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「先生!」
船から人が降りてきた、あの患者の息子さんが走ってくる。
「あら、この船でお仕事を?」
「はい!おやじの船です。療養中なので、俺が代わりです。」
話をしていると、大きな樽が降ろされていた。
「あら、大漁のようですね。」
「はい、今日は豊漁でした。先生、これ持って行ってください。お世話になったので、手ぶらでは返せません。」
「え?こんなに?」
樽の中には、カツオのような魚や鯖や鰯まで入っている。
「こいつを干し魚にすると、日持ちします。」
「それはそうですが、こんなにいただくのは…。」
「気にせずにどうぞ。」
渡されてしまったので、大量の魚の入った樽を樽ごと受取った。
ケントとアーサーが倉庫へ運び入れ、倉庫内でバケツに移していく。樽のままでは、一番下の棚へ入れられないのだ。それでは腐ってしまう。
バケツに移し、一番下の棚へ入れた。
「それでしたら、こちらをどうぞ。ウサギ肉です。」
「いえ、そんな!」
「こんなに沢山いただいたのだもの、これくらいは受け取ってくださいな。味もつけてある自信作です。」
「え、いやぁ…なんだかすみません。」
「こちらこそ申し訳ないのよ?貴重なお魚をたくさん頂いてしまったわ。」
楓花はお礼に木の実ウサギの肉を渡した。最初は遠慮されてしまったけど、特製の味付けだと言うと受け取ってくれた。
それから辺境伯の許可も得ているので、エカサのギルドで肉を下した。
ピンクオークと木の実ウサギ、角うさぎ、それにブラックベアだ。
海辺の街なので、角うさぎ以外の肉はあまり出回らないらしい。
先日の木の実ウサギは多すぎた。
だから、天龍も売ることに同意してくれた。
大量に釣らせてもらったお礼も兼ねてこの街に卸したのだ。
それから、少し離れた場所へ行き車を止めた。
周囲は木々が生い茂っているので、静かに過ごせるだろう。
そこで、ガードを10mに展開し、外で魚を捌いた。
水道にホースとシャワーヘッドを繋いだので、外でも水を使える。
小さい鯵や鰯は内臓を取り出して、塩を振る。
大きな鰹は、3枚に卸したものをさらに半分に切り、ビニール袋に入れて脱気した。時間停止なので、保存に問題はないけれど、後を考えると、きっちりと処理しておきたい。
ケントやアーサー達は、相変わらず狩りをしていた。
木の実ウサギの肉があるので、積極的に狩る必要はないけれど、寄ってくるのでガードを守るためにも仕方がない。
夕方、獣たちが来なくなった。
珍しいこともあるものだと思い、静かな時間を過ごした。
「ちょっと妙ですね。」
そういいつつも、出来ることもなくそのままベッドで休んだ。
目覚まし時計で起きて、いつもの通り朝食の準備を始めた。
なんだか外は暗いようだ。
朝食を作り、外に出たが、夜のように暗い。
あれ?時計が止まっていたのかもしれない。
今何時?
不思議に思いつつ、じっと周囲を見た。
何か違和感がある。
時折、光が差し込むけれど、すぐに消えた
急いで、外へ出ると2階への梯子を上がり、声をかけた。
ケントさんとアーサーさんが下りてくる。
「もう朝なのに真っ暗ですね。」
「ええ、でも何だか変なの。これどう思いますか?」
2人が周囲をじっと見ていた。
ナビは警告を発していない。だけど、何かが外にいるのは明白だった。
「何がいる?」
「わかりませんが、何かがいます。」
「ガードを広げられませんか?そうすればわかるかも?」
「あ…そうですね、試してみましょうか。」
「ナビ、ガードを11mにして。」
『かしこまりました。ガードを11mにします。』
光が広がると、周囲を巻いている細長いものが驚いたように首を上げた。
どうやら巨大な蛇に巻き付かれているらしい。
蛇は巻き付いた体を伸ばし、車を見下ろしている。
「ひっ…これって…。」
「蛇ですね。でも…敵対心がない?」
敵対心があれば、ナビが警告してくるはずだ。
それがないなら、狩る必要はない?
大蛇は、見下ろし体を擦り付けると森に帰っていく。
「今の何?」
「わかりませんが、気持ちよさそうに体を擦り付けて行きましたね。」
「そうかな?そうかも?」
「50年前の勇者一行が倒した最大の敵は大蛇だったとあります。」
「大蛇?今のような?」
「はい、身幅3mの太さのある大蛇だったと記録されています。もしかしたら、その子供かもしれません。」
「今のが敵?でも…敵対心はないみたいでしたね。」
「そうですね…」
「勇者の戦いってどのような物だったのか知っている?」
私の質問にケントとアーサーが苦笑いをした。
そして、ルーシーさんが口を開いた。
「勇者一行と騎士団は、大蛇との闘いで呪いをかけられ、闘い後に亡くなったと聞きました。おひとりだけ生き残った方が陛下の元へ報告に上がったと…。」
「そうですか…。」
それなら、敬一郎さんに聞くしかないのだろう。
とにかく、今は目の前のこの蛇をどうするかだ。
ガードは、ここまで巻き付いているのに警告音を出していなかった。
蛇が通って行った場所の木々はなぎ倒されている。
「あの蛇に敵対心があったら、警報音は鳴るわよね?それとも壊れた?」
楓花は、呆然としたまま思考にふけっていたが、ケントやアーサーは周囲を確認したらしい。
「フーカさん、ガードを広げてもらえますか?」
「わかりました。とりあえず20mくらい?」
「それでいいです。」
ナビに指示をすると、ガードが広がる。
その瞬間、「シュバッ」と音がした。
「うおっ!」
「ケントさん、アーサーさん大丈夫?」
「ああ、俺たちは平気だ。」
「俺たちは?」
「周囲に倒れていた獣が消えた。」
「獣が?」
「あれは…魔物だったのか?」
「え?」
「通常の獣は、魔石はあるが肉として使えるだろ?」
「ええ、そうですね。」
「魔物は、聖なる物に触れると消えるらしい。」
「でも、形は残っていたのよね?普通なら、それはどうするの?」
「肉として、使うだろうね。」
「食べて平気なの?」
アーサーさんが首を振った。
「食べているうちに魔物になる。」
「それは…危険ね…。魔物と大丈夫な物を見分ける術はある?」
「聖水をかけるしかない…はずです。」
「そんなもの…一般にはないだろう?」
ケントさんは地を這うような声を出した。
「とりあえず、この辺りだけでも様子を見ましょうか。」
「そうだな。」
「ルーシーは2階へ戻ったほうがいい。俺たちは、車の周囲で警戒する。」
「わかりました。それでお願いします。」
楓花はガードに聖水を掛けた。
それから、運転席に乗り、窓を開けた。
「ナビ、ガードを100mに展開して。」
『かしこまりました。ガードを100mに展開します。』
『ピーーーーーー!!』
警告音と共に、大量の音が聞こえる。
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