14
「聖水が失われたのか?」
「そうなりますね。これ魔水ということはありませんか?」
エクシードは、真剣に見ていく。
全てを見て手を置いた。
「どれも水だ。魔水ではない。だが、聖水でもない。」
「そうですか。」
明らかにほっとしたような声が出た。
「なぜ魔水を疑った?」
「川に…ミレーヌ川が魔水になりましたので。」
「どういうことだ?」
エクシードの険しい表情を見て、敬一郎は訂正した。
「今は、清水になっているのでご安心ください。」
「は?清水だと?」
エクシードはそれを聞いて険しい表情になった。
その表情を見て、敬一郎は口を滑らせてしまったと気が付いた。
今は魔水ではないという情報だけでよかったはずだ。
「今代の聖女は本物なのか?」
エクシードの問いかけに、敬一郎は眉を寄せた。
今代は?
それではまるで、本物ではない聖女がいたみたいではないか?
訝しげに見ていると、エクシードは敬一郎の視線で気が付いたのだろう。
苦笑いを浮かべた。
「ん?ちょっと待て、矛盾していないか?」
「矛盾?」
「本物の聖女がいるのに、泉の水は水なのか?川の魔水を清水に出来るのに?」
エクシードは、矢継ぎ早に質問を重ねた。
「森の中に深淵が出ました。」
敬一郎は、質問には答えず報告をした。
「そんな時期か。」
「今回の戦いで、森人、鬼人、真人になった者がいます。」
「そうか…ふむ。後ろの森人2人がそうなのか?」
リハルドは小さく声を上げた。
ギルバートは声こそ出さなかったが、肩が一瞬揺れた。
「いえ、今回の戦いで森人になったのはリハルドだけです。」
「ふむ。そうか。」
「今回、深淵の魔石を清めました。」
「それはいつものことだろう?」
「いえ、今回は我々の元で清めました。形状は変わりませんでした。」
エクシードの目が見開かれ、そして視線が左右へ揺れた。
「そうか…深淵との戦いが終わったのならよかった。それに、森人を得られたのならば、僥倖である。」
その言葉に敬一郎たち3人の目は鋭くなったが、エクシードが気にする素振りは見えなかった。
「我が知っていることを伝えておいたほうがよさそうだな。」
「お伝えいただけるのであれば。」
「深淵は知っての通り、おおよそ50年おきに出てくる。だが、300年から500年おきに出てくる深淵は桁外れに強い。前回のそれから350年が経過しているそろそろ出てきてもおかしくはない。」
「300年から500年…周期…。」
「ああ、だが…幸いにも森人が2人もいる。これだけでも相当に恵まれているだろう。ケイもいる。次回の時にもお前たちが戦える。桁外れに強かったとしても、今回の深淵との戦いで得られたものを生かせるだろう。」
「だといいのですが…。」
「聖教会の泉は、清水に出来る聖女であれば、祈れば聖水になろう。」
「聖女の祈りですか?いつも祈っているのでは?」
「では、水のままなのは、祈りが足りないのであろうな。」
エクシードは、敬一郎の隣に置いているビールケースを見た。
「聖女の祈り以外に聖水にする方法はありますか?」
「他に?」
エクシードは少し考え、じーっとビールケースを見た。
「十分な情報であれば、差し上げますよ。」
「そうか。妖精が住み着けば…聖水が沸き上がる。」
「妖精ですか?」
「ああ。」
「エクシード、その情報では十分ではありません。」
「ふむ。では…この世界のどこかに、もうひとつ泉があるはずだ。場所はわからないが、そこにいる妖精を移せば聖教会の泉は聖水になるだろう。」
「それでは、元の泉はどうなるのです?」
「それはわからん。」
「それでは話になりません。」
「お前、場所がわからないことはどうでもいいのだな?」
エクシードがそう言ってにやりと笑った。
敬一郎は、表情を崩さないように注意を払った。
「場所がわからないと最初に仰ったではありませんか、そこを追求しても仕方ないのでは?」
「そうか?まぁ…そうだな。それ置いていくだろう?」
エクシードがビールケースを見た。
これ以上の情報はないのか?
だが、なんとなく今の情報だけでは納得がいかない。
敬一郎は残り半分を置くとアイテムバックへ収納した。
「おいっ…ケイ、置いていけ。」
「今の情報で?」
エクシードと敬一郎は睨みあう。
「これをやる。」
「これは?」
「記憶石だ。前回の深淵の時の爺の記憶だ。」
「御大の?」
「精神が弱ければ発狂しかねない。俺は参加していないが、爺も負担だったようで取り出したらしい。預かっていたものだ。」
「それは…私には耐えられないのでは?」
「そうかもな。」
エクシードの視線は後ろに向けられた。
「わかりました。使うかどうかはわかりませんが、貰っていきます。」
敬一郎は、ビールケースを取り出した。
エクシードがそれを受け取り、先に渡した瓶を入れ始めた。
その間に、敬一郎は袋に「御大、深淵の記憶」と書いてから記憶石を入れた。
直接触れられない状態にすれば、うっかり記憶を受け取ることはない。
敬一郎たちは、森を出るとグリフォンに乗り、ヒシフォートへと戻った。
しばらくして、聖教会の調査を終えた。
その間、教会関係者は国が用意した仮の宿泊所での生活を求められた。
人数がいるために、教会への巡礼者たちが使っている宿泊所を何か所も押さえられ、分散して生活した。祈りなどは教会方向へ向かって行われた。
その中で、限られた数人のみが国軍の付き添いの元で調査中の建物に入ることが許されていた。
聖地の清掃や祭壇への供物を捧げるなどは、継続することが出来ていた。
ここで警備をしているのは、調査を行っているのも戦いに参加した騎士兵士が中心であり、特に重要な役割には真人が就いていた。
そこへ、敬一郎の付き添いの元で楓花のキャンピングカーが入った。
読んでくださりありがとうございます。
リアクションと合わせて星印を★★★★★~★☆☆☆☆にしていただけると嬉しいです。




