3
楓花はエルとの相談を終えると、彼らに声をかけて降りてもらった。
21人が梯子から降りてくる。
誰もが降りて数歩離れて固まった。
「フーカ様、神の国へ案内してくださったのですか?」
リハルドさんの言葉に一瞬固まった。
「違いますよ。こちらは泉の家です。」
「皆さんをお家には入れられないの。ごめんなさいね。」
私のせいなのにリハルドさんの目は暗く赤いので、少し怖いと思ってしまう。とても申し訳ないと思うけど、恐怖心は消えそうもない。
「とんでもございません。」
「この川の水は聖水だから、これを汲んでお風呂にして浸かるといいと思うの。冷たくてよければ、そのまま寝転がってもいいですし。」
彼らが降りている間に、テントが袋で用意されていた。
「皆さん、この子はエルです。5m以上近くには近づかないようにお願いします。」
「5m?わかりました。エル様、私はリハルド・トリドールと申します。我らを受け入れてくださりありがとうございます。」
「いえ、それはご主人様へ。」
エルは彼らと話したくないのかもしれない。素っ気ない態度に申し訳なく思った。
「皆さん、申し訳ないのだけど…しばらくはここで過ごしてください。ここの川は聖水なので浸かってもらいたいです。ただし、ここまででここから上は行かないようにしてください。」
「ここですか、わかりました。」
「このテントを使ってもらえたらと…。」
印が必要だと思い当たり、いつもガードの内側に使っている柵を張っていく。
張り終えてから、エルを見た。
「それと、お風呂はどうかなと思って…川の水だと冷たいから長く入れないでしょう?」
「それは、そうですね…。」
エルの視線が川から5mほど離れた場所へ動いた。
私もその視線を追って、見ていると窪みが出来て水が沸き上がった。
「なにこれ…」
近づいて見た。
『妖精の聖なる温泉:聖なる泉の主の求めに応じ妖精が掘り当てた温泉。魔を祓い、傷を治す。節々の痛みを緩和する。肌のきめを整える。』
「わぁ!温泉!!すごい効能!」
「これって、私も入っていいかな?」
「魔を入れるなら、その前にお入りください。魔が入って直ぐは汚れています。」
「そうなの?なら今度にするわ。」
彼らのために作ってくれたのだ。それに本人たちの前でちょっと聞かせたくない言葉だった。
「あ…コホン、皆さんのためのお湯だから私は後でも大丈夫よ。」
「最初に入ってみますか?皆さんには、泊まる場所の設営もしてもらいますから、まだ入れません。だから、入るならその間にしましょう。」
「フーカ様、我らはテントを張らせていただいてもよろしいでしょうか?」
「それはもちろん。申し訳ないけどお願いします。」
「でしたら、その間にフーカ様は温泉をどうぞ。フーカ様のために造られた温泉です。一番風呂は主のものです。」
「そういうもの?」
「そういうものです。」
魔に侵されて辛いだろうに、リハルドさんは気を使ってくれた。
ここで断るのも変だし、造ってくれたエルはお風呂の準備を始めている。断るのも野暮だと思い、入らせてもらうことにした。
エルが衝立や台などを用意してくれ、気が付けば立派な露天風呂が出来ていた。
お風呂は、優しく輝いていて、その前には川が流れ、奥には木々がある。美しい光景を見ながらお風呂に浸かるのは、なんとも贅沢な時間だった。
その間だけは、罪悪感から解放されていた。
もしかしたら、それは聖水の力によるものかもしれない。
お風呂から上がると、リハルドさんたちのテントも出来上がっていた。
彼らへお風呂を勧め、一緒に夕食作りをした。
食事を終えると、魔について書かれた本と聖水やその他補充品を車に乗せ、砦へと戻った。
砦では、敬一郎が指揮を執っていた。
私のうっかりのせいで、皆さんの予定を狂わせてしまっていた。
「ケイさん、戻りました。聖水の追加を持ってきています。」
「ありがとうございます。今受け取ってもいいですか?」
「ええ、もちろん。」
聖水を渡し、食事の準備を始めた。
皆疲れた顔をしていた。
今回のことで離脱者が多くなってしまい、申し訳なくて仕方がなかった。
皆が食事を始めた頃、私は第2ガードを強化した。
少しでも強くなれば、深淵の動きをさらに弱められるかもしれない。
「お願い、これで深淵を滅して…。」
聖水も今までのようにコップに数杯ではなく10L一本分近く、纏わせられる限界まで纏わせた。
不意に周囲が輝き、そして楓花の意識がぷつりと切れた。
読んでくださりありがとうございます。
リアクションと合わせて星印を★★★★★~★☆☆☆☆にしていただけると嬉しいです。




