3
「お口を開けてください。」
フーカ様が、籠に入れた煌めいているブドウを手に騎士や兵士に声をかけていた。
ピックに刺した果物を差し出して、食べさせていらっしゃる。
その後ろから、盆を持った兵士がついて回っている。
盆にはコップが乗っていて、水を配布しているようだ。水も光を放っていた。
「リハルドさん、口を漱いでください。」
「え?あぁ、わかりました。」
フーカ様が妙な圧で迫ってくる。
慌てて、煌めいている水を口へ含み吐き出した。
「お口を開けてくださる?」
「自分で…」
手を出そうとして、止められた。
「私がしますので、お口を開けてくださる?」
「はい…お手数をおかけします。」
フーカ様が差し出してくださるので、口を開けた。
煌めいていたブドウは皮ごとでも食べられるようだ。パリっと弾け、種もないようだ。
とても甘くてうまい。
じんわりと何かが染み渡っていく。
「リハルドさん、お水も飲んでください。一度水を浴びたら。シャワーを浴びてください。」
「いえ、しかし…この後の指示も…」
「それはケイさんにお任せして、シャワーを浴びてください。」
フーカ様の声が掠れていた。
閣下へ視線を移すと、険しい表情をなされた。
「リハルド、直ぐにシャワーを浴びてこい。」
おふたりから勧められ、仕方なく応じる。
鎧を脱ぐと、服が真っ黒に染まっていた。
先ほど清水をかけられたのだが、かなり汚れが残っていた。
外のシャワーで水を被ると、黒い血液が流れていく。
かなりの血液を被っていたらしい。
フーカ様の魔導車に入り、シャワーをお借りする。
石鹸で洗い流すとさっぱりとして、顔を上げた。
「なっ!?」
赤い目の魔物がいた。
振り向くが、こんな狭い部屋だ。魔物がいるならわからないはずがなかった。
よく見ると鏡だった。
頬に触れ、頭に触れて自分であることを確認した。
目がここまで赤く変質してしまっては、どのくらい意識を保てるのか?
背筋に冷たい汗が流れた。
目を水で洗ってみるが、目の色は戻らない。
フーカ様が用意してくれた服に着替えた。
着替えをしても動揺は収まらない。
フーカ様がキャビンに入って来た。
「リハルドさん、このアイカップの水で左右の目を洗ってもらえますか?」
「目に押し付けて上を向いてから目をぱちぱちするといいです。」
差し出されたのは、変わった形状のカップだった。
指示された通りに洗うと、水で洗っている感覚はあった。
とても気持ちがいい。
「リハルドさん、こちらのカップは差し上げるので、こちらのお水で目を洗ってください。こちらの容器に残ったお水は、コップに開けて飲んでください。」
フーカ様の声が震えている気がした。
しばらくして外に出ると部下の半数がいた。
どうやら、2階のシャワーをお借りしたようで、さっぱりとした服装だった。
だが、目が赤い。真っ赤な者もいれば、元の色と混ざったような者もいる。
そして、フーカ様に小さなカップを渡され、目を洗っていた。
見ていると、順番に上がっているらしく、他部隊の騎士や兵士も降りてくる。皆一様に表情が暗い。
寛いでいる中に、ジリアント伯爵の姿もあった。
リハルドは、なぜ伯爵までが深淵の穢血を浴びる距離にいたのかと驚いた。声をかけようと近づいたところに閣下がお越しになった。
閣下が、我々の前にお立ちになった。
「皆、この度の作戦での重要任務ご苦労だった。皆の活躍に感謝する。」
作戦途中での、感謝の言葉だ。
それはつまり、ここで離脱させられる事を意味していた。
目が赤いなら、魔物になるのは時間の問題だ。
だから、この後私たちが出来ることは、魔物化する前に自ら決断するしかない。
自分は騎士なのだ、それは嫌というほど理解していた。
死ぬ前に、せめて身綺麗にさせてくれたのだろう。
閣下に負担はかけられない。
自分が皆の介錯をするか、自決出来ない者を手にかけよう。
私自身については、お手を煩わせてしまうが、そこだけはお許し願いたい。
皆、息をのんで次の言葉を待った。
読んでくださりありがとうございます。
リアクションと合わせて星印を★★★★★~★☆☆☆☆にしていただけると嬉しいです。




