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「怖いだろうが、正体は分かっている。訳も分からずに戦う訳ではない。念入りな準備はしているが、力を合わせねば討伐出来ないのは間違いない。長期戦になるだろう。協力して討伐しようではないか!」
閣下の言葉に、誰も頷けない。
動く深淵は、恐ろしく映っただろう。
立ち上がった者たちは、足が震えているのに座ることも出来ずにいた。
リハルドが声をかけさせてもらった。
「みなさん、お手元をご覧ください。大量の聖水とエリクサーがあります。川には魔を清める清水が流れている。50年ごとに繰り返されてきた深淵との闘いで、ここまで恵まれていた事はありますか?」
「いや、それは…」
「今回は、時間はかかるかもしれませんが、勝てるはずです。」
そこからは、作戦の細かい説明を始めた。
最初は探索になる。深淵を見つけて笛を吹くこと。
それからの作戦などだ。蛇には聞こえないとされる音の鳴る笛を合図に使う。
会議を終え、閣下を見送った。
リハルドは、総指揮をするため、ヒシフォート領軍は副官が指揮に入った。
そこから3日掛け深淵を見つけた。深淵は思ったよりも隣国側へ移動していたのだ。
入り口の救護所はそのままだが、5km地点の救護所は2か所のみ残し、3か所をより森の奥へと移す事にした。
各部隊も岩場の砦に移した。
岩場に巣くっていた魔物の討伐は必要だったが、実行部隊だけなので、どうにか収まる事が出来た。
岩場には、20軍のうち16軍がいた。
全部隊ではない。小規模軍8軍は、5日程度で軍ごと交代してもらう。
大軍である12軍は実働部隊の2/3が岩場へ移った。
岩場の砦は前方、後方の2か所に分かれた。そこに、7000人の騎士・兵士が詰めていた。
「リハルド将軍、この聖水はすごいな。魔物が巣くっていたというのにシュッと吹き付けるだけで魔を祓える。」
「便利だろう?」
「便利?確かにそうだな。聖女様の祈りもなくひと吹きでというのが、素晴らしい。これでは信心などどこかに行ってしまいそうだ。」
まったく現金なものだ。
あれほど信じられないと言っていたのに、使って効力を知るとこんな反応をするのだ。まぁ、気持ちは分からなくもない。
聖女様の神々しいお姿で行われる清めの言葉や祝詞、ほんの少し撒かれる聖水だ。きっと祓われているかもしれない程度のイメージなのだ。
「リハルド大将、元帥閣下が到着なさいました。」
便宜上、ここでは大将と呼ばれていた。
各領の領主や代表を纏めるための一時的な措置だった。
閣下の後ろには、フーカ様もいらっしゃった。
岩場にある洞窟との間、前後の岩場の間をヒシフォートの駐屯地としていた。
洞窟の中の方が安全だろうが、そちらは他の部隊へ譲った。
挨拶をして、駐屯地へご案内した。
見えない場所にご案内すると、魔導車を出された。
「こちらお願いしますね。」
いつものシールを受け取ると、部下に貼って回るように指示した。
それから、ヒシフォートの駐屯地を包むガードが展開された。
昨夜、ここに来た時に、全部隊に聖水をいれた水を飲んでもらっている。魔人になった者はいないはずだ。消える者もいなかった。
フーカ様は、さらに第2ガードを展開なされた。
一帯の魔を払っていたというあれだ。
深淵までの距離は4㎞ほどだ。何某かの効果はあるかもしれない。
一応、深淵の近くには斥候が3人控えている。
何事かあれば、知らせにやってくるだろう。
「リハルド大将!深淵から漏れる魔が一時的ですが弱まりました。動きも止まっています。」
「それは…すごいな…。今夜は防御壁が展開されている。安心して眠るといいでしょう。」
斥候が1人戻って来た。入れ替わりで1人の斥候が向かうので伝言を頼んだ。
戻って来た者は当然のように休めるが、向かう者にも防御壁の話を知らせてある。見張りは必要だが、交代で少しは眠れるだろう。
「今の内に小さな怪我でも治療するように伝えてくれ。小傷でも下級癒し水を飲んでもらうよう手配を頼む。」
フーカ様が降ろしてくれた下級癒し水は、10個もの籠に大量に入れられていた。
聖水の10L容器も10個置降ろされた。
救護所には一緒に来た治療師が入り、薬も補充された。治療師のたちは引継ぎをして、明日入れ替わりでヒシフォートへ帰ることになっていた。
治療師たちは戦闘員ではない。ここに長く留まっていては、彼らのやる気に影響してしまう。
各部隊から聖水の空容器を持った者が、毎日やってくる。
騎士の一人がその対応に当たっていた。
「交換の聖水と追加だ。水で身体を拭いたら、頭部と下腹部に1吹きずつして清めてください。それから、この籠に下級癒し水が入っている。小さくても傷がある者は今のうちに治療してください。それから、水樽を持って来られるようなら清水を入れます。だから安心して身体を拭いてください。」
騎士は指示通りの言葉をかけていた。
森の入り口駐屯地から兵士の交代と合わせ、水樽は運ばれてくる。
それで口を潤すことは出来ても、身ぎれいにする余裕はない。交代で入り口の駐屯地まで降りた時だけ、身体を清められる。
フーカ様から受け取ったホースなる物からは、限りを感じないほどに水が出てきた。そのおかげで樽に水を満たせるので、身体の手入れをする余裕が出来たのだ。
部隊は6部隊に分け、3交代で深淵と向き合っていた。一度に対峙する時間は、移動を含めて5時間程度だ。
一太刀与えては、聖水をかけて離脱する。余裕があれば2回目、3回目と攻撃をした。
当然だが、攻撃をすると深淵が暴れるので、立ち回りが重要になる。
戻って来た部隊は、フーカ様の魔導車を見て笑顔を見せた。
半数が外2階へと上がっていく。こちらは、シャワーを浴びベッドで休む事が出来た。
残り半数は、テントに向かう。テントに入る者にはお湯が用意され、身体を清めて眠ることが出来た。テントに入った者たちは、目覚めてからシャワーを浴びに行くこともできた。
リハルドは少し遅れて深淵に向き合う。
作戦が実行され、聖水を染み込ませた杭を3本打ち込んだ。動きが鈍いと言っても、杭を打ち込めば当然暴れた。だが、杭がうまく抑えてくれた。杭を打ち込まれた尾の方は動かせないようだ。当然動く範囲も制限されている。
聖水を掛けて傷口から染み込ませる。
これを繰り返していけば、弱らせる事は出来るはずだ。
地道な攻撃に加えてこれを繰り返していけるだろう。
作戦の成功を見届けると、部隊交代のタイミングで砦へと戻った。
聖水を吹きかけられると、それだけですっきりとした。
ガード内・短時間であっても、近くにいることで魔に侵されていたようだ。
「あの杭がどれほど持つか次第ですが、3日置きに杭を打ち込めるなら、それだけでも相当に違いますね。」
「そうだな。楓花さん頼りになってしまうが、これが着実な作戦だ。」
閣下は、そう仰せになると次の作戦を3プラン提案なされた。
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