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「教皇や聖騎士たちは、過去の深淵が出てくる度に「魔石は危険であると」即座に回収していたようですが、フォード卿からこの話を聞きそれが再利用のためではないかと疑念を持ちました。」
「大抵は3種類が順繰りに見つかっておりますが、2回前、3回前は魔石の一部を破壊しております。今回が前回と同じなら、その前の150年ごとに同じ形状の魔石が現れる状況とは異なっております。その理由もわかりません。」
宰相が立ち上がり、紙の束を横のテーブルへと並べ始めた。
「こちらへお越しください。元帥殿が用意した過去の深淵の魔石の形状や重さを描いた物になります。」
「王国が出来て827年ですが、建国20年目から深淵の記録がございました。16回分の記録のうち、討伐直後の記録は初期の5回と最近の7回しかありません。」
「こちらがヒシフォートクラレンスに残っている記録の写しです。」
宰相の並べた紙にヒシフォートクラレンスの写しを並べた。4回分は記録の重複であり、形状は同じだ。
「これとこれは同じだな。こちらも…。」
宰相が類似の形状の物を集め、年代ごとに並べた。
すると、欠けなどが生じてはいるが、増えている物はなかった。欠けなどがあるままに、数センチ大きくなっていた。
1枚2枚なら気のせいや魔物の特性といえるが、人の魔石でさえ同じものは2つとないのだ。それが3枚も5枚も重なるとなれば、偶然似ているでは片づけられない。
「ふむ…。」
国王が、それらの紙を眺めながら腕を組んだ。
「隣室で清めに成功したなら、次の深淵は50年後かもしれないが100年後になるかもしれないな。」
「フォード卿、ご苦労だった。」
敬一郎が退席を促すために声をかけた。
軍務卿がフォード卿の背中へ問いかけた。
「フォード卿、貴殿は神殿の奥にどのくらいの期間過ごした?」
「3年ほどです。」
「前回の深淵との戦闘前から真人だったか?」
「いえ、人間だったはずです。両親ともに人間で、周囲と同じように育ちました。」
「戦闘前に鑑定をしなかったのか?」
「残念ながら、鑑定に気が付いたのは戦闘後です。」
「そうか。また呼び出すかもしれない。」
「かしこまりました。失礼いたします。」
フォード卿が部屋から出ると、国王と閣僚だけになった。
「一度休みましょうか。」
「茶の用意をさせましょう。」
宰相の言葉を受け、出入り口に近い閣僚が立ち上がった。
「ケイよ。あのしゅわしゅわとしたコーラを所望する。」
国王の言葉で、閣僚はドアを開けるのを辞めた。
この男が持っている珍しい飲み物は、限られたメンバーの時のみ出してくれるからだ。
それならば、メイドはいないほうがいい。
「皆さんも飲みますか?」
「私は、しゅわしゅわは苦手だ。リョクチャをもっているならそちらがいい。」
宰相の言葉でコーラと緑茶を取り出した。
プラスチックカップに注いで渡していく。
この内々のメンバーの時にしか提供しないが、他者が毒物を入れる可能性を考えると自分にとっても安全な方策だった。
国王はコーラを一気に飲んで、げっぷをしていた。
人前でげっぷをするのは良くないとされているが、国王を咎める者もいない。
「そういえば、深淵に使ったのは聖水か?」
「そうですね…。」
「まだ持っているのだろう?」
「ええ、まぁ…。」
敬一郎は苦笑いをして10Lパックを取り出した。
先ほど遠目とはいえ見せているので、隠すつもりはなかった。
「このような容器も見たことはないが、これほどの量を見たのも初めてだ。」
「それはまあ、そうでしょう。」
「今まで教会の協力なく魔を封じられなかった。此度は知らせもせずに打ち取ったゆえ、今後も協力は得られぬようになる。」
「それは…。」
「あと2石を手に入れた時の対応だが…。」
「100年前後の間であれば、おそらくどうにかなるでしょう。ですが、出来るならばその前に教会の力を削ぎ、聖なる泉を取り戻したいですね。」
「教皇がおるぞ。」
「あれは、何者でしょうか。」
「森人でさえ400年と言われている。代替わりがあるとは言え、どの記録を見ても同じ人物にしか見えぬ。」
「何者であれ、深淵を故意に生み出しているとしたら、許せるものではありません。」
「それは、その通りだ。だが、証拠がない。証拠があったとしても、人は信じたい物を信じる。国と教会のどちらが信心を集められているかと問われれば、こちらは不利だ。」
「陛下が仰せになっては困ります。そこは国を信じよと…。」
「そのような事は言えるはずがなかろう。民の信任なくして、我は存在できぬ。」
王としては、弱い部分もあるが人はいいのだ。
この世界では珍しく広く考える能力がある方だ。
選民意識は強いが、この世界では当然の範囲内であり、どちらかというと柔らかい方だろう。
「あと100年のうちか…ヒシフォートクラレンスの姫君は、まだ若いのか?それともそなた同様に年を取らぬのか。」
国王の問いかけに、敬一郎は苦笑いを返した。
国への届け出では、32歳の貴族籍が存在していた。それを言っているのだろう。
楓花さんは、先代からあの泉を受け継いだからには、ヒシフォートへの聖水の提供は拒否しないはずだ。
それに、彼女自身エリクサーを飲んで身体を修復している。
事故の影響も病気も治っているはずで、大和人ならば100歳まで生きても不思議じゃない。女性は80過ぎが平均寿命だったはずだから、あと40年はあるだろう。
少なく見積もっても30年以上はあるはずで…イルルジオーネ時間では90年以上おそらく120年以上はある。万が一に備えて、聖水を保管させてもらえるなら、自分のアイテムバックであれば時間停止で保存可能だ。
30年の間に何があるかわからないが、聖水をお願いする機会は少なくないはずだ。今回の暫定量程度を事前に用意できるだろう。
「私も年は取りますよ。陛下と比べるとゆっくりですが…。」
「今代の聖女の力はあまり強くない。聖水の力も弱いのだが…。」
「どうぞ」
敬一郎は、カップに聖水を半分ほど注いだ。
国王はそれを受け取り、目を凝らした。
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