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未亡人が、遺産としてキャンピングカーを受け取ったら、大変な事になりました。  作者: 夢
第20章 深淵とは何か

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7


 「それで、ケイよ。どのくらいの時間が必要だ?」

 「こちらの都合もありますが、聖教会主神殿だけは2か月以内には地下へ到達するのを目標に努めます。」

 「それでよい。」

 「それと…閣僚会議では説明できませんでしたが、何故魔人を出さずに済んだのかについての回答をします。現在あの森へ繋がる川には清水が流れています。」

 「清水だと!?」

 「深淵がいたにも関わらずに?」

 「深淵がいれば通常は、魔水になり下流域へ流れ人を魔人にします。実際にそうなってしまった者もおりました。」

 

 閣僚たちの視線が、下流域にあるクリトン辺境伯へと向けられた。

 

 「我が城、領内の者は清めにより魔石となった者が幾人もおりました。」

 「それで魔水だと気が付いたのか?」

 

 クリトン辺境伯は目を伏せると首を振った。


 「残念ながら、最初に気が付いたのは私ではありません。」

 「そういえば、其方の妻は聖女候補であったな。」


 国王の呟きに、クリトン辺境伯は曖昧な笑みを浮かべた。

 

 「川に清草を植えると、魔を吸い上げます。植えられた清草の質が良かったようで、その下流域は清水となりました。」


 クリトン辺境伯は、誰が植えたかについては触れなかった。

 

 「清草を植えただと?」

 「清草は、魔水があるとその根源に近づこうと川上へと増えるのですよ。」

 「増える?そうなのか?」

 「私も初めて見たのですが、それは圧巻でした。川床に青々とした清草が育ち水の流れに揺れている様は美しく…。」


 クリトン辺境伯は、有耶無耶にするためなのか清草の美しさを滔々と語り始めた。普段寡黙な男なだけに、国王も閣僚たちもあっけに取られている。

 植えてどのくらいで増えたのかなど聞かれても困る。

 普通に考えて、数年単位は成長に必要そうなあの状態に数週間でなりましたとは、言えない。

 国王がご自身の目で確認することは無くても、この先視察などが入り状態がお耳に入るだろう。


 「クリトン辺境伯よ。落ち着き給え。」


 宰相が制した。

 

 「ともかく、清草により川下の水が清水になった。川から豊富な清水が手に入り、魔を流せたということか?」

 「その通りにございます。魔を洗い流した上で、閣僚会議でも話した通り大量のポーションを使いました。」

 「それだけで、魔人化しないのか?確かに、頻繁に清水で身体を清められることは今までなかっただろう。」

 「だが、前回は其方が知っている通り、ヒシフォートクラレンスの先代により、大量のポーションが供給された。聖女と聖騎士も参加し、聖水を運び入れていたはずだ。それでも彼らのほとんどは命を落とした。」

 「今回は、私が聖水を運び込みましたから…。」

 「それは、聖女と聖騎士が担ったのと同じではないのか?」


 敬一郎は、ゆっくりと息を吐きだした。

 アイテムバックから、聖水を入れたスプレーボトルを取り出した。


 「こちらは、聖水を入れた特別な噴霧器です。清水で体を清めてから、こちらをひと吹きしていました。皆さんは聖水を飲んだので、今噴霧してもその力を感じられないと思いますから、どうぞお持ち帰りください。」


 敬一郎は、国王、宰相へスプレーボトルを渡すと、閣僚たちにも1本ずつ渡した。


 「これが聖水?辺境伯たちには渡さないのか?」

 「作戦に参加した時に渡してあります。」

 「この容器は見慣れないが、教会で配布している物と比べても…。」

 「美しい容器に入った聖水とこのスプレーボトルを鑑定なさるとよいかもしれません。」


 敬一郎と宰相のやり取りに、クリトン辺境伯が加わった。

 それを聞いて、宰相は鑑定レンズを覗いた。

 国王が、この部屋に控えている侍従長へ声を掛けた。

 部屋の片隅に控えていた近衛騎士が廊下へ指示を出すと、間もなくメイド長が美しい瓶に入った聖水を運んできた。


 宰相が鑑定レンズで美しい瓶を手に取り、鑑定レンズを見た。

 それからスプレーボトルを手に取り、2種類を比較した宰相が呟いた。


 「比較にもなりませんな。」

 

 宰相の言葉では、真意がわからない。

 国王は、目を眇めて2つを見比べていた。

 同じ品を並べて鑑定した場合、比較出来る場合があるという。

 国王は、頷いて溜息をつき、どさりと椅子の背もたれへと背中を預けた。


 宰相がおもむろに立ち上がると、そばに控えていた侍従長とメイド長へとスプレーをした。

 霧状の聖水は、二人の頭へと降りかかり、メイド長が消え小さな魔石になった。


 「!?」


 その場にいた誰もが息をのんだ。

 侍従長は、呆然と隣へ転がった黒い魔石を見ている。

 近衛騎士が慌てた様子で国王へと近づく。

 国王は、近衛騎士にもスプレーをした。

 その近衛騎士は気にも留めず、国王をかばうように背を向け周囲へ視線を走らせた。

 どうやら、護衛のために駆け寄ったようだ。


 「陛下、お怪我はありませんか?」

 「ない。」


 国王は、侍従長の足元に転がった魔石へスプレーを掛けた。

 表面が透明に変わったが、中心は黒いままだ。

 それを小さなグラスに入れ込むと、美しい瓶に入った聖水を注いだ。

 聖水に沈んだ魔石の色に変化はない。聖水ではなかったようだ。


 「城内の掃除も必要なようだな。」


 国王の言葉に侍従長は苦しそうに頷いた。


 「では、こちらの聖水を献上いたします。」


 敬一郎は、先ほど取り出した10Lパックに手を添えて申し出た。


 「すまぬな。助かる。」


 国王は、グラスに入った聖水を捨てた。

 浸かっていた魔石は、黒いままだった。そこに10Lパックの聖水を少し注ぐと、さっと晴れ渡るように黒が消えた。

 聖水の効果は誰の目にも明らかだった。

 閣僚たちは、手元のスプレーを見詰めた。


 「ケイよ。ヒシフォートクラレンスへの授与は明日行う。明日は、今回の討伐についての授与ゆえ、其方には十分なものではないだろうが許せ。討伐後の…教皇などについては…後日としたい。」

 「かしこまりました。」



 その夜、全ての侍従と王宮付きのメイド、近衛騎士たちが聖水により清められた。

 侍従と近衛騎士の2割、メイドの4割が魔石となり、王宮は突然の人員不足と混乱に陥ったのだが、それは敬一郎たちの知るところではなかった。


読んでくださりありがとうございます。

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