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一部セリフを書き足しました。読み返さなくても問題はありません。
「各部隊が駐屯する川には清草を植えてあります。清草より川下は清水となっておりますので、戦闘後は必ず身を清めてください。」
「植えた?」
「はい、川下は清水になっているのでご安心を。」
一瞬ざわついたが、リハルドの次の言葉で意識はそちらに向いた。
「清水!それは誠か?」
「それなら、穢れを払えるのか?」
「はい、ご安心くださって結構ですが、不安であれば鑑定してください。」
これだけで、集まった軍の指揮官たちの表情が明るくなった。
「深淵との接触後や身体を清めた後は、こちらのスプレーをひと吹きしてください。これの中身は、口外を控えていただきたいのですが、…聖水です。」
場がざわついた。
「今から皆さまへ配布します。お手元に届きましたら、こちらの鑑定レンズでご確認ください。スプレー付きの容器と予備のスプレーなしの容器です。中身がなくなったら、スプレーを付け替えてお使いください。ここを捩じれば付け替えできます。この容器が空になれば、いつでも中身が入った物と交換します。毎日交換に来て構いません。」
「部隊全員に使えるのか?」
「もちろんです。毎日使ってください。戦っても戦わなくても、森にいるだけでも魔を吸収してしまいます。この容器1本で400~500人に使えます。」
「おぉ!!」
手に取った人たちが、鑑定レンズで確認すると驚きの表情を見せた。
「本物だな。」
「だが、聖女様の祈りもなく使えるのか?」
「それは…だが、教会から聖水を頂き自分たちで使うと考えれば同じでは?」
「それもそうか?」
「聖水というものは、小さな瓶にありがたく入っている物だと思っていましたよ。」
「ああ、私もそのように思っている。」
「これについては、他言無用ですよ。どなたも魔人にはなりたくないでしょう?我々は、魔人と戦いたくない。」
軽口が出たので、閣下が笑いながら答えた。
だがこの会話で空気が変わった。
「つまり、今回の戦いでは魔人を出さずに、深淵と戦える可能性があると言う事ですか?」
「そのつもりで用意しました。横流ししてしまえば、聖水が足りなくなり身内から魔人が出るでしょう。そうならぬためにしっかり使ってくれると信じています。」
「はっ!!」
閣下の言葉に、一同は立ち上がり敬礼した。
彼らのほとんどは、各領地から派兵された指揮官だ。
清水と聖水がある。それにより、どこまで準備をしているのかは伝わったのだろう。
リハルドは慣れつつあったが、常識的に考えるなら、これほどの聖水を用意するのは異常なのだ。
あのフーカ様の雑な使い方を見ていると勘違いしてしまうが、これが普通の反応だと気を引き締めた。
「次に救護所についてご説明します。」
「ヒシフォートで育てた治療師が治療に当たります。治癒士をお連れの部隊があるなら、ご協力をお願いします。治癒士と治療師が力を合わせれば、散る者も少ないでしょう。」
「治療師?」
「話には聞いたような?」
「治療師は、ヒシフォートで製造しているポーションや各種薬を使用して治療を行う者です。森の入り口に8か所、森を入って5km地点にも8か所設置予定ですが、深淵の位置に応じて多少移動もさせます。8つのうちの3つは、砦の中へ設けます。」
貼り付けた地図に印のピンを挿していく。
「こちらは、戦いの状況により移動することもあります。また、森の中の救護所は応急処置の場です。こちらで処置を終えたら、入り口側の救護所へ移します。重傷者の場合は、容体を見ながら、クリトン伯が用意してくれた治療所へ移動させます。」
「意味合いはわかったが、ポーションや薬など効くのか?」
「ヒシフォートで認めた薬師の手による品を用意する。」
閣下の言葉で、静まった。
本当の事だけど、野良薬師の行いが酷すぎたために薬師の信頼度は低い。そして、それを使う治療師も信用されていないようだと思った。
「まあ、怪我をしないようお願いします。エリクサーがあったとしても、失った手足は戻りません。」
「エリクサーなどと…」
おとぎ話で話を逸らすなと言うところか。
閣下に視線を向けた。
アイコンタクトを取り、リハルドは後ろに控えていた治療師に小瓶を配布させた。
目の前にいる国軍と領軍の指揮官19人に1本ずつだ。
容器を見た代表たちの手が震えている。
エリクサーの容器であることは、一目でわかるだろう。
「まさか…」
「これほどの数を?」
「そんな馬鹿な…。」
指揮官たちの呟きに、閣下は苦笑いを浮かべた。
リハルドから見ると当然の反応でもあった。
先日、フーカ様が都合したエリクサーは40本だった。
うち5本は、各種薬になっている。残りの半数を放出したのだ。
「鑑定レンズを回す。それは、1本ずつお渡しする。ご自分に使うなり、副官に使うか他に使うかはお任せする。最後まで使わずに済んだなら持ち帰って構いません。」
閣下の言葉に静まり返っていた。
静かだが、力強い声だった。
1年から2年かかる戦いの報酬としても、十分な品だ。リハルドは生まれてから、エリクサーがオークションに出た話を聞いたことがなかった。生まれる前に出た新聞では、国の軍事予算10数年分だったらしい。それを今19本も配布した。
閣下が預かっている予算がいかほどかはわからないが、かなりの金額をつぎ込んだとみられるだろう。実際、フーカ様とどのような取り決めかは知らないが、相当額は支払うはずだ。
指揮官たちは、鑑定レンズで確認しては息を飲んでいるのがわかる。
「今回の戦いは、魔人を出さない。命も散らさぬよう努力はする。安心は出来ぬだろうが、全力で戦ってもらいたい。救護所では、下級ポーションや薬類はもちろんだが、中級まで揃えている。大部分の対応は出来るだろう。」
彼らは、立ち上がり敬礼をした。
表情がまるで違った。完全ではないだろうが、ある程度の信頼は得られたようだ。
閣下の覚悟はしっかりと伝わった。
「では、座ってこちらを向いてもらおう。今回の深淵は大蛇だ。」
閣下は立ち上がり、前へ出るとマップを貼り付けた台をひっくり返した。
白い状態にすると、横に立った。
「今からお見せするのは、今回の討伐対象だ。この絵はそう撮れないので他言無用です。」
「見せる?」
指揮官たちが騒めいた。
明り取りが閉められると、天幕の布を通して明かりは入るが薄暗い。
指揮官たちが首を傾げている中、白い板に大蛇が映し出された。
黒い巨体と赤い目が3つ。
黒い靄を巻き散らしていた。
「これは…!?」
「ここの木を見るとサイズ感もわかるだろう。私とリハルド、クリトン伯と騎士団、それから天龍の者たちと森を探っている時に遭遇した。」
「遭遇!?既に戦ったのですか?」
矢が射かけられ、大剣が振られても尾に近い部分にしか攻撃出来ていない。
あの日の戦いがそのまま映されていた。
尾を切り落とすまでが映っていた。
場面が切り替わり、尾に聖水を掛けながら切り刻んでいる。
あの王宮の庭での様子だった。
どうやってと思うが、閣下が魔道具を使ったのだろう。
「これと戦う?」
前の席の者は、座ったまま腰が抜けたような顔をしている。
後ろの席の者たちは、立ち上がり前のめりで見ていた。
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