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未亡人が、遺産としてキャンピングカーを受け取ったら、大変な事になりました。  作者: 夢
第16章 深淵 【ジリアント伯爵】

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 落ち着いた頃、ジリアント伯爵は戦略会議の天幕に召集された。

 天幕を出ると、さっぱりとした体に風が気持ちよい。

 深淵から感じていた圧が消えていた。

 指揮官たちが集まっていた。トリアシード卿と元帥閣下が上座に並んで座っていた。


 「明日の朝8時まで、周囲一帯に守護壁を展開しています。聖水の補充の際に低級癒し水を配布しました。小さな傷でも治してゆっくり休んでください。」


 元帥閣下が挨拶をすると、トリアシード卿が今夜から明日までの作戦を説明した。


 「守護壁展開後、深淵の動きは弱まっている。今夜のうちに一度杭を打ち込む攻撃をします。これは夜の部隊を使い私の指揮の元で行う。明日は、朝6時に集合です。朝7時攻撃を目標に深淵に聖水を纏わせた杭を突き刺す。動きを抑え込めたなら、攻撃もしやすいだろう。ただし、上身は自由に動くから暴れるようなら、こちらも距離を取らねばなりません。」


 なるほど…剣や弓の攻撃では弱すぎるから、動きが弱っている間に大物での攻撃をするということか。


 「作戦は理解した。だが、守護壁の展開で深淵が弱まるとして、深淵はここから1時間ほどの距離にいる。それほどの遠距離に守護壁を維持できるものですか?」

 「明日の朝8時まで限定だ。」

 「それでもだ。まだ15時間もある。」

 「問題ありません。部隊を入れ替えるなら日暮れ前にしてください。作戦は今夜のうちに共有してください。」

 「トリアシード卿、いや大将と呼ぼう。この守護壁展開は、今夜のみか?それとも、今後も継続出来るのか?」


 トリアシード卿は、元帥閣下とアイコンタクトを取り、皆へ向き直した。


 「次がいつとは言えませんが、しばらくの間は、3日ごとに展開したいとは思っています。いつまでもとは言えません。長く期間が開くこともあるでしょう。」


 その言葉に皆が押し黙った。

 不満からではない。喜びたいが、信じられないのだ。

 指揮官の一人が手を挙げた。

 

 「今日の深淵との戦いは、正直恐ろしかったです。黒い靄を漂わせているあれに切り込むなど…本当に恐ろしかった。」


 皆押し黙っていた。

 領主たちは決して口にしないが、嘘偽りない本音だろう。

 

 「救護所を見てきました。内臓が露出した者、頭を打った者もいました。おそらく…今までの自分ならば、介錯が必要と判断した容体でした。ですが…治療師たちは素晴らしかった。様々な薬を使い分け、高級ポーションを使っているのも見ました。包帯を巻いて、彼らは穏やかに寝ていました。いや、言葉が悪いですね…ですが大怪我とは思えぬほど、顔色がよかったのです。」

 

 指揮官たちが頷いていた。

 

 「あれほどの治療を行うだけのポーションや薬、いつまでもちますか?これほどの守護壁には相当な魔石が必要になるはずです。維持するほどあるのですか?」

 

 皆同じ事を考えたのだろう。

 今日の大怪我を治療するのはもちろん必要だ。

 だが、ある程度の犠牲は仕方がないとも思う。見切りをつけるのも必要なのだ。

 本当に効果のあるポーションは、これまで手軽に手に入らなかった。国で大量に仕入れたとしても無限ではない。そう遠くないところでなくなってしまうだろう。

 治療しても満足に動けない者を助ける意味はあるのか?

 平時であるなら、ここまでは考えない。

 だが、ここは戦場だ。普段のような綺麗ごとでは乗り切れなくなる。

 これから動けないだろう者に使うなら、これから動ける騎士や兵士を回復させるために使いたい。それは、どこの軍でも同じだろう。

 ここは誰かが諫めなければならない。

 集まった領主と指揮官の中で、元帥閣下の次の地位があるのは私だろう。

 トリアシード卿は大将になっているが、元帥閣下へ意見出来る立場ではない。


 「今は十分にあるから助けられる。攻撃を続けている間に、深淵も弱ってくるだろう。今すぐに弱らなくても、着実に体力を削っていくことで勝てるはずだ。」

 

 元帥閣下の声が響いた。

 

 「閣下が、ポーションや薬を大量に手に入れたのはわかりました。ですが、使えばなくなります。守護壁もそうですが、まだ人員も十分おります。今から使っていては、この先困ることになりませんか?」

 「ジリアント伯爵、我が領地では薬師たちがポーションや薬類を製造している。今のところ、治療院への提供を止めずにこちらの分を用意している。」

 「!?」


 私だけでなく、その場にいる者のほとんどが目を見開いた。

 クリトン辺境伯のみが頷いている。

 それほど大量に作っているということか?

 低級だけでなく、救護所では初級や中級、高級も使われていた。

 それほどの腕がある薬師を雇っているのか?

 大魔導士様はもういらっしゃらないはずだ。それでも、それを出来るだけの環境があるというのか?

 そんな事が本当にあるのか?

 それに、それを作るだけの薬草も手に入るのか?

 今までのポーションの流通量を考えても、簡単には信じられない。


 「守護壁の展開に、大量の魔石は必要ですが…今のところ十分に用意出来ています。少なくとも…30回分の魔石はあります。3日毎の展開をしたとして、3か月分でしょうか。」

 「そんなに?」

 「その予定です。もちろん、守護壁を展開出来る魔導士の都合もあるので、今のペースで3か月続けられるわけではありません。あくまでも今のペースであってもという仮定の話です。」


 元帥閣下の言葉に揺らぎはない。

 本当に出来ると思っているようだ。

 これ以上言葉を重ねるのも不敬だろう。


 「いえ、わかりました。閣下が、本気で深淵に対抗するお気持ちがあり、戦略を練られている。手立ても十分に理解出来ました。」



読んでくださりありがとうございます。

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