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未亡人が、遺産としてキャンピングカーを受け取ったら、大変な事になりました。  作者: 夢
第20章 深淵とは何か

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 聖女ならともかく、とうとう神格化されたのか?

 いや、そうか…彼女が聖女だからか。

 自分より上となると、女神になるのか?

 格上の聖女がいると考えないのか?

 よくわからないな。


 楓花さんを見ると、困惑している。

 それはそうだろう。

 神扱いされて喜ぶ大和民がいるとしたら、詐欺師くらいだ。


 聖女の求めに、他の枢機卿たちも指先を組んで祈るようにしている。

 楓花さんが、溜息をついて頷いた。


 「我がヒシフォートクラレンスの至宝であって、神ではありませんよ。」

 「かまいません。どうかお話しをする機会を与えてください。」


 聖女は必死だ。

 

 「わかりました。私、ただの人ですよ。それでよければお話しします。」


 楓花さんの承諾により、場を移した。


 場を移してしばらくは、聖女も枢機卿たちもまるで神の銅像の前にするように、跪き頭を垂れた。

 それから、聖水の復活という奇跡への称賛が続き、楓花さんがうんざりしていたので、敬一郎は口を挟んだ。


 「ここに来る信者の皆さんは、神様に何を祈るのですか?」

 「お金が欲しいと」

 「美人の嫁が欲しいと」

 「働き者の夫が欲しいと」

 「子供が欲しいと」

 「騎士団で役職が欲しい、そういった願いです。」


 そんなことを祈るのかと呆れていると、楓花さんが口を開いた。

  

 「それで、叶った時にはお礼はしますか?」

 「お礼?」

 「叶いましたありがとうございますとかしませんか?」

 「しませんな」

 「何のためにそんなことを?」


 お礼参りという言葉を知らないのか。

 この世界の宗教には、いや大和でも宗教に詳しくはない。

 正直、あまり関わりたくない。

 正月に人込みの神社へ行って参拝し、教会で結婚式をし、寺で葬式をする緩さで構わないのだ。真剣に信じているのなら、そういったブレはないはずで、八百万の神がいる大和育ちでなければわからない感覚だろう。


 「女神様ではないのなら、神には何を願いますか?」

 「私は願いません。主神には、日々過ごせることへのお礼のみです。大祭などでは、五穀豊穣や民の安寧を願いますが、個人の些末なことを神へ祈りはしません。」


 楓花さんから、まさかの民の安寧が出てきた。

 そこは、流石に数千年続く巫女の家系というところか。


 「元帥閣下は何を願いますか?」


 不意に話を振られて、苦笑いをした。

 学生時代には神頼みをしたことがあった。


 「そうですね…昔でしたら、入りたい学舎への入学許可が出ることを願ったことはありますね。あとは漠然と今年もよい年でありますように…。健康で過ごせるように…などでしょうか?」

 「それだけですか?」

 「それだけです。後は、主神ではなく学問の神様に願ったり、恋の神様に願ったりしたことはあります。」

 「学問の神様ですか?」

 「ええ、昔のとても賢い方を学問の神様として奉っていたので、そこへ…。」

 「なんと…」

 「お二人はなぜ主神へ願わないのでしょうか?」

 「そうですねぇ…お会いしたこともないですが、個人の欲望を神様にぶつけるのは違うと思います。例えば…全力でお勉強をして努力した上で神様に願うことで、自分の不安を打ち消すというならわからなくもないですが、なんの努力もせずに結果を求められても神様だって困りませんか?」

 

 神職の者たちが首を傾げている。 


 「いい女を抱きたいとか、男が欲しいとか、金持ちになりたいとか、そんなことを願われてご自分ならどうします?面倒だなと思いませんか?」

 「それは神様だから」

 「神様なら、努力もしない。最低限の事もしない男にでも女を与えなくてはいけないの?漠然とした願いなんて、ただの欲望だったりしません?そんなもので神様を穢してしまうの?」

 「欲望などというな、望んで何が悪い!」

 「無礼な!」

 「欲望?」

 「ただの希望だろう。」

 「望んだだけだ。」


 枢機卿たちが激高し始めた。

 その中で、聖女だけが一人呆然と顔を上げた。



 「穢れるの?」


 聖女のつぶやくような言葉に、皆の視線が集まった。



 「たくさんの欲望を向けられ、時には願ったところで叶えてくれないと唾棄されて…。」 

 「聖女様、唾棄までは…。」

 「穢れるという言い方はよくなかったですね。でも、無理難題を言われ続け、努力もしない姿を見たら、耳を閉じませんか?」

 「はい、もう聞きたくないと思ってしまいます。」

 「叶えようもない沢山の願いが山積みになったら、見なかったことにしますよね?」

 「それは…はい…」

 「もちろん、努力をして願っている人がいるとは思いますが…、皆さんのお話を聞く限り少数では?」

 「山積みの中に埋もれてしまっていますね…きっと…」

 「信徒の皆さんにそういったことを教えないのよね?」

 「はい。そんなこと…考えたこともありませんでした。」

 「これから、追加してもよろしいのでは?」


 なんとも重い空気になっていた。

 聖女様と楓花さんの問答を黙って聞いていた。


 楓花さんが立ち上がると、神楽鈴を取り出した。

 錫杖に3段に分けて合わせて15個の鈴がついている。巫女舞で使われる錫杖だ。

 

 「神様へ舞をひとさし奉じさせてもらいます。」


 巫女の装束ではない。

 だが、神殿にくるからとオーガンジーのブラウスに、足首まである180度まで広がるスカートを履いていた。髪は、巫女の時と同じように後ろに1本結びにしていた。

 

 神楽鈴を持ち、舞い始めた。

 一般的な奉納舞だ。

 シャンシャンと神楽鈴を鳴らしながら舞っている。

 通常は、10代後半の少女たちの舞だが、楓花さんが舞っても違和感はなかった。


 

 舞を終えて、神楽鈴が収納された。

 誰も言葉を発せず、楓花さんを見ているようだ。


 「ケイさん、帰りましょう。」

 「そうですね。」


 聖女は思案し、枢機卿たちは先ほどの怒りはどこへやら、うっとりとしている。

 ジリアント伯爵や騎士たちに外2階に乗るように指示し、乗り込んだことを確認すると、 ヒシフォートへ空間移動した。


 

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