13
短めです。
ギルバートは、楓花の瞳に映る自分の姿を思わずのぞき込んでいた。
名を呼ばれてはっとした。
フーカ様に不敬な真似をしてしまった。
「失礼しました。いかがなさいましたか?」
「大丈夫ですか?立ちっぱなしで疲れているのでは?座った方がいいですよ?」
「いえ…大丈夫でございます。」
「ギルバートさんに教えていただきたいので、こちらに座っていただけませんか?」
フーカ様が、着座されるとケントとアーサーは向かい側の3人掛けに座った。
ギルバートは、仕方なく楓花が勧めた一人掛けではなく、様子を覗っていた執事が運んできた背凭れのない椅子に座った。座面が低めの物だ。
「ギルバートさん、今回の魔物をケイさんは深淵と言っていました。」
深淵…50年前、ギルバートが向き合った魔物もそう名付けられていた。
通常の魔物ではない。
数千、数万の命を捧げねば倒せない。
戦いに挑み攻略した者の一部は、その後に勇者と呼ばれる。
ギルバートの所属していた部隊はギルバートだけが生き残った。
動けぬ身になり数年後、先代と出会い執事として仕えさせて貰えた。
「深淵ですか、それであれば…国軍が出兵します。それから国内全域から領軍も出るでしょう。」
「ええ、そうだと思います。前の深淵の時はどのように戦ったのでしょう?」
それを私にお尋ねになる?
フーカ様は何かご存知なのだろうか?
先代から何か聞いているのかもしれない。
「前回の深淵は、毒持ちの大蛇でした。国・領の合同部隊の騎士・兵士が2000人以上犠牲となり、追加で駆け付けた聖女・聖騎士・騎士・冒険者の混合部隊により討伐されました。」
フーカ様の目が見開かれ、ケントとアーサーも口を噤んだままだ。
「その前の記録によると、火を吹く竜や地竜の場合もあったようです。いづれにしても都度数千から数万の騎士・兵士・冒険者などが犠牲になっております。」
「そうですか…。」
フーカ様の手がぎゅっと握られ、スカートに皺が出来た。
明り取りの蝋燭が揺らめいている。
「その深淵たちに共通することはありますか?」
「共通ですか?魔に侵された深淵がいる場所周辺では、獣も人も魔物と化している場合が多いです。」
「人もですか…」
フーカ様は、眉を寄せられた。
いつになく険しい表情をなされた。
「人が魔物化した魔人を制するには、肉体面だけでも相当に厳しい。あれらは騎士が3人がかりでやっと一体狩れるかどうかでした。」
「それほど強くなるの?」
「はい…おそらくは…。」
フーカ様は手の甲を下唇に当てていた。
何か考えているご様子なので、次のお言葉を待つ。
その間に、ギルバートは当時の事を思い出そうとしていた。
深淵が現れた時、魔物だけではなく、獣も増えていた気がする。
違うか、増えるというよりも森を追われて逃げて来たという方が正しいだろう。
50年前20代だった私は、斥候として調査や分析に当たっていた。直接的な戦いはほとんどしていない。それでも、あれほどの怪我をしてしまった。
当時の聖女は…確か、聖水と祈りの力で癒して回っていたはずだ。
今、それを言うとケントやアーサーに余計な懸念を与えてしまうだろう。私の口から申し上げる事ではない。
「深淵の弱点に共通点はありますか?」
「共通点ですか?身体を切り落としても大きさがあれば魔を放出し続けるので、浄化するか燃やすか、小さく切り刻むだったか…とにかく身体の処理が必要です。通常の魔物とはそれが異なります。」
「浄化…わかりました。そろそろ、休んだ方が良さそうですね。明日お願いします。」
フーカ様のその言葉を合図に解散となった。
時計を見ると、夜21時を過ぎていた。
ギルバートは、記憶を頼りに話したもののもう一度確認すべきかと思い直した。
自室に戻らずに、図書室へと向かった。
古い記録があったはずだ。
図書室の奥まった場所にそれを見つけた。
過去12回の深淵との戦いを記録した書物だ。
先代や先々代、それ以前の侯爵が遺した書物だった。
戦いに参加した時もあれば、侯爵として支援し聞き出した話を纏めた物もあった。
それ以前の物は、記録を手に入れたのだろう。
侯爵家が出来る以前の物がほとんどだった。
手書きのそれを読み解くのは、なかなか面倒だった。
それでも、分析すべきだと思い取り急ぎは過去3回分を書き出した。
それ以前、改めて分析しよう。
読んでくださりありがとうございます。
リアクションと合わせて星印を★★★★★~★☆☆☆☆にしていただけると嬉しいです。




