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未亡人が、遺産としてキャンピングカーを受け取ったら、大変な事になりました。  作者: 夢
第15章 深淵 【楓花】【リハルド】

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2


 

 「なんだか久しぶりの我が家な気がする。」

 

 楓花は大和の家へ帰ると、ポストと宅配ボックスを確認した。

 宅配ボックスには、定期便で注文しているお水がケースで届いていた。

 

 「重い…。」

 

 文句を言いつつ、車庫へ運びキャンピングカーへ乗せた。

 大和にいる時のキャンピングカーのキャビンは狭い。

 座面が堅めとはいえソファーに乗せるのは躊躇して、床へ置いた。

 いくつかの郵便物が届いていたので、そちらの処理もした。


 

 あの深淵は森を進んで20数キロのところにいた。

 尻尾を切ったので、移動はしにくいだろう。

 それでも、あの大きさならあの森全体が行動範囲かもしれない。

 無我夢中だったのだろう、あれは周囲の木々をなぎ倒していた。

 

 ケイさんの戦略では、森の入り口と入って5㎞の場所に救護所を作るらしい。それを川ごとと言っていたから救護所だけでも8×2か所の16か所になる。

 次回、ヒシフォートで治療師たちと物資を乗せて連れて行くことになっていた。

 馬は入り口に留め、森の中には連れていかないと言う。

 馬はあくまでも移動手段なのだろう。

 

 私が出来る事は何だろう?

 戦いそのものは出来ないから、運送屋になるのは構わない。

 だけど、出来るのはそれだけだろうか?

 楓花は、ルーティーンをこなしつつ、気が付くとそんなことを考えていた。


 


 

 リハルドたちヒシフォート領軍は、先に到着して救護所などの造設をしていた。

 グリフォンは、魔に侵されては困る。

 森に滞在させるのは危険なため、荷を運んだあとはクリトン伯の庭に待機する場所を用意してもらうことになった。

 リハルドとしては、グリフォンが心配だったので前線から離せる事に一安心だった。

 フーカ様が清草を植えてくださったおかげで、水はどこも清水になっており、安心して飲むことが出来た。

 

 魔水が川を流れていたなど悪夢のような話だ。早めに気が付いてくださってよかった。

 魔人になった者もいたようだが、彼らが暴れ始める前に処理出来たのは救いだ。

 それに、人型の魔物と戦うダメージはそれなりに大きい。



 国内では、勇者の戦いは年少のうちに学ぶ歴史の代表格だった。

 おおよそ50年ごとに繰り返されてきた魔と人との戦争。

 それとは別に国同士の戦争もある。

 戦いは常に身近にあるが、庶民まで駆り出すこともこの国では200年ほどはかったはずだ。

 今回も、50年前に学び犠牲者は押さえたい所だ。


 閣下の計算では、国軍・領軍総勢1万5000人の兵が集まるらしい。

 その人数の内、後方部隊は5000人だ。

 食料を運び、食事を作る。怪我人を運ぶ、治療するなどに当たる。

 実質戦いに向かうのは、1万人の騎士・兵士たちになる。


 だが、閣下は都合もあり、最前線にはいられない。

 フーカ様と共に3日に1回程度顔を出してくれるとおっしゃっていた。

 ご不在の間、指揮を代行するのは自分になる。

 森の中の数か所に、岩場があった。

 岩場であれば、あの大蛇も動きにくい。

 いくつかの場所は、待機場所に出来るよう砦として整えることにした。

 川沿いの森の入り口は、各領軍の駐屯場となる。

 そこから5㎞程度入ったところに、治療師のいる救護所にする場所を造った。

 そのほとんどは、点在する岩場を利用した。

 大蛇が動きにくく攻撃しにくい地形だったからだ。

 森の中にポツンとなってしまうので、救護所への護衛は必要になる。

 常時いるのではなく、深淵の動きに合わせて開設場所を変える予定だ。怪我人を一時的に治療し、重傷者は入り口まで運ぶ。

 治療師と薬一式は、フーカ様が運んでくれるらしい。

 しかも、閣下からそのうち5か所には、ガードの指輪を使った救護所にしてくださるとおっしゃっていた。


 スキルによりガードを展開出来る魔術師は、各領にいるため10数人は集まる予定だ。

 だが、彼らとて常時発動出来るわけではない。

 あの指輪が展開出来るなら、救護所だけは安全を担保出来る。それでこそ安心して治療に当たれるだろう。


 なにより、川に流れているのは清水だ。

 多少の怪我であれば、清草の生えている川の下流で水に浸かればよい。それで大方は癒されるだろう。

 森の中で、魔に侵されるのは間違いない。

 それでも、清水があるのなら、清められる。

 計画的に清めに行けるなら、戦闘に参加しても、身内が魔物になるリスクを抑えられるのだ。

 

 軍の人間にしか伝わっていないが、深淵が怖いのは確かだ。

 だが、深淵の本当の怖さは、それだけではない。

 戦っているうちに魔に侵され、魔人になった味方とも戦わねばならない事だ。同じ装備を着ている者に襲われるのだ、勝ったところで敵味方がわからなくなってしまうらしい。

 そうなると魔に侵されずとも錯乱する者が出てしまう。

 清水があれば、そのリスクをかなり低く抑えられる。

 しかも、今回は本物の聖水もある。


 自軍を含めた18の領軍と2つの国軍に、毎日聖水を配布することになっていた。

 あのスプレーなる容器も、部隊の規模に応じて3本から5本配布出来るように用意されていた。

 聖水には見えないが、間違いなく本物だ。

 それを寝る前にひと吹きするだけでも、魔人化は防げるだろう。



 全部隊が到着すると、閣下は元帥として声を張り上げ鼓舞した。

 それから、天幕での戦略会議へと移った。

 会議に出ない大半の者たちは、駐屯地の設営に入った。

 

 戦略会議には、各領の代表が参加した。指揮官と補佐の2名ずつ。

 領主ご本人が来ている領は4つ。小さな領や腕に自信がある方だ。

 他の14領は、騎士団の派兵だ。領主に兵を任された腕に自信のある将が大半なのだ。

 その彼らを前に、閣下は説明を始めた。


 大まかな作戦は、王の元で閣下と軍務卿たちにより詰められていた。

 それらが共有されたが、最も不安な部分は解消されていない。

 過去の深淵との闘いは国中が知っている。不安になるのも無理はない。

 そんな中、ある代表が声を上げた。

 武人としても名高い将であるジリアント伯爵だった。領主であるにも関わらずに前線へ参加するようだ。

 周囲を見回し、眉をひそめていた。

 

 「今回、聖女様はお越しにならないと言うのは本当か?聖騎士もいないようだ。今までそのような戦いはなかったはずだ。」

 

 それを聞いた他の代表たちも動揺した。

 聖女がいない戦いではないのだが、公に言う事も出来ない。

 今の神殿は腐りきっていた。

 声をかけなかった訳ではない。

 聖水1本30mlに対して金貨1枚を求めて来た。国の存続がかかっている場で、兵士ではなく聖水だけで軍事予算を使いかねない。「話にならない」と閣下は切り捨てた。それに対し、「聖騎士の派遣もしない」との返答を受けた。

 閣下は、「それならば協力はいらぬ」と返した。

 リハルドとしてはそれで構わなかった。

 働くと思えないお荷物ならいない方がいい。

 フーカ様の聖水があれば十分だろう。時々は様子を見に来てくださると言っていたし、それで十分だ。

 戦うのは、我々騎士や兵士の仕事だ。

 国王陛下は渋い顔をしていたが、深淵対策費の丸投げをして責任を閣下へ押し付けたようだ。



 「今回、教会から聖女と聖騎士の派遣はありません。私の代行として現場で指揮を執る将トリアシードより説明する。」


 閣下の目配せを受け、リハルドは前に立った。


 「リハルド・トリアシードです。実務面について、些末なところからご説明します。」


 些末とは言っているが、最も関心のある部分だろう。



読んでくださりありがとうございます。

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