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「ご主人様?」
「こっちの本は難しい料理だけど、この冊子は日常使い出来る料理が多いので、適当に使って作ってほしいな。」
「かしこまりました。」
楓花は、買い物袋を下していった。
泉の家には、一通り食材はあった。
肉は、売り切れないほどあるし、海産物は先月沢山貰ってきたものが大量にある。
野菜と果物はここの畑で収穫出来るので、購入したのは干物に加工した魚ときのこ類、それに牛乳やチーズだった。
これがあれば、ほとんどの食品は揃うからいろいろと作ってもらえそう。
「エルの料理好きよ。豪華な物はいらないけど、レパートリーが増えるのは楽しみね。」
「いろいろ作ります。」
エルが、にこにことしている。
顔の作りは、すっとした美人だけれど、こういう表情はかわいい。
甘えすぎだとわかっているけど、つい甘えてしまう。
でも、はっとした。
「エル、私がお願いしても断っていいからね。嫌な事や多すぎる仕事の時は断ってね。」
「ご主人様、大丈夫です。料理を覚えるのは楽しいです。」
「本当に?無理はしないでよ。」
念を押したけれど、これって言えば言うほど強要になっているかもと不安になる。
だめだ、健康的じゃない。
気分転換をしよう。
外のカウチに移動して、スマホで本を読み始めた。
そよ風が気持ちいい。
最近、忙しなくて本をじっくりと読む時間がなかった。
時間がというよりも、気がそぞろだった。
久しぶりに物語の中に入り込むように、読んでいた。
読み終えて顔を上げた。
時計を見ると、1時間が過ぎてしまっていた。
本1冊、昔なら30分もかからなかったけれど、集中力がないのか時間がかかる。
でも…面白かった。
久しぶりに集中出来た。
読んでいる間、他の何も考えずにいられた。
これこそが本を読む醍醐味よね。
別世界の主人公になりきって、次を急くように読めた。
イルルジオーネで12時近くになっていた。
「ご主人様、お昼ご飯はお召し上がりになれますか?」
「エル、お腹が空いていないや。でも、何も食べないのもあれか…軽くお願いしようかな?」
「かしこまりました。」
少しすると、果物3種の盛り合わせと、シーザーサラダが出てきた。
シーザーサラダには、ベーコンとクルトンが妙に多い。そこにゆで卵が添えられていた。
サラダと果物を食べ、牛乳を飲み終える。
温かい紅茶を飲んで、一息ついた。
大きく欠伸をして、ソファーの背もたれによりかかり眠ってしまう。
翌日、ヒルストンとアートンへ在庫にしていた狼肉と木の実ウサギと角ウサギの肉を降ろした。
「セイヤさん、この周辺の獣は出ていますか?」
「今年は多いね。お陰で風邪をひく者が少ない。」
「獣が出ると、風邪をひかないの?」
「食べ物が十分にあると言う事だからな。」
「そうなの?」
「冬場は秋の収穫物でやり過ごすしかない。だが、肉が手に入ればそれだけ、食べる量を増やせるだろう。」
「ああ、そういう事か。」
「それに、肉を食べていると本当に元気になれる。フーカ様が肉を持って来てくれるおかげで、子供たちの背も伸びている。」
「私だけじゃないわ。」
「もちろん、天龍の活躍も理解しているが、彼らだけではこんなに運べない。ブラックベアーだって倒したって1頭分の肉は運べない。それが、何頭分も届けてくれる。本当に感謝している。」
「そうなの?それだといいけど、ただ…もしかしたら今までのペースでは来られなくなるかもしれない。」
「それは、仕方ないと思う。今までだって1~2か月に1回大量に運んできてくれている。それを2年近く続けてくれた。それだけでも十分さ。」
「そういってもらえると…。」
セイヤさんは人払いをすると、声を潜めた。
「深淵が出たと聞いた。元帥閣下が作戦を立てられていると聞いている。」
「ギルドでそんな事まで知っているの?」
「天龍への協力依頼が出されているからな。」
「ああ、そうよね。長期でお借りしています。」
「構わないというよりも、深淵が相手だ。数年単位の作戦だろうし、獣を狩っている場合でもないのだろ?」
「まぁ、そうかもしれませんが…。」
ふと、疑問だった事を聞こうと思った。
「セイヤさん、もしご存知なら教えて欲しいのだけど…。」
「俺がわかる事なら。」
「人も獣も魔石があるでしょう?でも、魔人でも魔物でもない。獣は仕留めたら丸ごと手に入るのに、魔物になると魔石しか残さないのはどうして?それに、魔物の残す魔石は黒い理由も知りたいの。」
セイヤさんはなぜか息を飲んだ。
「基本的な事でしたか?私の知識は偏っていて、いろいろと足りないの…。」
「いや。」
セイヤさんは、少し考えてから頭をガシガシと掻いた。
「人にも獣にも魔石はある。人の場合聖職者の魔石が大きいらしいが、真実はわからない。魔に侵されると身体を蝕むが、魔石が吸える間は吸っていると思う。それが出来なくなると、身体にも魔が回り身体を崩すのではないかと言われてはいる。」
「魔が身体を崩す?」
「表現が合っているかはわからんよ。ただ、そういわれている。」
「魔はどこからくるの?」
「さぁ…どこだろうな。聖書では、悪意だと言われたが、悪い奴が魔人になった訳じゃない。」
「そうですか…」
「なぜ深淵は50年ごとなのかしら?」
「それこそわからない。だが、悪意が50年分溜まると怪物を作ると聖書には書かれている。」
「50年分の悪意ですか…」
「本当かは知らんよ。」
「フーカ様、変な事を聞くが聖書を読んだことはないのか?」
頷いていいのかわからなかった。
この国が一神教だとしたなら、読んでいないのはありえないかもしれない。
もし、その他を邪神とするなら、火あぶりにされかねないと思いつきぞっとした。
「フーカ様、俺は構わないが外では聞かない方がいい。」
顔を上げると、セイヤさんがいつもとは違う酷く真面目な表情をしていた。
「はい…。肝に銘じておきます。セイヤさん、ありがとう。」
私は、アートンを後にして自宅へと帰った。
あとの3日は、1日目と同じようにゴロゴロとして過ごし、ルーティーンに戻っていく。
12月の中を過ぎ街に出かけると、クリスマス一色になっていた。
職場と家の往復ではあまり実感がなかったけれど、もう年末だった。
25日になれば、お正月の飾り付けになり年越しになってしまう。
年末年始は、勤務先の仕事は少ない。
毎年積極的な有給消化が求められるので、楓花は年末の冬季休業に加えて有給を2日つけ、土日など合わせて9連休にした。
大晦日に飛行機で実家に戻り、1日の夜に戻ってくるよう飛行機をとっていた。
本当に年末年始だけを過ごす日程だ。
28日に仕事納めをして、29日と30日、それから2日から6日までが自由時間になる。
28日の終業後からだとイルルジオーネ時間で7日分だ。
その間、少しは深淵との戦いの手伝いを出来るだろう。
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