9
「ハサン、治療師も他のスタッフもまずは食事をしてください。」
「すいません…これは?」
「マカロニ入りスープと木の実ウサギ肉のソテー、茄子とキノコのソテー、サラダです。」
「すごく美味しそうです。」
「美味しいわよ。しっかり食べてください。」
それから、治療師たちとスタッフは交代しながら食事を始めた。
楓花は、食事を終えたハサンと共に病室を見て回る。
「病室にいるのは、重病人や治療後の様子を見る必要のある患者たちです。基本的には家へ帰り、また来てもらうほうが多いですが、それが心配な人だけは泊まってもらっています。」
「いい考え方だと思います。彼らの食事は?」
「それは、家族が用意します。」
「そうですか。」
楓花は、診断をする能力はないけれど、鑑定で状態はわかる。
ポーションを使った患者は軒並み栄養が足りていない。
体を補修するには、栄養が必要なのだろう。無からは何も生み出せない。
「ハサン入院患者からは次回から追加費用をもらいましょう。それで一日3回飲み物を出してください。」
「飲み物ですか?」
「はい、薬代として追加でもいいと思いますが、食事とは別です。」
「わかりました。」
楓花は、プロテイン飲料を取り出した。
粉末の大袋だ。
念のために1袋だけ持っていたのだ。
再現が難しいから、買うしかないけど1日3回スプーン1杯分ずつ飲んでもらおう。
「コップ1/3の冷ました白湯にこれをすりきり1杯分入れて溶かします。これを1日3回飲んでもらいましょう。」
「わかりました。」
「それで、治療が優位に進むか確認しましょう。」
「万能薬を飲ませた患者には、1日後から白湯を飲ませ問題がなければ飲ませるようにしましょう。」
「はい」
「それまでは、絶食です。ご家族には何も食べさせないように伝えてください。喉が渇いたら、口を潤す程度の白湯を飲んでもらいましょう。」
楓花は、念のために買っておいた吸い口を取り出した。
体を起こさなくても飲みやすい容器だ。
「これを使ってください。これを使って口を潤すだけにしてもらってね。」
「かしこまりました。」
「では、私は外に止めた車にいますので、何かあったらドアのボタンを押してください。」
「はい。」
「手を出してください。シールを貼ります。これで、1日だけ車の外側に近づけます。」
「え?車の外側?」
「はい、基本的にガードを展開しているので、近づけないの。」
「そりゃあまた…」
「では、車に戻りますね。」
「はい、ありがとうございます。」
楓花がキャビンに戻ると、リリーがベッドで眠っていた。
起こさないように、ベッドとの間の仕切りを閉めた。
やっぱり、いろいろと知識が足りなすぎる。
それに、プロテイン飲料に近い日持ちする物も用意しないと、せっかくのポーションの効果が無駄になりそうだ。
楓花はルーフベッドに転がり、そんなことを考えていた。
翌朝、楓花は朝食の支度をアーサーたちに任せて治療院へ入った。
昨夜プロテイン飲料を飲ませただけで、かなり状態が改善されている。
万能薬を飲ませた患者は、内臓は完全に修復されたようだ。
「この方に、昨日の粉を3杯分飲ませてください。」
「はい、すぐに。」
楓花は、外に出て焼きあがったばかりのオムレツを受け取り、患者の元へ戻った。
「これを食べてみましょうか。」
患者の家族に渡して食べさせてもらう。
患者はぺろりと食べ終えた。
プロテイン飲料と卵を食べ終えた患者は体を抱えた。すぐに肉が盛り上がってきた。昨日の万能薬の効果がまだある?
手足が完全に戻るわけではないけれど、傷口が盛り上がり綺麗に塞いだ。
「これは…。」
ハサンが呆然と私を見た。患者のご家族も私を見る。
やってきた治療師たちも患者を見て、私を見た。
「さすがは万能薬ね。驚く効果だわ。」
「は!?」
「ば…ば…万能薬ですか!?」
「はい、万能薬です。」
治療師たちは、驚いたようで固まっている。
「先生、それはいったいおいくらの請求を?」
「ん~?そうね…お支払い出来るなら、高級ポーションの4倍くらい?」
「たったそれだけですか?」
「それでも高額よ?普通に支払うのは大変では?」
ご家族が問いかける。
「あのおいくらですか?」
「金貨56枚ですが、先生…本当に?たったそれだけでいいのですか?高級ポーションでさえ、オークションでは金貨100枚ですよ。」
「いいじゃない?私が勝手に使ったので、支払えないなら…。」
「お支払いする!」
患者が叫んだ。
「もう死ぬしかなかった。それが、手足をここまで治してもらえた。こんな奇跡に値段をつけるのもどうかと思うが、金貨56枚はなんとか支払える。命があれば、なんでもできます。」
「あの、支払える時にここに支払いに来てくれればいいです。ですが、仕事は人のためになることをしてください。罪になるようなことをした対価でお支払いを受けたくありません。」
「もちろんです。」
「息子の俺が支払う。俺は漁師だから、おやじの船で稼いでくる。」
「はい、それなら安心しました。あ…そうだ。私、アシュレイ様から釣りの許可もいただいているの、港へ行くこともあると思うから、よろしくお願いしますね。」
楓花は、のほほんとそんな挨拶をした。
「は?釣りですか?」
「はい、何が釣れるか楽しみですね。」
楓花は、安心したので治療院をあとにした。
領主館へ挨拶を済ませると、楓花は港へ向かった。
天龍がいるから大丈夫だと言ったのに、断り切れなかった。
辺境伯の騎士たちに警護されながら、埠頭で釣り糸を垂らした。
大和から持ってきた釣り具で、糸を遠くまで飛ばす。
鯛や鯵のような魚がよく釣れた。
鯛のような魚の鱗を取り、3枚卸にしてから、持ち上げ光に透かして寄生虫を探した。
大丈夫そう?
念のために鑑定をイメージして確認するが、寄生虫はいないようだ。
有害物質もないか一応鑑定した。
水道水でよく洗い、皮に熱湯をかけて湯引きにし、氷水につけてから薄く切り分け刺身にした。
生姜とわさびの薬味と細ネギの小口切り、醤油、それから、皿に盛りつけただけ、魚を並べて塩とごま油をかけたもの、塩とオリーブオイルをかけたものを用意した。
「生魚?」
「はい、寄生虫はいなかったので大丈夫ですよ。苦手なら無理せずに。」
ケントの問いかけに答えつつ、楓花は少しずつ皿に取り味見をした。
あまりの歯ごたえとおいしさに表情が緩む。
「美味しいですよ。虫がいると大変なことになりますが、今回はいないので大丈夫です。」
ケントが恐る恐る手を伸ばし、一切れ食べて信じられないって顔をした。
「うまい…。」
「でしょう。」
楓花は気を良くして、お刺身を食べる。
それを見ていた、他のメンバーも食べ始め、食べられないのはリリーさんだけだった。
いつもの焼き台を取り出し、枝を入れて火を着けた。
海鮮バーベキューと言いつつ、魚と一緒にお肉も焼く。
鯵のような魚は、味もよく似ていた。
ピンクオークの肉は、通常のオークより臭みが少なく、うまみの強い豚肉そのものの味だった。
見張りにいる騎士の方たちにも声をかける。あたりを警戒しつつ、交代で食べてもらう。
大勢でわいわいと食べるのは楽しい。
釣りをして、バーベキューをして、海を満喫していた。
鯛や鯵の半分ほどは、冷蔵庫に入れて保管する。
魚と書いたバケツにも入れたので、少しは売ることも出来そうだ。
片付けをしていると、大きな船が港に入ってきた。




