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ジリアント伯爵は、渡された鑑定レンズを翳して目を見開いた。
エリクサー:封印が施されている。封印を解いたら早めに使い切る事。
本物!?
思わず息をのんだ。目を瞬かせて、何度見ても結果は変わらない。
信じられない思いで、元帥閣下を見上げた。
ありえない。
国王陛下がこれを揃え、聖水を大量に購入出来るほどの予算を用意したと思えなかった。
元帥閣下個人の差配ではないのか?
個人の差配で手配出来るような品ではないが、目の前にある以上は出来たのだ。
「今回の戦いは、魔人を出さない。命も散らさぬよう努力はする。もちろん、万が一を防げるとは言えない。安心は出来ぬだろうが、全力で戦ってもらいたい。救護所では、下級ポーションや薬類はもちろんだが、中級まで揃えている。大部分の対応は出来るだろう。」
ここまでされては、命を捨ててでも戦いに臨む。
その覚悟が決まった。
「では、座ってこちらを向いてもらおう。今回の深淵は大蛇だ。」
元帥閣下は立ち上がり、前へ出るとマップを貼り付けた台をひっくり返した。
白い状態にすると、横に立たれた。
「今からお見せするのは、今回の討伐対象だ。この絵はそう撮れないので他言無用です。」
「見せる?」
先ほどから驚きの連続で、もう驚くことはないと思っていた。
明り取りが閉められ、布を通して明かりは入るが薄暗い。
指揮官たちが首を傾げている中、白い板に大蛇が映し出された。
黒い巨体と赤い目が3つ。
黒い靄を巻き散らしていた。
絵ではなく、まるで今にも襲ってきそうな動きをしていた。
「これは…!?」
「ここの木を見るとサイズ感もわかるだろう。私とリハルド、クリトン伯と騎士団、それから天龍の者たちと森を探っている時に遭遇した。」
「遭遇!?まさか既に戦ったのですか?」
目の前に動く絵が映っていた。摩訶不思議な状況にもう呆然とするしかなかった。
その絵の中では、辺境伯の騎士団や元帥閣下が剣や弓で戦っていた。途中、魔法らしき物も見えた。
剣も弓も、その巨体に届いていない。地面についている胴体や尾の表面を撫でているだけだった。彼らの周囲にも黒い靄が纏わりついていた。
それでも、最後には尾の先端を僅かに切り落としたようだ。
さらに、王宮の中庭らしき場所で尾に水をかけながら切り刻んでいた。
水の当たっていない場所から黒い靄が上がっている。
切り刻まれているうちに靄が立たなくなっていた。
恐ろしい、あれではあっという間に魔人が出来上がりそうだ。
「これと…戦う?」
ジリアント伯爵は、それ以上の言葉を出せない。
動こうにも、腰が抜けたようで力が入らなかった。
なんとか周囲へ視線を向けると、後ろの席の者たちは立ち上がり、手をついたまま前のめりで見ていた。
「怖いだろうが、正体は分かっている。訳も分からずに戦う訳ではない。念入りな準備はしているが、力を合わせねば討伐出来ないのは間違いない。長期戦になるだろう。協力して討伐しようではないか!」
閣下の言葉に、誰も頷けない。
怖すぎる。予想以上の深淵の姿に竦んでしまう。
トリアシード卿の声が聞こえてきた。
「みなさん、お手元をご覧ください。大量の聖水とエリクサーがあります。川には魔を流す清水が流れている。50年ごとに繰り返されてきた深淵との闘いで、ここまで恵まれていた事はありますか?」
「いや、それは…」
「今回は、時間はかかるかもしれませんが、勝てるはずです。」
そこからは、トリアシード卿が作戦の細かい説明を始めた。
最初は探索になる。深淵を見つけて笛を吹くこと。
それからの作戦などだ。蛇には聞こえないとされる音の鳴る笛を合図に使う。
ここまで来て、撤退するという選択肢はなかった。
深淵と戦うために、皆ここに集まっているのだ。
逃げ帰り、国土が失われていくのを見ることは許されないだろう。
元帥閣下を信じて、その戦略に沿い深淵の捜索を始めた。
軍の半数は岩場に砦を築き、各部隊の駐屯地とした。
部隊の総数が700人前後の小規模部隊には、洞窟の中が与えられた。
外敵の警戒を最低限に出来るので助かるが、普通は重要部隊が使うべきところだ。
ジリアント伯爵の軍は700人を連れて来たが、森の入り口の駐屯地に250人を置いていた。
騎士46人兵士414人その他240人を連れていた。
彼らを3つに分け、1部隊騎士15人兵士138人程度だ。そこに、戦闘員ではない者が60人ずつついた。
3部隊に分けることで、森の入り口の駐屯地へ1部隊、森の中へ2部隊が入る。
戦闘員でない者は各部隊に付く者、糧食の補充などの後援輸送部隊に就いた。
各部隊は、森の中で2日過ごし、入り口へ戻って身体を清める事にした。
森に築く拠点である砦に移動した。
150人の部隊2部隊は、他の軍と共に森に入り、砦に1部隊を残した。
後援部隊2隊である120人には、岩場の拠点を築くための準備をさせた。
拠点では、後援部隊に部隊が使う武器や防具の手入れの手伝いや、食事の準備、洗濯物をしてもらう。騎士や兵士ももちろん確認はするのだが、少しでも休まなくてはならないのだ。
また、後援部隊には、空の樽を運び、清水を汲んで戻ってくるという重要な役目もあった。
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