10 (気分が沈む方は読まないでください。)
楓花の苦しい自問自答があります。
落ち込みやすい方は飛ばす事をお勧めします。
読まなくても、大筋に影響はありません。
5日続けて繊細な方にはおすすめ出来ない話が続きます。
「お前は罪深い。いくつ罪を重ねるつもり?」
「ごめんなさい。」
「ごめんなさい。」
「ご主人様。」
「ごめんなさい。」
「ご主人様、ご主人様!」
目の前にエルがいた。
慌てて起き上がる。
そうだ、泉の家にいるのだった。
べったりとした脂汗をかいていて気持ちが悪い。
魘されていた。
いつもの夢だけど、実家に帰ったからかより鮮明だった。
「はぁはぁ…」
「おはようございます。お水を召し上がりますか?」
「ん…ありがとう…。」
声が掠れていた。
コップを受け取り、飲み干した。
コップを返すと、お代わりだと言って冷たいコップを渡された。
「冷たい…。」
「きっとさっぱりします。」
「うん…ありがとう。」
飲んでいると目元が熱い。
泣いていたみたいだ。
きっと酷い顔をしているだろう。
楓花はショールを頭から被ってシャワーを浴びに向かった。
「楓花の旦那様は、愛されているのね。楓花は生きているのだから、償うべき罪があるはず。」
あの事故から2~3か月が経った頃、母に言われた言葉だ。
神道からは外れた考え方だ。
仏教のどこかの宗派だったか、それとも…別の神のことだったか…。
母は、いつもの通りに適当なことを言ったはずだ。
もしかしたら、あまり考えずに小説か何かのセリフを流用したのかもしれない。私が早まることがないように釘をさしたのだと思う。
だけど、それは酷い言葉だ。
母の引用元の使い方はわからないが、私になんの罪があるというのか。
そう思うけれど、もしかしたらと思ってしまうものだ。
他意はなくとも他人を傷つける言葉はたくさんある。
言葉をどんなに選んでも、受け取り手次第なのだ。
わかっている。
わかっているのだ。
でも、夫を亡くし、お腹の子も失い、私自身も利き手の握力をほぼ失っていた。
それでどうにか生きていかなくてはならない状態で言われたのだ。
それもその状態を見ている母に…。
ショックだった。
私の泣き言に嫌になったのだろうとも思う。
だけど、それはあの時に言うべき言葉ではないはずだ。
あの母はいつだって、言わなくていいことを言ってくる。
「ご主人様、何かお手伝いしましょうか?」
エルの声に、慌ててシャワーを止めた。
タオルで体を拭いて、バスローブを羽織る。
「エル、髪を乾かしてもらえる?」
「はい。かしこまりました。」
エルは、余計な事は言わない。
頭に巻いたタオルを外すと、乾いたタオルで髪を拭いてくれる。
私が、顔や首へと保湿剤を塗っている間に、毛先にオイルを塗ってくれる。
顔にパックシートを広げて手で押さえていると、髪をドライヤーで乾かしてくれた。
髪を乾かす時には、手で髪を梳く。それが頭を撫でられているみたいでほっとする。
ヒシフォートへ顔を出さなくてはならないけれど、今は気分じゃなかった。
戦いは終わった。
聖水もいらないのだから、私が必要な仕事は多くないはずだ。
それから、ぐるぐると同じことを考えては打消し、また考えるループに入ってしまった。
2日間、エルに部屋まで食事を運んでもらい過ごした。
3日目になってようやくリビングへと向かった。
「リハルドさんお久しぶりです。」
「フーカ様、お久しぶりです。お世話になっています。」
「ここは勝手が違うことが多いと思いますが、不自由はありませんか?」
「いろいろな便利な造りに驚きますが、慣れてきました。あまりにも過ごしやすくて、自分の屋敷に戻って生活できるのか不安になるほどです。」
「必要な物で足りていない物はありますか?」
「もし可能でしたら、木剣でいいのであると助かります。今のままでは体がなまりそうで…。もちろん、まだ武器を持たせられないと判断なさっているなら従います。」
「木剣ですね。ご用意します。」
「ありがとうございます。」
リハルドさんは、ウッドデッキで筋トレのようなことをして、外を走り始めた。
野原のスペースを走っている。
ここでダラダラと過ごしてもいいのに、そうしないで自分を追い込んでいるようだ。それに加えて、川下に造られた温泉にも入りに行っている。
水をよく飲んでいるのは、早く現場に復帰したいのだろう。
楓花は、アートンへ行き、天龍のチームハウスへ顔を出した。
それから依頼をし、アーサーの伝手で木剣と一般的な剣を手に入れ、泉の家へと戻った。
リハルドさんは温泉に入ってきたようだ。
「リハルドさん、こちらをどうぞ。」
リハルドさんへ木剣と一般的な剣を渡すと目を輝かせた。
やはり、騎士様だから剣から離れているのは辛かったのだろうか?
「それと、もし良かったら獣狩りに行きませんか?」
「獣狩りですか?ここにいなくていいのですか?」
「そろそろ飽きません?魔の森に狩りに行こうと思って。ここに戻らないといけないので、4~5時間程度ですけど、お手伝いしてくれますか?」
「そういうことでしたら、喜んで。」
「一度アートンへ向かって、ケントさんやアーサーさんと合流しますね。」
「私がご一緒してよろしいのですか?」
「問題ないですよ?それに、私のガード内なら魔人になったら消えてしまうのは、リハルドさんです。」
「皆さんにご迷惑を掛けずに済みますね。安心してご一緒出来ます。」
リハルドから出たのは、苦しいほど割り切った言葉だった。
楓花には、返す言葉が見つからなかった。
リハルドさんの気を紛らわす提案が、彼に諦めや割り切りをさせてしまったのかもしれない。
エルが防具を出してくれた。
重要な部位は金属だが、それ以外は丈夫そうな皮が使われている。
動きやすさを優先した防具だった。
「リハルドさん、こちらの防具を使ってみますか?それとも、全身鎧がいいですか?」
「獣狩りでしたら、こちらを使わせてください。」
「剣は使えそう?もっといい物もあると思うけれど…。」
「いえ、こちらで十分です。騎士団で使っている剣と遜色ありません。」
「そうなの?それならよかったわ。」
リハルドさんを車に乗せ、空間移動でアートンへ向かった。ケントとアーサーを乗せると、魔の森のいつもの湖へと空間移動した。
ルーシーたちを呼ばないのは万が一に備えてだった。
魔人になったら消えると分かっていても、懸念事項がある以上は避けたかった。
楓花たちは、久しぶりにトラウト釣りを始めた。
20分ほどの間に、数匹の釣りを楽しめたが、その後はブラックベアーや角ウサギがガードに攻撃をしてきたために、狩をする。
ケントとアーサーは相変わらずの連携で、楓花とリハルドは2人のサポートをした。そのうちに複数個所から攻撃を受けたために2手に分かれた。
楓花は弓を使い、リハルドは剣を使った。
数体を仕留めたところで、囲いを付けて名札を付けたバケツを用意し、解体ナイフに任せた。仕留めた獣は、重いのでいつも通りにバックに収納し囲いの中へと運んだ。
楓花にとっては4カ月ぶりの獣狩りだった。
これでやっといつものルーティーンに戻れそうだ。
それから、連日にわたり二人を迎えに行っては、狩をしてまたアートンへ送った。
午後の狩りの時間以外は、ぼんやりと過ごしていた。
やるべきことはあるけれど、そんな気になれなかった。
考えてばかりはよくないけれど、どうしても考えてしまう。
それでも、自宅にいては悪い方に考えてしまうので、泉の家で過ごした方がましなのだ。
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