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「リハルドさん、おひとりですし、この環境に体も慣れたと思うので、お家の方へどうぞ。」
「お家?」
皆が魔導車へ乗り込んだので、閣下に切られる覚悟をしていた。
だが、まだ見捨てられてはいないようだ。
フーカ様の言葉に希望を持ってしまう。
「私は3日に1回とか6日に一回とかで来るので、リハルドさんの一人暮らしになってしまいますが…。」
「そんなこと、居場所をいただけるならありがたいです。」
「私、皆さんをお送りするので、リハルドさんは家の中でお寛ぎくださいね。」
エル様の案内で家に入り驚いた。
見たことのない造りをしていた。
いや、フーカ様の魔導車の中に似ているというべきだろうか?
玄関に段差があり、靴を脱ぐことを求められた。
天幕での生活でも靴を脱ぐ生活だったが、何かこだわりがあるのだろう。
室内に入ると、すっきりとしていて装飾が一切排除されていた。
「こちらでお寛ぎください。」
「ありがとうございます。」
柔らかい椅子に座っていると、上質な紅茶が出された。
それにフーカ様が時々お持ちになる菓子まで供されてしまった。
「エル様、私がここで過ごすのは嫌ではありませんか?」
「なぜそんな事をお聞きになるのですか?ご主人様からお世話をするよう言われております。少々失礼します。」
エルは一礼すると、玄関へ向かっていく。
見上げると、部屋の明かりはシャンデリアではなく花の形をしており、発光していた。
装飾はないに等しいが、明かりまでがこのように美しいのか…。
「ただいま~」
フーカ様の声に立ち上がり、お迎えに出なければと思っていると、フーカ様と閣下が部屋へ入ってきた。
「リハルド、待たせたな。」
「いえ…。」
「楓花さんから、話を聞いたほうがいいだろう。」
「わかりました。」
居ずまいを正しフーカ様を見た。
「帰した方たちは、完治しましたが元通りという訳ではありません。」
「そうなのですか?」
「ええ、分かりやすいのは目です。魔の黒い靄が紫煙に、聖なる光も見えますよね?」
「…はい。」
返事をしたが、喉の奥がひり付く。
「他にもあるのですか?」
「こちらに来た皆さんは、体内に魔石を持っています。」
「魔石?それって魔人ですか?」
「そうと言うべきか、違うと言うべきか…。最初に治った方たちは、人間と真人でした。」
「真人…。」
「今回治った方たちは、鬼人でした。」
「鬼人…?」
「深淵との生き残りの一部は、鬼人となったと記録も残っている。」
閣下が、フーカ様の言葉を補うように言葉を重ねられた。
「そうでしたか。具体的に何が違うのでしょう?」
「寿命が延びるらしい。100年とも150年とも言われている。」
「それは…すごいですね。それを彼らには?」
「伝えてある。」
完治すると、新たな人種としての人生があるのか。
それも真人や鬼人とは、夢がある。
人生50年と言われているが、真人の寿命は100年、鬼人は150年と言われているらしい。今の話で、教会にある聖書にはそう書かれていたのを思い出した。
「リハルドさんはまだ治療中です。種族は確定されていません。」
「そうですか…。」
フーカ様の言葉に頷きつつ、閣下を見た。
「しばらくは、ここで過ごさせてもらうといいだろう。」
「はっ。お役に立てず申し訳ありません。」
「いや、私の差配ミスだ。お前たちをここまで危険な目に合わせるつもりはなかった。」
「焦っても仕方ありませんし、シャインマスカットをどうぞ。」
「シャインマスカットですか、はは…。」
閣下は疲れた笑いを浮かべると、ブドウを食べ始めた。
「シャインマスカットというのは?」
「このブドウの品種です。皮ごと食べられて種がないので食べやすいでしょう?」
「はい、とても美味しいです。黒い大粒のも美味しいですが、皮をむいて種を取るので、少々面倒ではあります。とはいえ、どちらも贅沢品ですし、甘くておいしい。」
「そうなのよね。巨峰はおいしいけど、指先が紫になってしまうの。」
「キョホウというのは、黒い大粒の物のことですか?」
「はい、そうです。」
「巨峰も数年前までは、贈答品に使われていましたよ。」
「今も使われてはいるとは思うのよ?」
フーカ様と閣下はブドウの価値について話し始めたようだ。
何度食べても不思議なほどに甘い。
シャインマスカットか…確かに輝いていて、名前の通りだった。
この家でも、広くはないが上等なベッドのある部屋が用意された。
朝昼晩と外の風呂に入り、一人で体を鍛え、素振りをした。
数日おきにフーカ様はやってきて、寛いでいらっしゃった。
いつもの柔和な表情ではなく、時には悩んでいらっしゃる様子もあった。
お越しになっている時には、邪魔をしないよう出来る限り外や部屋で過ごした。
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