10
「これが、大蛇の尾か…。」
国王陛下は鑑定レンズで切り刻まれたそれを見た。それから、そのレンズを宰相へと渡した。
閣僚たちが、それを鑑定し頷いている。
「これほどの聖水を手に入れるとは…そなた…」
「非常事態でしたので…御身に影響はないと思いますが…。」
「ああ、問題ない。だが、これほどのモノとなると、50年前の勇者が戦った魔物と同等の可能性があるではないか?」
「はっ…ご明察にございます。」
「国軍の派遣をいたそう。それと共に、各領主へ派兵の命も下す。」
「はっ」
「いつ頃に集められるか?」
「グリフォン騎士団が使者殿をお連れするならば、1週間後には集まれるのではないかと…。」
「ふむ…よかろう。明朝までに手紙と使者を用意する。この魔導車は、明朝8時にここに来るようにせよ。ケイは、軍務卿を集め作戦を立てよ。」
「はっ」
「ああ、もう一つ。此度の討伐には其方に薬の手配を任せる。細かい話は財務卿といたせ。」
「はっ」
王たちが宮殿に戻るのを見送り、楓花さんに駆け寄った。
「楓花さん、私とクリトン伯、それからリハルドたちはここに留まります。明日の朝8時にここに来てもらえませんか?」
「わかりました。」
「これをギルバートへ渡してください。」
「はい。」
「今夜は、ヒシフォートで休んでください。クリトン伯の騎士たちも一緒です。」
「わかりました。」
ギルバートは、グリフォンたちが飛んで帰って来たものの騎士たちが誰一人いなかったことに驚いた。
そして、首に着けられた書簡で大方を察した。
それから間もなく、ヒシフォートにフーカ様の魔導車が入ったとの連絡を受け、屋敷の者たちに部屋の準備の指示を出し、真珠宮の入り口で待ち構えた。
魔導車が止まると、フーカ様が降りてきた。
いつになくお疲れのご様子だった。
「ギルバートさん、こちらケイさんから預かってきました。」
楓花は、敬一郎からの預かり者をギルバートへ渡した。
「ありがとうございます。」
「今、皆様を降ろしますね。」
グリフォン隊の2人だけでなく、天龍の男2人とクリトン伯の辺境の騎士たちも降りてきた。
「すぐにお部屋へご案内いたします。」
「急にごめんなさい。ご迷惑をおかけしてしまったわ。」
楓花は泉の家へ帰りたかったが、ケントとアーサーと話しをしなくてはいけないと思いなおした。
「こちらは来ていただけて嬉しゅうございます。湯あみの準備が出来ておりますので、ゆっくりなさってください。」
「あ…そうね。私汚れていたわ。」
楓花はマントを脱いだ。
スキニーパンツの上に巻きスカートを着ているが、上半身は動きやすいようにシンプルな7分袖のTシャツだった。
お屋敷を訪ねるような衣装ではなくて、少し恥ずかしくなった。
フーカ様を部屋に案内するためにやってきたアンは、マントを受け取るために近寄った。
「マントをお預かりします。」
「あら?ありがとう。お願いしますね。」
戸惑った笑顔を向けられて恐縮してしまう。
なんでもおひとりでなさってしまう方だけど、今日はかなりお疲れのご様子だった。
でも、以前のように頑なに辞退なさらなくてよかった。
少しは、お世話を受け入れていただけている?
執事長の指示でフーカ様をいつものお部屋へ案内した。
今日は、鏡台も開けてあり準備万端だった。
最初の頃にそのような失態をしてしまったと引継ぎを受けていた。
お風呂にはお湯を張ってある。
今日こそはお風呂のお世話をさせてもらうつもりだ。
いつも通りにお部屋へご案内した。
フーカ様は、自分でできるからとおっしゃり、やはりお世話はさせてもらえなかった。
「あの…10分後に、バスルームに冷たい飲み物をお願いしてもいいかしら?」
「はい!冷たいお飲み物ですね。お持ちします!」
直接的なお世話は断られてしまったけれど、バスルームに入る許可はいただけた。
これは大きな進歩だった。
もう何回目かもわからないけれど、やっと少しだけ受け入れられた。
時間を計り、脱衣室へ入る。
ナイトドレスと下着が畳まれて用意されていた。
それとタオル布だ。
これは、旦那様も好んで使っている珍しい布だが、やはりフーカ様も好まれていらっしゃるようだ。
「フーカ様お飲み物をお持ちしました。」
「あ…うん…」
「フーカ様?」
湯に浸かりぼんやりなさっているご様子だ。
このまま眠ってしまっては危険だ。
「冷たいお飲み物です飲めますか?」
「あ、ありがとう。」
言葉少なに受け取ると、それを飲み干された。
リリカを絞ってあるので、さっぱりとするはずだ。
これで楓花様の目が覚めてくれるといいのだけど…。
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