来た別の職員に、ギルマスが紙を渡して指示を出した。
「今、登録証を用意する。肉はどのくらいある?ここに持ってこないなら、荷車くらいの量はあるのか?」
「はい!」
「はぁ!?」
冗談のつもりだったの?
倉庫にある分を考えるとそのくらいにはなると思うけれど…。不安になってくる。いや、ブラックオーク1頭でもアートンでは賑やかだった。きっと大丈夫だ。
「オーク5頭分とブラックベアーがあります。」
「まじで?」
「はい。」
「すぐに荷車を用意する。どこにある?」
「正面に車を止めています。道路側に取り出せます。」
「わかった。すぐに行く。先に行って待っていてくれ。」
車に戻り、兵士に礼を言うと元の位置に戻った。
セイヤさんが、男数人で荷車を引いてやってきた。
「待たせた。」
「いえ、では出しますね。ちょっと重いので板を乗せてもいいですか?」
「ああ、もちろんだ。」
「今、取り出しますね。」
楓花が倉庫に入る。倉庫の床面から荷車にかけて、板をかけた。
「では移しますね。」
「ああ、頼む。」
楓花がビニール袋を板へと乗せていく。板の上を滑り落ちた肉は荷車へ落ちるのだけれど、途中で人が走っていって追加の荷車を持ってきた。
結果的に荷車6台分運んだようだ。1台に山積みにするわけではないから台数だけが増えたのだ。
肉を下ろしているうちに人が集まってきていた。
「これが最後、皮でこちらが耳、心臓と肝で…す…。」
楓花が倉庫から降りる。セイヤさんが、目を潤ませていた。
「女神だ!」
「ええっ…大袈裟な…」
「すぐに産婆の家へ知らせを出せ。」
「広場に肉の販売を知らせろ。」
セイヤさんが、周囲にいる人たちに指示を出した。
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