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フーカ様がノートとペンを与えた兵士を中心に料理をしていた。
焼き台で湯を沸かし、スープを作っているようだ。
野菜は、生のまま聖水で洗い、切っただけで瓶に入った調味料をかける。
「料理に聖水を使うとか意味が分かりません!」
「聞いたことないな。」
「野菜を聖水で洗うなんて…。」
「それを言うなら、風呂にするのも…」
わははと笑いながら食べているが、これがどれほどありがたいか皆知っている。
ここにいたら、魔物化はしないだろう。
何をするにも聖水を使う。
聖水の湯に浸かることが仕事だと言われたようなものだ。
天幕の中のベッドへ転がる。
フーカ様のキャビンほどではないが、寝心地がよかった。
「隊長、俺たちあの岩場の砦でも6日に一度くらいは、フーカ様の魔導車で寝られたじゃないですか。」
「そうだな。」
「あれでかなり助けられたと思っていました。大魔導士様だと…。」
「ああ。」
「でも、違いましたね。」
違うといわれても、返す言葉が見つからない。
「魔人になっていただろう俺たちを、こうやってお膝元まで招いてくださった。聖水の源のようなこの場所で、こうやって過ごせるのは夢のようです。」
「それは、その通りだ。」
「明後日になれば、お手伝いが許されるのですよね?」
「そうだ。そのためにも明日も朝・昼・晩と湯に浸かり、聖水を飲んで穢れを払うぞ。」
翌日も、朝から風呂に浸かり、食事をしては風呂に浸かるという贅沢な時間を過ごした。
砦と同じ過ごし方だったが、周囲は明るく輝いていて、砦のような陰鬱な様子ではない。その差が、開放感を与えてくれていた。
昼にはエル様が肉と果物、それに野菜を持って来てくれた。
「大将、こんな贅沢許されるのでしょうか?」
「これも魔を払うためだ。有難くいただこう。」
「こんなことで魔を祓えるのでしょうか?」
「ひと吹きで表面の魔を祓う聖水をたっぷりと飲んで、浸かっている。きっと祓える。それに…鏡を見るとよい。」
「鏡?」
「ああ、鏡を見てみろ。」
兵士の目は、元の目の色に戻りつつあった。
瞳の中心だけは赤みがかっていたが、ほぼ元通りだった。
よく見れば、半数ほどの者たちの目がそうなっている。
すごい効果だ。
ここまで強い効果があるのか。
翌日の昼、エル様が食材を持ってやってきた。
「エル様、収穫のお手伝いをします。」
「わかりました。ではこちらへ。」
光の屋敷の奥へ回ると、畑と果樹園が広がっていた。
「畑は、今日はこの列を収穫します。それから、果物は実っているもので食べごろであれば、収穫してこの薄い籠へ並べて入れてください。」
「かしこまりました。」
リハルドたちは、畑の野菜の収穫を終えると果樹の収穫を始めた。
どの木も鈴なりになっていた。
「この手で皮が剥けるオレンジ、ここまで成るのか。」
「グレープフルーツみたいだな。」
「1本の木で相当収穫出来るな。」
果樹は同じ種類が数本ずつあるようで、あの皮ごと食べられるブドウだけではなく、大粒の黒っぽい葡萄もあった。
「これは?」
「こちらは、巨峰という品種です。手で皮を剥く必要はありますが、甘味が強く香りもよいです。」
「そうでしたか。」
「果物は、ご主人様が喜んでお召し上がりになります。」
「これほど収穫してしまっては、フーカ様がいらっしゃるまでもちますか?」
「はい、こちらで保存を行いますので、ご安心ください。」
保てるならこちらは収穫するのみだ。
収穫を終えると、好きな物を食材として持って帰るようにと言われたので、調理担当の兵士たちは何を作ろうかと盛り上がっていた。
森の中では、1年近く味気ない食事が続いていた。
ここに来てから、豊富な食材を料理出来るのも楽しいのだろう。
何より、珍しい調味料がある。
ふわりと空気の揺らぎを感じた。
フーカ様の魔導車がお屋敷の前に止まっていた。
私たちは車の前に集まり、礼をとる。
フーカ様が降りてこられた。
やはり、光り輝いていらっしゃる。
よく見るとフーカ様は薄い光のべールを纏っていらっしゃった。
ドレスではなく、男のようなパンツスタイルであっても、お美しかった。
「リハルドさん、皆さんやめてください。普通に接してくれてかまいません。それより、これどうぞ。」
フーカ様は、キャビンから白くカサカサとした袋を取り出し、渡してきた。
「これは?」
「ここの畑では取れない物よ。入っている袋は食べられないから、この袋に入れてエルへ渡してね。」
「かしこまりました。ありがたく頂戴します。」
受け取り袋の中身を見て腰を抜かしそうになった。
きのこだった。
森でしか取れない貴重な品で、薬の材料でもある。
「きのこは、体の余計な物を出してくれるから、食べるといいわ。」
「これは煎じて飲めばよろしいのでしょうか?」
「煎じる?」
フーカ様は少し考える素振りをなさった。
「そうではなく、普通にスープに入れたり、バターソテーにしたりするといいよ。」
「そのまま食べるのですか?」
「ええ、そうよ。夕食はこれからですか?」
「はい。」
「それでは、私も加えてもらえますか?」
「もちろんです。」
「夕食は何を予定しているの?」
「これを使ったパンとスープ、それに木の実ウサギの網焼き、サラダです。」
「それなら、スープにキノコも加えましょう。」
フーカ様は手際よく、透明な袋からキノコを取り出した。
下の部分を切り落とし、手で割いていく。
料理をしていた兵士もそれを真似て、きのこを割いた。フーカ様の指示を受けながら、切り分けていた。
いつ見ても見事な手捌きだ。
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