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相談を終えると、楓花は第2ガードを閉じた。
ガードを20mにし、グリフォンたちも入れる。
食事の準備を始めた。
森の中では十分に食べられないかもしれない。入る前にしっかりと食べたほうがいいだろう。
クリトン領の騎士たちは、木の実ウサギのソテーは珍しくておいしいだろう。
レタスときゅうりや玉ねぎのスライスを混ぜただけのサラダを作り、フレンチドレッシングをかけた。
私はどうしようかな?天龍も毎回のように食べているし、今日は変えようかな?
「フーカさん、鉄板と網どっちにする?」
「今日は鉄板にしましょう。木の実ウサギのソテーを作りつつ、私はガパオライスか…それともマーボーにしようか…。」
「麻婆豆腐ですか?」
つい、敬一郎は聞いてしまう。
麻婆豆腐は好物だった。
「麻婆豆腐がお好きですか?それなら、お豆腐も一応ありますね。そうしましょう。」
「それは嬉しい。」
楓花は、アーサーが焼いている木の実ウサギのソテーを見た。出てきた脂を隣の鉄板に移した。
長ネギのみじん切りとニンニク、ショウガを炒めると一帯に香りが立ち上がる。そこに鷹の爪の輪切りを入れ、少ししてからオークのひき肉を入れてそぼろにした。炒めてから鍋に移した。
鉄板は邪魔なので周囲の石の上に移動させて冷やした。
鍋を火にかけ、豆板醤と甜面醤、赤みそを適当に入れた。沸くまでの間に豆腐をパックから取り出して一口大に切っていく。
別に鍋をかけて、水ともやしを入れて火にかけた。
もやしは、洗浄済みを持ってきていた。販売しているパックは大腸菌数が多く、しっかり洗う必要がある。水から火にかけたのは、そのほうがシャキシャキに仕上がって美味しいのだ。
待っている間に、キュウリも千切りにしていく。
茹で上がったもやしを水で洗って冷やし、キュウリを入れて醤油・酢・砂糖を同量であわせ、ごま油を加えて混ぜる。
これでナムルが出来た。
麻婆豆腐の鍋を見た。豆腐にも火が通ったようだ。
水溶き片栗粉でとろみをつけ、味見をして少しだけ豆板醤を追加して醤油を入れ、最後にごま油をひと回し入れた。
長テーブルを出していると、馬の足音が聞こえてきた。
楓花はキャビンに入り、炊飯器から釜を取り出して運んだ。
パンも籠に入れた。プライベートブランドの食パンを半分に切っていた。
敬一郎さんと私は、お茶碗にごはん、深皿に麻婆豆腐、小鉢にナムルでいいだろう。
「皆さん、お好きに盛り付けてお召し上がりくださいね。」
「ケイさん、どうぞ。」
「ありがとう。」
敬一郎は、ぼんやりと料理をしている楓花を見ていた。
目の前には、この世界にはない麻婆豆腐定食が並んでいた。
今日はいつも以上に不思議な状況だ。
「いただきます。」
挨拶をしてスプーンで口へ運んだ。
結構刺激的な辛さだが、白飯との相性が抜群だった。
これは止まらない。
敬一郎は、麻婆豆腐と白飯を交互に食べ進める。
それを見て、グリフォン隊隊長のリハルドは真似をして食べ、同じように無言でルーティーンを繰り返し始めた。
「楓花さん、料理お上手ですね。」
敬一郎は、何気なく褒めた。
楓花はふんわりと笑い、それを聞いてリハルドは驚く。
「これをフーカ様が手ずからお作りに?」
「ええ」
「フーカさんは料理上手ですよ。」
「うん、見たことのない料理ですが、美味しいです。」
リハルドは当然のように言う天龍の2人に目を瞬かせた。
「いつも…以前も思いましたが、本当にお料理を振舞われていらっしゃるのですね…。」
「そうですね。」
「貴人であらせられるというのに…はぁ…」
リハルドの溜息交じりの言葉に、ケントとアーサーは苦笑いを浮かべた。
今の言葉は聞かない方がよさそうだ。
無関心を装い、無心で食べ始めた。
同じテーブルには、楓花と敬一郎、リハルドと騎士2人、辺境伯と騎士団長、それにケントとアーサーがいた。
クリトン領の騎士団たちにも料理は振舞われていた。
彼らは、敬一郎たちの2m先に敷かれたブルーシートの上にいた。皿とカップを手にしていた。
「この木の実ウサギのソテー素晴らしい香りで美味しいです。」
彼らは、珍しい生野菜のサラダと高級な木の実ウサギのソテーを選んでいた。
怪しげな茶色いどろどろとした料理には手が伸びなかったのだ。
料理は、細長いテーブルに並んでいて、自分で盛り付ける形式だった。
クリトン領の騎士たちは、押し並べて皿にサラダとソテーそれに食パンを切ったものを乗せていた。
彼らはブルーシートに座って食べている。
「生の野菜というのは、初めてですが…おいしいですね。それにこのかかっているソースがおいしい。」
「木の実ウサギのソテーもいい香りがついていて、脂がのっているのにさっぱりと食べられる。」
「だけど…見ろよあれ…」
騎士団の騎士の視線の先には、元帥閣下とその隊長が無言で謎の茶色い物と白い物を交互に食べ続けていた。どう見ても夢中で食べているように見える。
「うまいってことか?」
「そうじゃないか?」
「茶色くてドロドロだったぞ?」
「ああ、わかっている。だけど…あれ見ると夢中に見えるよ?」
「食べて見るか?」
「そうだな…」
彼らは恐る恐る深皿に白い物と茶色い物を盛りつけた。
「よし、食べてみるぞ!」
騎士の一人が茶色と白の混ざった物をスプーンですくって口へ入れた。
途端に口に広がる濃厚なうま味と辛さに慌てて白い物を食べた。
白い粒は、味があるのかないのかよくわからないが、辛さを和らげてくれる気がした。
そして、敬一郎たちと同様のルーティーンに入ってしまう。
「え?そんなに?」
見ていた騎士たちも、白飯と麻婆豆腐を盛り付けてブルーシートへ戻ると、無言になって食べ始めた。
これから魔のいる森に入る。これが最期の食事かもしれない。
だからこそ、こんなご馳走を用意してくれたのだろう。
こんなに貴重な香辛料をふんだんに使った料理は、普段なら自分たちが口に出来るものではないのだ。
「ふぅ…昼に食事なだけでも驚きなのに、食べ過ぎました…。」
テーブルに着いていた辺境伯が笑いながら言う。
敬一郎もそれに苦笑いをしつつ、頷いた。
麻婆豆腐は、唐辛子と山椒が効いていた。この世界では慣れない刺激なのだと思うが、受け入れられたようだ。
辛味は刺激的でもそれなりに控えめなのは、だれでも食べられるようにとの配慮だろう。
そういう調整をしてくれることにも驚いてしまう。決まったレシピではなく、控えるべき香辛料の取捨選択をしているのだ。
「美味しすぎましたね。食べすぎました。」
「そうですか?ここからが大変ですから、しっかり力をつけた方がいいですよ?」
「それはそうですが…。」
そうなのだが、こちらの感動は楓花には伝わっていないようだ。だからと言って、香辛料について語るのも違うと思ってしまう。
仕方がない。
これからすべきことに向き合うか。
敬一郎は、紙を取り出しペンを走らせた。
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