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未亡人が、遺産としてキャンピングカーを受け取ったら、大変な事になりました。  作者: 夢
第15章 深淵 【楓花】【リハルド】

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6


 数時間後、リハルドは起きると鎧を身に着ける。

 指揮官たちが集まるテントへ向かった。

 夜明け前なので、少な目だ。


 寝ている間に届いた情報に目を走らせ、深淵の様子を確認した。

 次の作戦を行うための準備の進捗状況も確認する。


 「順調ではありますね。」

 「はい。今日は癒しの日なので、深淵も大人しいです。」

 「そうだな…。」

 「朝、8時までですよね?」

 「そうだ。」

 「それまで少し仮眠をしてきます。この守護壁で眠ると身体が楽になるので…。」

 「そうしてください。」


 時間まではあと3時間ある。眠る事は出来るだろう。

 戦争ではない。

 だが、言葉も通じない深淵相手、50年に一度の大物が相手なのだ。休める時に休まないと身体は持たない。



 数日後、折角打ち込んだ杭が抜けてしまった。

 大蛇が大暴れし、重傷者が10数人出てしまった。

 それでも、杭が抜けた傷口を狙って聖水を掛ける。

 森の中を動き回るが、岩場の砦にはやはり近づけないようだ。近い時は1㎞ほどの位置にいた。

 遠い時には10数㎞先にいる時もあった。それをうまく追い込み、杭を仕掛けた場所へと誘導する。

 そして、フーカ様がお越しになる癒しの日に新たな杭を打ち込んだ。



 

 深淵と向き合って2か月ほどが経った。

 現在、深淵には3回分の杭が刺さった状態だった。打ち込んだ杭は、数日から1週間程度で抜けていたが、それでも深淵には傷口が増え、最初の頃よりは弱っているのは確かだろう。

 この調子では、1年かかるかもしれない。

 それでも過去の深淵との闘いと比較すれば早い決着になるはずだ。


 フーカ様がお越しになったようだ。

 重苦しい空気が軽くなった。

 指揮官たちと集まっていると、閣下がテントへ入って来た。

 

 「明日は10時までいる事にした。」

 「それは助かります。」

 「それで次だが、さすがにお疲れのご様子でね。しばらくは、こちらに来るのは6日毎になりそうだ。それと、天龍は一度帰らせる。」


 6日毎ですか…今までの倍の日数だ。

 辛くないと言えば嘘になるが、この2か月間3日置きに来てくださっただけでもありがたい事なのだ。


 「それは、当然でございましょう。」


 領主自ら参加しているジリアント伯爵が声を上げた。

 

 「2か月もの間、3日毎にこれほどの守護壁を張り続けてくださったのです。水は、入り口の者たちに指示をすれば運べます。6日毎でも十分に助かります。」

 「そう言ってもらえると…聖水は十分に運んできているから、遠慮せずに使って欲しい。」

 「お気遣いありがとうございます。」


 閣下は、珍しく少し視線を彷徨わせた。


 「それから、こちらにいる者たちに差し入れがある。」

 「差し入れですか?」

 「ああ、特別な物なので1人1粒ずつになってしまうが…。」

 

 閣下とジリアント伯爵の会話を皆が見守っていた。

 出されたのは、グズベリーだった。森になる実で、季節外れであることをのぞけば珍しいものではない。

どちらかといえば、庶民の食べ物だ。


 「今の季節にグズベリーですか?こちらに来て2か月ですから、果物はありがたいですが…。」

 「そうですね。糧食はどうしても味気ない。違う物も食べたくなっていたところです。」

 「確かに」


 ジリアント伯爵の言葉に、他の指揮官たちも同意を示した。

 普段ここで食べているのは、干し肉と乾燥野菜で作ったスープと堅いパンだ。どこの部隊でも変わらないだろう。

 自領から運んできた干し肉や乾燥野菜、森の入り口の駐屯地で仕込めるパンしかないのだ。パンは日持ちするよう堅く焼かれていた。食料が運ばれて来た時や森の入り口の駐屯地へ交代で行った時に、少しマシな料理を食べられるくらいだ。

 ヒシフォートはフーカ様がいる時には良い物も食べられるが、あれは普通ではない。

 

 「ええ、まぁ…一粒どうぞ。食べればわかる。」

 「では、失礼して。」


 ジリアント伯爵は、連れている副官が制するのも気にせずに召し上がった。

 

 「おぉ!?なんだ!これは…?」

 

 ジリアント伯爵の頬に赤味が差し、目の下の隈が薄くなった。

 

 「まぁ、そのような効果があります。今はガードがあるので、3日後辺りで皆が1粒ずつ食べるように。この容器に入れてあれば3日くらいはもちましょう。」

 「おぉ…なんと!ありがたい!」

 「そろそろ2か月ですからね。一度清めた方がいい…。」


 閣下の呟きに、大盤振る舞いだと思ってしまった。

 フーカ様は、日にちを開けるのが心苦しいのだろう。

 そもそも来ていただけるだけでありがたいのだ。気に病む事などないのに…。


 作戦会議を終え、駐屯地へ戻るとフーカ様が料理を振る舞ってくださっていた。

 ありがたくいただき、眠りについた。

 翌日、物資を確認すると聖水がいつもの倍も用意されていた。

 補充と管理をする騎士は、すでにありがたい物を扱う感じではなくなっていた。物資の1つという様子だ。

 それから、発泡スチロールなる入れ物に入ったグズベリーはとても冷たかった。


 「このまま置いておけば4日くらいは平気です。出来るだけ開けないようにして3日後に食べてください。」

 「お心遣い感謝します。」

 

 フーカ様を見送った3日後、グズベリーを1粒ずつ食べた。

 食べると、守護壁に入っている時よりも強く、身体の中から癒されるような不思議な感覚が巡った。


 そして、6日後から今までの聖水や清水に加えて、杭に埋め込むための聖木が届けられるようになった。

 聖木は、10cmほどの木片で杭の側面を削って入れ込む。

 聖水が染み込んでいるらしく、杭に傷をつけて聖水をかけるよりも効果があるらしい。実際使って見ると、杭が抜けたとしても、その聖木の一部は深淵の傷の中に残り長く効果を発揮しているようだった。

 それを見て、弓の先を聖水に浸すようになった。

 重さが変わるため、扱いは難しくなってしまうが、効果はあった。

 





 楓花は、2週間ほどは毎日仕事終わりに泉の家へ行き、深淵のいる森へ通っていた。

 だが2週間と少しで流石に無理だと思い始めた。

 最初は、サナやアッシュのいる場所に近いから、なんとかしなきゃと思って頑張れた。

 だけど、だんだんと大和での生活にも影響があった。

 プライベートな時間が足りないのだ。

 それは、付き合ってくれているケイさんも同じだろう。

 毎日ヒシフォートへ行き、出来上がった薬と交代の治療師を乗せて、ケイさんと深淵に近い岩場の駐屯地へ向かっていたのだ。


 イルルジオーネ時間で2か月である大和時間で3週間が経った頃、今までと頻度を変える事をケイさんに説明してもらった。

 これで週に3~4日の通いになったので、間の日は大和や泉の家で過ごせるようになった。

 その代わりに、体内から魔を癒すための聖水で育てたグズベリーを持って行った。

 さらに木片を川に漬け込み、行くときには持って行くようにした。聖水が染み込んだものなら杭や攻撃に使えるかもしれない。

 それくらいしか、手伝ってあげられないのだ。

 

 週末は、今まで通りに天龍と一緒に狩りや採取に向かい、サナを愛でに行った。

 戦っている人たちには申し訳ないけれど、ずっと張り付いているのは疲れてしまう。隔週でアシュレイ様を連れてエカサへ行き、アッシュを愛でるのも忘れない。

 それに薬師たちへの講義もしなくてはいけない。資料は出来ていないから新しいポーションは教えられないけれど、皆と話しをしてより良くするための話し合いは出来た。

 定期的なルーティーンを変えないために、絶対に時間を造らなくてはならない。


 深淵に会って1カ月後には、ほぼ自分のペースを作り出していた。

 

 大和は11月になろうとしていた。

 楓花は、年越しのための時期だと思った。

  

 結婚してから、実家の役目からは解放されていた。

 だが、夫が亡くなり独り身になってしまっては、言い訳がなかった。




読んでくださりありがとうございます。

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