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未亡人が、遺産としてキャンピングカーを受け取ったら、大変な事になりました。  作者: 夢
第20章 深淵とは何か

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8 楓花

 

 お正月休みの最終日、楓花は敬一郎からの連絡を受けた。

 聖水の追加とリハルドさんへ会いたいというので、ヒシフォートの真珠宮へ迎えに行った。

 前は門の外へ空間移動先を登録していたが、深淵との戦いの中で出入りが頻繁だったため、真珠宮の裏門を転移先に変更していた。


 「楓花さん、こちらの都合で申し訳ありません。聖水をいただきたいのです、出来ればエルが汲んだ水が欲しいのです。」

 「エルの?わかりました。向こうへ行ってから、エルに頼んでみましょう。」

 

 敬一郎を連れて、泉の家へと向かった。

 泉の家からリハルドさんが出てくる。

 スエットの上下というホームウエア姿でも、リハルドさんが着ると恰好がいい。

 

 「閣下。」

 「リハルド、元気そうだな。」

 

 敬一郎が声をかけると、リハルドは礼をとったまま顔を歪めた。

 

 「ケイさん、それで器はおいくつありますか?」

 「実は…100個ほどあります。今日中にとは言いません。入れられなかった物は次回にいただければ…。」

 「森の汚染はそこまでひどいのですか?」

 「汚染はひどいですが、それだけではなく…。」

 「それだけじゃない?」

 「説明をすると長くなるのですが…」

 「わかりました。では、とりあえず家へ入りましょう。」


 エルが出迎えてくれた。

 挨拶を終えたところで、直ぐに用件に入る。


 「エル、取り急ぎお水を汲んで欲しいのだけど、いいかしら?」

 「かしこまりました。いくつ汲みますか?」

 「それが…。100個ほどあるの。これからケイさんとお話しをする。容器が多いから話している間に汲める範囲で構わないわ。」

 「かしこまりました。」

 「汲んだら、いつも通りシートに置いてね。」

 「はい。容器はどちらに?」

 「多いから汲む場所で出そう。」

 「わかりました。ではこちらへお越しください。」


 敬一郎とエルが出て行ったので、楓花はお茶の準備をするためにキッチンへ立った。

 

 「リハルドさん、不自由はありませんか?」

 「不自由など…贅沢ですが、トレーニング以外に出来ることもないので…温泉に浸かってばかりです。」

 「それは、いいですね。」

 「でも、暇なのです。狩りに行くのは楽しかったですが、1人で出る訳にもいきません。」

 「それなら、魔法の訓練でもしてみますか?」

 「魔法?私は直接的には使う才がないのですが…。」

 「直接的?」


 わざわざそう言うのなら、間接的に使っているの?


 「それなら魔法は使えるのですね?」

 「多少は…剣に魔力を通して攻撃をする程度です。」

 「そうやって使えているなら、きっと他も使えるようになりますよ。」

 

 楓花は防御魔法の本を取り出した。

 バブルなどの魔法が書いている本だ。


 「これを写してもいいですよ。紙はこちらを使ってください。」

 

 リハルドは目を見開いた。

 

 「魔術書の写本をしてよろしいのですか?これは貴重な本なのでは?」

 「古い魔術書のようです。」

 

 これは手書きではなかった。

 版画のような手法で作られているようなので、それなりの数は出回っているだろう。

 これをわかりやすく写した本もあるが、そちらは大和語なのだ。リハルドさんには見せられない。


 「ありがとうございます。防御魔法でしたら、閣下をお守りするのに使えます。」


 リハルドさんは、そう言ったものの考え込んでしまった。


 「これ覚えてしまっていいのでしょうか?」

 「どうして?」

 「私が魔人になってしまったら、自分をガード出来てしまいます。」

 

 自分を守る術を持つことをそう考えてしまうの?

 リハルドの自分よりも敬一郎を優先する思考に驚愕していた。


 「確かにリハルドが魔人になったら、恐ろしいほど強いだろうな。」


 その声に、楓花とリハルドは目を向けた。

 敬一郎が、リビング入口へと戻ってきていた。


 「私は、このままではいつ閣下やフーカ様を傷つけてしまうのではないかと思うと、気が気ではありません。」

 「だが、リハルドなら大丈夫だ。気にせずに覚えてみろ。」

 「そうです。そんなことは気にしないでください。どうにか出来ます。」

 「ですが…。」


 自分の命より守りたいと思っているのは伝わってくるけれど、それはお役目だから?

 それだけでそこまで思えるものなの?

 昔の武家のような思想だろうか?

 体を張って、主君を守るのは当たり前だったはずだ。

 全然関係ないのに、維新直前時代「寮の食べ物がよくない」と母に愚痴の手紙を書いて切腹した少年を思い出した。

 不自由を愚痴ることも許されずに育ったなら、そうなるだろうか?

 祖父母のようにお国のためと口にする人と同じだろうか?


 「リハルド、私にはお前が必要だ。もちろん領のためにも、騎士団のためにも必要だ。」

 「閣下…。」

 「死ぬことは許さない。お前は私の元に戻る。」

 「閣下…。」


 敬一郎の静かな言葉に、リハルドが顔を上げて敬一郎を見つめている。

 楓花は動けず、見守った。

 私…なんだか…お邪魔よね?

 そう思いつつ、席を立とうか逡巡していた。



読んでくださりありがとうございます。

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