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本殿へ案内してもらう。
本殿に入る少し手前でやっと神域に入ったような気がした。
お酒とお米などの供え物は、宮司が上げてくれた。
用意してもらえる場合でも、お水だけは巫女が用意することになっており、水筒ホルダーのペットボトルを取り出し、水玉に注いだ。
お供えすると、立ち位置に付き静かに祈りを捧げた。
巫女として行う祝詞を奉じ、舞を捧げた。
一般的な巫女舞とは異なり、鳴り物はなく足音も立てない。
ただ静かに舞うだけだ。
宮司であっても、舞を見ることはしない。
舞の間は、ただ床へ視線を落とすことになっていた。
舞を奉じると、少しだけ空気が澄んだように感じた。
達成感がもたらす類のものだと思うけれど、楓花は満足していた。
宮司からお茶を勧められる。
「巫女様がお越しになり、空気が澄んだようです。」
「そうですか?お世辞でもうれしいですね。」
それから少しだけお話をして下がらせてもらった。
「はぁ…下りないといけないか…。」
上がったのだから、当然である。
この階段を袴で降りるのに、裾を踏みそうで怖い。これがとても苦手だった。
楓花は靴に履き替えると、着物を整え、袴を気持ち持ち上げた。
最近では、参拝客のために手摺もつけられているのだが、それでも急な階段を見下ろすのは怖い。足が竦んでしまう。
手すりを掴んで降りる。下を見ないように、手すりを向いていた。下を見ないように横向きで足元だけを見る。一段ずつ慎重に降りていく。
階段の途中で、ふと空気が重くなった。
顔を上げて、見つめると守護壁が見えた。
「え?薄いけど…これ…ガード?」
薄い白っぽいそれは、泉の家やキャンピングカーが展開しているものよりずっと弱いけれど、間違いなく守護壁だった。
「第1ガードのように人を撥ねるものではなく、第2ガードと似たようなものかな?」
「誰でも入れないといけないから、そりゃそうか…認可制だと困るよね。」
来た時には、境内に入ってからやっと澄んだように感じたそれが、ここまで広がっていた。
なるほど…このために毎年奉じているのね。巫女舞の意味はあったようだ。
だけど…この守護壁はあまりにも薄くて心もとない。
楓花は、いつものようにコインケースを開けると小さなディアマンテとアクアマリンを取り出した。
イルルジオーネで入れたままの物だ。
それを掌へ乗せ、守護壁へと同期し、薄く薄く慎重に同化させていく。
壁の厚みが出たことを確認し、いつもの癖でコインケースから聖水を入れたペットボトルを開けて水を撒いた。
淡く光り守護壁が確かな物となった。
もう少し広がって欲しいね。
ナビがいるわけじゃないから、広げてはくれない。
どうしたらいいだろう?
なんとなく、触れて外へ引くと広がった。広げられるなら、もう少し広げよう。そうしないと、さっき見たいに来年本殿までに縮んでしまう。
それに手で触れながら、階段を下りる。階段の最後の一段で、手を放すと神社全域が守護壁で覆われた。
泉の家とは比べられないほど弱い。キャンピングカーの第2ガードと比べても弱いだろう。
周囲を確認し、人がいない。もう少し補強しようか。
楓花は小さなディアマンテを取り出し、広げたガードの補強を始めた。
まだ弱いけれど、それでも今までよりはマシな様子に満足していた。
楓花はキャンピングカーに乗り込んだ。
着替えをすることなく次の神域を目指した。
宮司は、神社の中で異変を感じていた。
巫女舞の時に空気が澄み始めたと思っていたが、見送りをして、片付けをして一息つけば辺り一帯に神気が満ち溢れていた。
「おぉ…あの女は本物か。これは利用出来る。」
宮司がそう思ったのは一瞬だけだった。
神気に満ちたそこにいるだけで、満たされ欲が薄れていく。
宮司の顔は、憑き物が落ちたように穏やかになっていた。
楓花は、その日他に2か所の神域へ伺っていた。
どちらももう人はなく、神器だけが古いお宮に残されている場所だった。
廃止にしないのは、出来ないからだ。
維持せざるを得ない人里離れた場所は少し怖い。細く曲がりくねった山道を車で登っていく。
ハイキングコースとして整備されているけれど、途中脇道に入りお宮へ参る人はいないようだ。
すっかり荒んでいるお宮を見て気合を入れた。
掃除用具を持ってキャンピングカーを降りた。
お宮の外回りのゴミを払う。
キャンピングカーの水を汲み、拭き掃除をし、お酒とお米、お水をお供えした。
立ち位置に付くと楓花は静かに祈りを捧げた。
巫女として行う祝詞を奉じ、ただ静かに舞を捧げた。
そうすると、なんとなくお宮らしい感じがしてきた。
落ち着いて見ていると、こちらにもお宮を覆っている守護壁があった。
とても薄く、ところどころ途切れてしまっている。
本殿どころか、神器を守るので精一杯のようだった。
「いくらなんでも、ひどくない?」
大き目のディアマンテとクリスタルで守護壁を強化し、聖水を掛けた。
神域を少しだけ、手で引き広げた。
どこまで広げようかと思ったが、入り口の鳥居の向こう側に結界石があったのでそこまで広げた。
登山道とはいえ、人のほとんど来ない山のお宮のため、力を失いつつあった。
そこに清水による清掃と、聖水を供された。
そこまでされてやっと存在を現すことが出来た。
それを失われた手順により強化され、清められ、清浄なる守護壁へ換えられていた。
楓花にとっては、イルルジオーネで慣れた作業だった。
何も考えてはいなかった。
ただせっかく来たのだからと補強しただけだ。
あれ?他の世界の聖水で、こちらの神域を清めて良かったのだろうか?
ふと頭を掠ったけれど、やってしまった事だ。今更取り消せるものでもない。まぁいいかと気にしない事にした。
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