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未亡人が、遺産としてキャンピングカーを受け取ったら、大変な事になりました。  作者: 夢
第17章 役目

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3


 本殿へ案内してもらう。

 本殿に入る少し手前でやっと神域に入ったような気がした。

 お酒とお米などの供え物は、宮司が上げてくれた。

 用意してもらえる場合でも、お水だけは巫女が用意することになっており、水筒ホルダーのペットボトルを取り出し、水玉に注いだ。

 お供えすると、立ち位置に付き静かに祈りを捧げた。

 巫女として行う祝詞を奉じ、舞を捧げた。

 一般的な巫女舞とは異なり、鳴り物はなく足音も立てない。

 ただ静かに舞うだけだ。

 宮司であっても、舞を見ることはしない。

 舞の間は、ただ床へ視線を落とすことになっていた。


 舞を奉じると、少しだけ空気が澄んだように感じた。

 達成感がもたらす類のものだと思うけれど、楓花は満足していた。

 宮司からお茶を勧められる。


 「巫女様がお越しになり、空気が澄んだようです。」

 「そうですか?お世辞でもうれしいですね。」


 それから少しだけお話をして下がらせてもらった。



 「はぁ…下りないといけないか…。」


 上がったのだから、当然である。

 この階段を袴で降りるのに、裾を踏みそうで怖い。これがとても苦手だった。

 楓花は靴に履き替えると、着物を整え、袴を気持ち持ち上げた。

 最近では、参拝客のために手摺もつけられているのだが、それでも急な階段を見下ろすのは怖い。足が竦んでしまう。

 手すりを掴んで降りる。下を見ないように、手すりを向いていた。下を見ないように横向きで足元だけを見る。一段ずつ慎重に降りていく。


 階段の途中で、ふと空気が重くなった。

 顔を上げて、見つめると守護壁が見えた。

 

 「え?薄いけど…これ…ガード?」

 

 薄い白っぽいそれは、泉の家やキャンピングカーが展開しているものよりずっと弱いけれど、間違いなく守護壁だった。


 「第1ガードのように人を撥ねるものではなく、第2ガードと似たようなものかな?」

 「誰でも入れないといけないから、そりゃそうか…認可制だと困るよね。」

 

 来た時には、境内に入ってからやっと澄んだように感じたそれが、ここまで広がっていた。

なるほど…このために毎年奉じているのね。巫女舞の意味はあったようだ。


 だけど…この守護壁はあまりにも薄くて心もとない。

 楓花は、いつものようにコインケースを開けると小さなディアマンテとアクアマリンを取り出した。

 イルルジオーネで入れたままの物だ。

 それを掌へ乗せ、守護壁へと同期し、薄く薄く慎重に同化させていく。

 壁の厚みが出たことを確認し、いつもの癖でコインケースから聖水を入れたペットボトルを開けて水を撒いた。

 淡く光り守護壁が確かな物となった。

 もう少し広がって欲しいね。

 ナビがいるわけじゃないから、広げてはくれない。

 どうしたらいいだろう?

 なんとなく、触れて外へ引くと広がった。広げられるなら、もう少し広げよう。そうしないと、さっき見たいに来年本殿までに縮んでしまう。

 それに手で触れながら、階段を下りる。階段の最後の一段で、手を放すと神社全域が守護壁で覆われた。

 泉の家とは比べられないほど弱い。キャンピングカーの第2ガードと比べても弱いだろう。

 周囲を確認し、人がいない。もう少し補強しようか。

 楓花は小さなディアマンテを取り出し、広げたガードの補強を始めた。

 まだ弱いけれど、それでも今までよりはマシな様子に満足していた。


 楓花はキャンピングカーに乗り込んだ。

着替えをすることなく次の神域を目指した。

 

 


 宮司は、神社の中で異変を感じていた。

 巫女舞の時に空気が澄み始めたと思っていたが、見送りをして、片付けをして一息つけば辺り一帯に神気が満ち溢れていた。

 

 「おぉ…あの女は本物か。これは利用出来る。」


 宮司がそう思ったのは一瞬だけだった。

 神気に満ちたそこにいるだけで、満たされ欲が薄れていく。

 宮司の顔は、憑き物が落ちたように穏やかになっていた。

 



 楓花は、その日他に2か所の神域へ伺っていた。

 どちらももう人はなく、神器だけが古いお宮に残されている場所だった。

 廃止にしないのは、出来ないからだ。

 維持せざるを得ない人里離れた場所は少し怖い。細く曲がりくねった山道を車で登っていく。

 ハイキングコースとして整備されているけれど、途中脇道に入りお宮へ参る人はいないようだ。

 すっかり荒んでいるお宮を見て気合を入れた。

 掃除用具を持ってキャンピングカーを降りた。

 お宮の外回りのゴミを払う。

 キャンピングカーの水を汲み、拭き掃除をし、お酒とお米、お水をお供えした。

 立ち位置に付くと楓花は静かに祈りを捧げた。

 巫女として行う祝詞を奉じ、ただ静かに舞を捧げた。

 そうすると、なんとなくお宮らしい感じがしてきた。

 

 落ち着いて見ていると、こちらにもお宮を覆っている守護壁があった。

 とても薄く、ところどころ途切れてしまっている。

 本殿どころか、神器を守るので精一杯のようだった。

 

 「いくらなんでも、ひどくない?」

 

 大き目のディアマンテとクリスタルで守護壁を強化し、聖水を掛けた。

 神域を少しだけ、手で引き広げた。

 どこまで広げようかと思ったが、入り口の鳥居の向こう側に結界石があったのでそこまで広げた。

 

 登山道とはいえ、人のほとんど来ない山のお宮のため、力を失いつつあった。

 そこに清水による清掃と、聖水を供された。

 そこまでされてやっと存在を現すことが出来た。

 それを失われた手順により強化され、清められ、清浄なる守護壁へ換えられていた。

 楓花にとっては、イルルジオーネで慣れた作業だった。

 何も考えてはいなかった。

 ただせっかく来たのだからと補強しただけだ。


 あれ?他の世界の聖水で、こちらの神域を清めて良かったのだろうか?

 ふと頭を掠ったけれど、やってしまった事だ。今更取り消せるものでもない。まぁいいかと気にしない事にした。


読んでくださりありがとうございます。

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