*閑話* 楓花の友人① *繊細な方は読まないでください。
不快に思う方がいるかもしれません。繊細な方は読まない方がいいかも…。
イルルジオーネでの深淵が決着後、楓花はお正月休みの残り4日分を自宅で過ごすことにした。
この家で過ごした時間など少ないのだけど、やはり自宅なので落ち着く。
体は重怠いので、1日はだらだらと過ごす。
お掃除をしていないのに埃もないのは、キャンピングカーと同じようにクリアかリペアか知らないけれど、きれいになる魔法がかかっているのだろう。
翌日になるとお出かけしようか考え始めた。
久しぶりに食事にでも行こうかな?
家にいても、肉も魚もイルルジオーネ産ばかり食べていた。
久しぶりに大和の食事をしよう。
休みはあと3日ある。
肉や魚を含めた食材も買ってこようか。
転送されてきた郵便物を見ていると、年賀ハガキが数枚あった。
夫が亡くなってから、誰にも送っていなかった。
私が送らなくても、旧友が数人送ってくれていた。
年下の友人からも届いていた。
【子供が生まれました。 野乃花】
そのハガキを見て、慌てて連絡をした。
そういえば、この家に引っ越しして半年以上の間、毎日バタバタしていて友人とゆっくり話していない。
妊娠したのは知っていたのに、いつ生まれるのかあまり気にしていなかった。申し訳ないことをしてしまった。
お祝いは何がいいだろう。
時間も経っているから、現金のほうがいいかな。
それと…この月齢なら、そろそろ離乳食かな?
いつもの離乳食用の調理器具にしようかな。
家にある道具で十分だけど、専用の物はあれば助かるだろう。
使い終わったら捨てればいいのだ。
久しぶりに電話を掛けると何コール目かで応答した。
「楓花さん!!」
「野乃花さん、お久しぶり。今お電話大丈夫?」
「もちろん。連絡くれて嬉しい。」
「ごめんねー。ちょっとバタバタしていて、落ち着かなくて…。」
「そうなの?忙しかったならいいよ。落ち込んでいたんじゃないならいいの。」
「そうなの?ありがとう。そんな事より、出産おめでとう。野乃花さんが元気そうでよかった。」
「ありがとう。やっぱり楓花さんは楓花さんだ。」
「え?何?」
「だって、私の心配をして声をかけてくれる。」
どういう返し方なの?
野乃花の返答に戸惑う。
これは、元気ではなさそうだ。
赤ちゃんに何かあったのだろうか?それとも野乃花さんの身体に異常事態かな?
楓花は、次に掛ける言葉を探すけれど見つからない。
「せっかくだし、顔を見たいね。いつ頃時間ある?私は7日までお休みだから、あと3日あるけど…。」
「それなら、今日はダメかな?」
「今日?いいけど、今から出ても着くのは14時とかだよ?いられるのは2時間くらいかな?」
「それでもいい。来てくれる?」
その声が妙に不安そうだった。
「わかった。じゃあ、今から行くからね。お昼は途中で食べて行くから、気にしないでよ。」
「うん、待っている。気を付けて来てね。」
取り急ぎご祝儀袋を用意した。
ベビー用品を買う時間はなかったので、近所の菓子店のケーキを手土産にして向かった。
高速で飛ばしても2時間の距離だ。
友人たちで集まる時には、中央の県庁所在地だったけれど、2人で会うときにはどちらかに行く。
私が結婚前は、彼女の住む場所へ年に数回遊びに行っていた。
結婚してからは、彼女が来てくれて自宅近くで食事を共にしてきた。
彼女が結婚して子供が生まれたからには、私が行くのが続くだろう。
多分、今回の連絡は彼女なりに悩んだはずだ。
彼女は、私が不妊治療していたことも、子供がダメだったことも知っている。
年賀状では100日参りらしい写真が載っていたけれど、赤ちゃんの顔はおくるみでくるまれて写っていなかった。
おめでたい話なのに、気を使わせてしまったようだ。高速を走らせ、国道へ降りて少し走った。
彼女のマンションの来客スペースへと車を停めて、エントランスから連絡をした。
この家は、彼女が独身時代に購入した1LDKだった。
結婚しないつもりだった彼女が、結婚して子供を得るのだから人生はわからない。
「野乃花さん、おめでとう。」
「楓花さん、いらっしゃい。最近忙しいみたいだったから、年賀状での連絡にしちゃってごめんね。」
玄関で挨拶をし、家へ入るとき肘をひっかけてしまった。
「ひっかけた?見せて。」
「大丈夫、ちょっとひっかけただけ…」
見ると、3㎝ほどのひっかき傷線になっていた。
赤いし、一部には血が滲んではいるけれど、すぐに止まるだろう。
「洗面所お借りできる?洗い流したい。」
「もちろん、こっちに来て。」
腕を洗わせてもらって、ついでに手も洗ってからリビングへ移動した。
ビジネスホテルのように片付いていた部屋は、ずいぶんと可愛らしい雰囲気になっていた。
赤ちゃんのいる家だ。
リビングの一部にはベビーベッドと柔らかい敷物がしいてあった。
散らかっていないのは相変わらずだ。
「お部屋が可愛くなっているね。」
「うん、何もないのが好きだけど、赤ちゃんがいては無理だね。それより、連絡が遅くなってごめんね。」
「ううん。私こそ、前に断ったままでごめんなさい。これお土産のケーキ。」
「ありがとう。」
楓花は、お土産のケーキの箱を渡すと居住まいを正し、袱紗からご祝儀袋を取り出した。
「これ遅くなったけどお祝い。」
「ありがとう。気を使わせたね。」
「そんな事ないよ。お祝い事だよ。私も赤ちゃんにも会いたかったし。」
野乃花さんの手は少し震えていた。
精神的に不安定な子じゃないはずだけど、どうかしただろうか?
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