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聖女ならともかく、とうとう神格化されたのか?
いや、そうか…彼女が聖女だからか。
自分より上となると、女神になるのか?
格上の聖女がいると考えないのか?
よくわからないな。
楓花さんを見ると、困惑している。
それはそうだろう。
神扱いされて喜ぶ大和民がいるとしたら、詐欺師くらいだ。
聖女の求めに、他の枢機卿たちも指先を組んで祈るようにしている。
楓花さんが、溜息をついて頷いた。
「我がヒシフォートクラレンスの至宝であって、神ではありませんよ。」
「かまいません。どうかお話しをする機会を与えてください。」
聖女は必死だ。
「わかりました。私、ただの人ですよ。それでよければお話しします。」
楓花さんの承諾により、場を移した。
場を移してしばらくは、聖女も枢機卿たちもまるで神の銅像の前にするように、跪き頭を垂れた。
それから、聖水の復活という奇跡への称賛が続き、楓花さんがうんざりしていたので、敬一郎は口を挟んだ。
「ここに来る信者の皆さんは、神様に何を祈るのですか?」
「お金が欲しいと」
「美人の嫁が欲しいと」
「働き者の夫が欲しいと」
「子供が欲しいと」
「騎士団で役職が欲しい、そういった願いです。」
そんなことを祈るのかと呆れていると、楓花さんが口を開いた。
「それで、叶った時にはお礼はしますか?」
「お礼?」
「叶いましたありがとうございますとかしませんか?」
「しませんな」
「何のためにそんなことを?」
お礼参りという言葉を知らないのか。
この世界の宗教には、いや大和でも宗教に詳しくはない。
正直、あまり関わりたくない。
正月に人込みの神社へ行って参拝し、教会で結婚式をし、寺で葬式をする緩さで構わないのだ。真剣に信じているのなら、そういったブレはないはずで、八百万の神がいる大和育ちでなければわからない感覚だろう。
「女神様ではないのなら、神には何を願いますか?」
「私は願いません。主神には、日々過ごせることへのお礼のみです。大祭などでは、五穀豊穣や民の安寧を願いますが、個人の些末なことを神へ祈りはしません。」
楓花さんから、まさかの民の安寧が出てきた。
そこは、流石に数千年続く巫女の家系というところか。
「元帥閣下は何を願いますか?」
不意に話を振られて、苦笑いをした。
学生時代には神頼みをしたことがあった。
「そうですね…昔でしたら、入りたい学舎への入学許可が出ることを願ったことはありますね。あとは漠然と今年もよい年でありますように…。健康で過ごせるように…などでしょうか?」
「それだけですか?」
「それだけです。後は、主神ではなく学問の神様に願ったり、恋の神様に願ったりしたことはあります。」
「学問の神様ですか?」
「ええ、昔のとても賢い方を学問の神様として奉っていたので、そこへ…。」
「なんと…」
「お二人はなぜ主神へ願わないのでしょうか?」
「そうですねぇ…お会いしたこともないですが、個人の欲望を神様にぶつけるのは違うと思います。例えば…全力でお勉強をして努力した上で神様に願うことで、自分の不安を打ち消すというならわからなくもないですが、なんの努力もせずに結果を求められても神様だって困りませんか?」
神職の者たちが首を傾げている。
「いい女を抱きたいとか、男が欲しいとか、金持ちになりたいとか、そんなことを願われてご自分ならどうします?面倒だなと思いませんか?」
「それは神様だから」
「神様なら、努力もしない。最低限の事もしない男にでも女を与えなくてはいけないの?漠然とした願いなんて、ただの欲望だったりしません?そんなもので神様を穢してしまうの?」
「欲望などというな、望んで何が悪い!」
「無礼な!」
「欲望?」
「ただの希望だろう。」
「望んだだけだ。」
枢機卿たちが激高し始めた。
その中で、聖女だけが一人呆然と顔を上げた。
「穢れるの?」
聖女のつぶやくような言葉に、皆の視線が集まった。
「たくさんの欲望を向けられ、時には願ったところで叶えてくれないと唾棄されて…。」
「聖女様、唾棄までは…。」
「穢れるという言い方はよくなかったですね。でも、無理難題を言われ続け、努力もしない姿を見たら、耳を閉じませんか?」
「はい、もう聞きたくないと思ってしまいます。」
「叶えようもない沢山の願いが山積みになったら、見なかったことにしますよね?」
「それは…はい…」
「もちろん、努力をして願っている人がいるとは思いますが…、皆さんのお話を聞く限り少数では?」
「山積みの中に埋もれてしまっていますね…きっと…」
「信徒の皆さんにそういったことを教えないのよね?」
「はい。そんなこと…考えたこともありませんでした。」
「これから、追加してもよろしいのでは?」
なんとも重い空気になっていた。
聖女様と楓花さんの問答を黙って聞いていた。
楓花さんが立ち上がると、神楽鈴を取り出した。
錫杖に3段に分けて合わせて15個の鈴がついている。巫女舞で使われる錫杖だ。
「神様へ舞をひとさし奉じさせてもらいます。」
巫女の装束ではない。
だが、神殿にくるからとオーガンジーのブラウスに、足首まである180度まで広がるスカートを履いていた。髪は、巫女の時と同じように後ろに1本結びにしていた。
神楽鈴を持ち、舞い始めた。
一般的な奉納舞だ。
シャンシャンと神楽鈴を鳴らしながら舞っている。
通常は、10代後半の少女たちの舞だが、楓花さんが舞っても違和感はなかった。
舞を終えて、神楽鈴が収納された。
誰も言葉を発せず、楓花さんを見ているようだ。
「ケイさん、帰りましょう。」
「そうですね。」
聖女は思案し、枢機卿たちは先ほどの怒りはどこへやら、うっとりとしている。
ジリアント伯爵や騎士たちに外2階に乗るように指示し、乗り込んだことを確認すると、 ヒシフォートへ空間移動した。
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