1
楓花は、深淵の血に染まった騎士や兵士たちを見て血の気が引いた。
元々は、自分が怪我人に駆け寄った隙が原因だった。
私はガードがあるからと安心していた。
だから、戦闘中でも怪我人に駆け寄ってしまい、後ろに来た深淵に気が付くのが遅れてしまった。
私を守るために、ケントさんやアーサーさんが深淵の頭を傷つけた。
頭部を傷つけてしまえば、魔を帯びた血液を撒き散らす。
それは最も避けてきたことだった。
そうならないように、今まで近距離攻撃は極力避け、遠距離攻撃を中心にしてきたのだ。
ガードの発動中は大人しくなるといっても、攻撃を受ければ身を守るために抵抗するのは当たり前だ。
深淵が大きく頭を振りかぶれば、魔を帯びた血を撒き散らしてしまう。
ケントさんとアーサーさんが、深淵の舌を切り落としたのを機と見て、総攻撃が始まってしまった。
ケントさんやアーサーさんは、ガードの指輪で守られている。
だけど、他の方たちは違う。
彼らを守るのは、防具である鎧や兜だけだった。
傷があれば、そこから魔を吸収してしまう。目や口などの粘膜に付着しても魔を吸収するだろう。今までなら対応できていた。だけど、この量の血を浴びてしまえばどうなるのかわからない。
敬一郎さんから、深淵の血液の恐ろしさは聞いていた。
だからこそ、深遠の頭が下がるまでは弱らせるつもりだったのだ。
それなのに、血を浴びながらの乱戦だなんて…こんなの予想していなかった。
どうしよう、こんなに大量の血を浴びてしまっては、彼らが無事なはずがない。
深淵を沈黙させるまでは出来なかったが、ある程度の攻撃を終えたところで「撤退」の号令が出た。
私は、あまりの罪深さに足に力が入らない。
皆血まみれだった。
ケントさんやアーサーさんは私へと手を伸ばしてくれたが、血まみれの手を見てひっこめてしまった。
後方で指揮をしていた敬一郎さんが駆け寄って来てくれた。敬一郎さんの手を借りて、なんとか砦まで戻った。
怪我人はポーションで治っていたので、一緒に砦まで歩いてもらう。
怪我が治っても、失った血液が十分に戻っているわけでではない、ふらふらとしていた。
今回の作戦で血を浴びた人は、ヒシフォートの駐屯地へ向かってもらう。
ヒシフォートの駐屯地は砦の入り口近くでよかった。
ガードの効果を十分に発揮するための位置取りだった。
楓花は彼らが過ごすスペースを取るため、車を砦の入り口からほんの少し奥へと移した。
見る限り血を浴びていない怪我人は、救護所へ向かってもらった。救護所では、多めに聖水をかけてもらっている。問題があれば、こちらへ送ってくれるはずだ。
ヒシフォートの救護所近くでは、第1ガードへいれるために、シールを貼る人を置いた。
シールを貼る前に、その部位だけ化粧用のパフに聖水をつけて拭いてもらった。
運ばれてくる人たちは、深淵の血を浴びている。
もしも魔人になっていたら、ガード内へ入った瞬間に消えてしまうはずだ。
アシュレイ様の町であれほどの人が消えたのだ、この騎士や兵士の何人が残ってくれるだろうか。
楓花は不安に駆られながらも、車の蛇口にホースを繋ぎ、用意していたシャワーを取り付けた。
握ればシャワーが出るタイプの物で、庭の水まきなどに使う物だ。
それから、衝立を立てて3つの簡易シャワーブースにした。
「皆さん、防具を取り外して、今からお渡しする袋へ服を入れて、ここに並んでください。中に入ったら、服を脱いでそれも袋へ入れてください。用意したコップの水でうがいをしてください。終わったら順番に頭から水をかけます。」
集まってきた人たちに声をかけ、兵士の一人に袋係をしてもらう。
並ばせるのに5人、うがいの水を用意するのに1人、洗い終えた人が使うタオルや着替えを用意するのに1人だ。
血にまみれているけれど、お互い様でやってもらう。
汚れていない者には、念のためにゴーグルとマスクを着けてもらった。それから、ガードの指輪もつけてもらう。
敬一郎がやってきて、木箱を取り出した。
「これは着替えです。1箱に50セット、300着あるので使ってください。」
「ありがとうございます。助かります。」
「どうか皆を頼みます。」
敬一郎が頭を下げるのを、楓花は申し訳なく思った。
シャワーブースに人が入ったので、水をザっとかけて洗い流した。
水をかける役目は、数人に行ったが、シャワーから戻ったアーサーさんとケントさんが来てくれたので交代した。
洗い清めた人には、聖水を飲んでもらい、強い影響がなければ治療師へと送った。
治療を終えた人で影響の弱い人たちは、護衛をつけて森の入り口まで降りてもらった。
森の入り口に到着したら、石鹸を使って体を洗ってもらい、清水にしっかりと浸かって、身を清めてもらう手筈だ。
楓花は、途中で魔石を補充し、ガードや水が途切れないように気を配った。
私のせいで、沢山の人が傷つき、魔に穢されてしまった。
謝って済むことではない。
申し訳なさ過ぎて、そちらに思考が傾いた途端に足元から崩れ落ちそうだった。
手が震えていたが、なんとか震えを抑え込み、今出来ることへ向き合った。
魔の影響を強く受けた人は、瞳の赤さで機械的に分けた。そうしないと自分の罪に押し潰されてしまいそうだった。
外のシャワーでもかなり瞳が赤い人たちには、外2階に入ってもらいシャワーで石鹸を使ってもらった。
それを終えた人を楓花が治療していく。
目が赤い人を見るたびに目元が熱くなる。
慌てて目元を抑えた。
泣いている場合ではない。
リハルドさんやヒシフォートの騎士団に何かあれば、敬一郎さんに顔向け出来ない。
魔の影響を受け始めると流血を抑えるようだ。それでも、深そうな傷を中級癒し水で流し、消毒薬をかけた。軟膏を塗りガーゼで覆って包帯を巻く。
「楓花さん、消えた者はいないようだ。穢血を浴びてすぐに魔物にはならないようですね。」
楓花は、敬一郎の言葉にほんの少しだけ気が楽になった。
「よかった…。」
私に出来る事は、なんだろう?
体を洗い流し、怪我の治療をした。
あとは、清めるしかできない。
聖水はある。
泉の家の果物であれば、少しは魔を祓ってくれるかもしれない。
もしも魔人になってしまったら、消えてしまうだろう。
そうなる前に、少しでも清めて防がなくてはならない。
以前読んだ魔についての記述を信じるしかない。
読んでくださりありがとうございます。
リアクションと合わせて星印を★★★★★~★☆☆☆☆にしていただけると嬉しいです。




