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楓花の車が空間移動した先は、王宮の庭だった。
敬一郎の指示だ。
当然だが、王宮は騒然とし近衛隊に取り囲まれた。
到着するなり、楓花は魔石を補充し始めた。その手は震えていた。
敬一郎は、深呼吸をして下級ポーションを飲み小さな傷を手当した。
「楓花さん、失礼。フードを被っていてください。」
敬一郎は、車から降りた。
近衛兵は剣を構えている。
その後ろから、王の秘書官がやってきた。
「元帥閣下!突然何事ですか?」
「秘書官殿、突然申し訳ない。クリトン領のあの森に…深淵…が発生した。」
「は…」
秘書官の目の前に、ケースで保護状態にしたあの尻尾を取り出した。
周囲に薄っすらと魔が広がるので、敬一郎は聖水を噴霧し広がるのを防いで見せた。
「非常事態ゆえ、至急陛下にお目通り願いたい。また、我が魔導士を害することないよう頼みたい。」
「は!すぐにお取次ぎいたします!」
「これを城に入れる訳にはいかぬゆえ、宰相閣下や閣僚がいるならば起こしいただき、御覧いただきたい。」
騎士が数人走っていく。
秘書官は残っている。
近衛兵たちも、剣を構えたまま残っていた。
キャビンを開け、クリトン辺境伯へ声をかけた。
「クリトン辺境伯、城に着いたゆえ降りてもらいたい。騎士団長殿もご一緒に。リハルドも降りて、これを見張ってくれ。」
「かしこまりました。」
3人が降りてくる。
その後ろにいるケントとアーサー、騎士たちにはそのままでいるよう視線を向けた。
ケントとアーサーが頷いたので、ドアを閉めた。
「クリトン辺境伯とその騎士団団長をお連れした。それから、グリフォン騎士団団長のリハルドだ。」
「それでは、現場指揮は?」
「今はいない。このように尾を落としたゆえ、しばらくは森から降りないだろう。皆が魔に侵されぬよう聖水を撒いても良いだろうか?」
「はい、聖水であれば構いません。」
「では、失礼する。」
敬一郎は、リハルドに指示をして、周囲にいる者たちに聖水をスプレーさせた。
敬一郎は、尾を入れたケースに定期的に聖水をかけて見張っていた。
一応、ガード内なので何かあってもガードから漏れることはないだろう。
それに、宰相たちが来たらケースを開けて、魔を消すつもりでもあった。
しばらくすると、国王が宰相や登城していた閣僚を連れてやってきた。
「ケイよ、これは一体…。」
敬一郎は、礼を執った。
「王国の太陽に拝謁賜り…」
「挨拶はよい。説明せよ。」
「御意。」
敬一郎は、顔を上げた。
敬一郎の後にいる同行者たちは、膝をついた礼を執っている。
「先日、国土となりました森とクリトン領の調査をしていたところ、魔が溢れ魔水となり川を通して下っていることがわかりました。」
「なんだと!」
国王は目を見開いている。
後ろにいる宰相や閣僚たちも同様だった。
魔が溢れ川を下るというのは、つまり川下の者たちが魔に侵され魔物になっていることになる。あの森から流れる川下には国土の1/5を占めていた。
国民の1/5が魔物になってしまえば、立ち向かう術はない。
「幸いにも、早々に気が付いたため、清草を植えつけ川の水を清めております。」
「清草を植える!?」
「はい、幸いにも効力を発揮しております。」
「それは誠か?」
「はい、誓って誠にございます。」
「そうか…それで…それがそうか?」
国王の視線は、ケースに入れられた尻尾に向けられていた。
黒い靄が出てきては、控えているリハルドがスプレーで清めている。
「これは大蛇の尾か?」
「はい、流石は陛下一目で見破られましたか。」
「いや…報告を受けたからな。それに確かに蛇に見える。」
「これは尾の先です。推定ですが、体長80m程度はありそうです。」
「80!?」
閣僚たちから声が上がった。
「太さは…」
敬一郎が腕を広げて、このくらいか?と後ろの者たちに問いかけたが、皆顔を伏せたままだった。
陛下へ視線を移すと、頷かれた。
「後ろの者たち顔を上げてよい。」
「は!」
リハルド、ケントとアーサーにもう一度問いかける。
「このくらいの太さだったよな?」
「はい、尾に近い部分はそのくらいでした。頭部は確認出来ておりません。」
「どのくらいあると思う?」
「経験則からであれば…8mから10m程度はあると思います。」
「なんと…それが魔を振りまいているのか…。」
「尾でもこうですから…」
「すぐに国軍を組み、派遣しろ。なんとしてもこれを打たねばならぬ。」
後ろにいる閣僚の一人が声を上げた。
「陛下!僭越ながら、魔であるならば教会から聖騎士の派遣も…。」
「そうか、そうであるが…。」
「ケイよ。そなたここに現れたと聞いたが…どこから来たのだ?」
「森から直接です。」
「そうか、森からか…は?森からここまで?」
「はい。」
「待て、直線距離でも2000㎞は離れておるではないか。」
「はい、仰せの通りにございます。」
国王が狼狽え、何かを言おうとした。
「陛下、僭越ながら先にこれを始末してもよろしいでしょうか?」
「これとは、この尻尾か?教会でなくてよいのか?」
「はい、構いません。今から魔を漏らさないため、陛下を含め守護壁を築いてもよろしいですか?」
「守護壁?構わないが…」
本当は、楓花さんにきてもらいたいが、陛下には見せたくない。
敬一郎は、車に向かい運転席に声を掛けた。
「楓花さん、今から尻尾を消しますので、ガードの外側に第2ガードを展開してもらえますか?」
「はい、大丈夫です。私も行きましょうか?」
「いえ、楓花さんはこちらで待っていてください。もし、私が失敗したらお願いします。」
「かしこまりました。」
楓花さんが第2ガードを展開してくれた。
敬一郎は、剣先に聖水を噴霧する。
それから聖水の入った1L瓶をリハルドへ渡した。
「リハルド」
「閣下、よろしいですか?」
「3数えます。」
「ああ」
「1・2・3」
リハルドがケースを開けた瞬間に、敬一郎が聖水を掛けた剣で切り刻む。
それとほぼ同時に、リハルドが聖水を注ぐ。
ジュワーっと音を立て黒い靄が消えた。
浄化を終えたソレを陛下の前へ差し出した。
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