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ファンタジーですのであしからず。
楓花は、岡野宮の自宅でブラウスにパンツスーツを着ていた。
いつもなら、帰宅と同時に脱いでしまうが、来客があるので仕方なく通勤服のままだ。
このところ、仕事終わりにはイルルジオーネに向かっていたので、こうやって家にいること自体が久しぶりだった。
掃除はしたつもりだけど、埃が俟ったりしていないよね?
小上がりの上座の棚は、何もない状態にしてある。
インターホンに応じると、カメラの向こう側に姿勢のよいスーツ姿の男女が立っていた。
襟には、所属を示すピンがあり、警察手帳のような折り畳みの名札も開いて見せてくれた。
「どうぞ、車のままお入りください。」
楓花は、時計を見る。
約束通りの時間だった。
外へ出て受け取りたいけれど、そうもいかない。
この受け取りは儀礼的な意味合いもある。
門のロックを外し、自動でスライドすると車が入ってきた。
車は自宅前に止まり、車から白木の長箱が降ろされた。
「お届け物に伺いました。」
「はい。ご丁寧にありがとうございます。どうぞお上がりください。」
玄関を開け、声をかけた。
女性1人に男性4人、そのうち2人は箱を持っている。
田舎へ衣装を届けに来たことをねぎらう言葉はかけない。
そういう立場にはないからだ。
「拝領の品は小上がりへお願いいたします。」
彼らは、一礼してから小上がりの畳へ上がった。
小上がりの奥の板の間に、彼らが用意した木製の台が3か所に置かれた。
その上へ箱が乗せられた。
彼らが箱を向いたまま後ろ脚で畳から降りると、女性が布を取り出して畳を拭き始めた。
そのまま下がって畳から降りる。
それを見ながら、楓花は言葉を探した。
5年に1度くらいしか来ないお役目なので、記憶が頼りだった。
前回は、婚姻中だったので夫のいない時間に受け取った。
「ソファーにどうぞ。」
「失礼します。」
一度座り荷物を下ろすと、漆塗りの箱を取り出し、テーブルに置いた。
女性が立ち上がると、男性が女性の顔に半紙に紐の付いたものをかけ、顔を隠した。
私は合わせて立ち上がり、足元へ膝をついた。
女性が漆塗りの箱から、手紙を取り出した。
時代劇で見るような半紙に包まれ上下が折られている。
「平服なさいませ。」
女性の声がよく通っていた。
「尊き方からにございます。橘楓花を清め周りの巫女へ任ずる。年末の払いを任せる。」
「光栄にございます。ご期待に沿うよう、勤めて参ります。」
楓花の前で手紙の向きが変えられ、与えられた。
それを恭しく受け取り、中身を読んだ。
読み終えると包みへ戻し、頭より上にしたまま立ち上がり、小上がりへと向かう。
白木の箱の上へ乗せた。
小上がりを降りるまで、お尻を向けることなく後ろ向きのままだ。
小上がりを降り、一礼してからロールカーテンを下ろした。
楓花は、ゆっくりと息を吐いた。
それから、彼らへ向き直る。
女性の顔から半紙は外されていた。
「そのままお寛ぎください。」
水道の水を沸かし、湯冷ましにとり、急須に茶葉を入れた。
蓋つきの湯飲みを取り出し、盆へ乗せる。
茶托を乗せ、用意していた菓子を皿へ乗せた。
適温まで冷めた湯を急須へ入れ、少し待つ。
その間、彼らは姿勢よく座って待っていた。
「お待たせしました。どうぞお召し上がりください。」
「粗茶です」とは言わない。
だからと言って、高級なお茶ですとも言わない。
彼らは、儀礼的な手順で茶を飲み、菓子を食べた。
一息つくのを待つ間、視線を落として座っていた。
「ご馳走様でした。とても美味しかったです。」
「ようございました。」
反射的に返してから、「美味しかった」と言われた事に驚いて顔を上げた。
祖母は口に出してはいけないと言っていた言葉だ。
小学生の頃は不思議だったその意味の一部は、16を迎えた時に知った。
だけど、本当の意味で理解出来た訳ではない。
口にした本人もはっとした様子で、隣から肘で突かれている。
「緊張しますよね。」
私の言葉に、彼らは曖昧に笑った。
私より少し若そうな女性。
壮年の男性は、美形ではないが上手く年を重ね、自信を持っている人独特の空気を醸し出していた。今時の若い娘からイケオジと言われるタイプなのだろう。
他の2人は敬一郎さんよりも若く朴訥な様子で、社会にあまり揉まれていないようだ。
「私は、榊と申します。以前、一度ご実家でお会いしております。」
「そうでしたか。」
覚えていないとは言えない。
余計な事は言わずに相槌に留めた。
「楓花様、お役目は4度目ですか?」
「そうなりますね。」
「巫女様のお家は、どちらにお伺いしても澄んでいますが、こちらはなんとも素晴らしいですね。」
「そうですか?」
「はい。神域に入った時のような清々しさがあります。」
「それは…なんといえばいいのかしら?お世辞でも嬉しいですね。」
「とんでもない。お世辞などではありません。」
人当たりが良さそうで穏やかな笑顔をしていた。
人のあしらいも上手なのだろうと思った。
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