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未亡人が、遺産としてキャンピングカーを受け取ったら、大変な事になりました。  作者: 夢
第12章 治療師

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3


 エカサは港町だ。

 住民の3割は漁師のため、船が戻ってくるまでは治療院を開いている必要があった。

戻って来て数時間後の18時になると、治療院は店じまいをする。

 そして、夜は早く寝る町だ。

 それでも、ドアを叩かれる事がある。

 

 「治療師様!助けてください!」

 

 ドンドンと激しく叩く音に、ハサンはため息をつきながらドアを開けた。

 

 「どうした?」

 「酒場で揉めて、腹を刺された!」

 「腹?腹は助けられないぞ。」

 「そういわずに治してくれ。」

 「腹はまず助からん。それでもいいならやってみるだけやってもいい。」

 「それじゃあ頼む」


 兄弟のようだ。

 治療を始めるために、準備を始めようとしたが、ふと気になり患者を診た。

 蝋のような白さになっていて、とても生きているようではない。


 「残念だが、もう手遅れだな…。」

 「そんな!兄貴!」


 弟が縋り付いているが、触れるままに揺らされている。

 傷を見ると、腹も刺されているが、心の臓も刺されているようだ。


 「兵士を呼ぶぞ。」

 

 一応声をかけてから、ハサンは兵士の駐屯所まで使いを出した。

 しばらくして、兵士がやってくる。

 弟に事情聴取を行い、それからご遺体ごと連れて行った。


 ハサンは、ため息をつきながら、血に染められた診療台を洗い清めた。

 片付けを終えると、薬師の館へ提出するための書類を書き込んでいく。

 ポーションは下級、初級、中級、高級の4種類を持たされていた。

 ポーションについては、値段はあってないような物だった。

 必要だと判断した薬が効かなかった場合、使うように定められていた。

 使った場合、それまでの治療費の2倍を受け取るという決まりだ。

 そのため、オークションほどの高額にはならない。

 高額にはならないが、中級以上については、使用した理由説明書の提出をしなくては、補充されない仕組みになっていた。

 高級ポーションを買って補充など出来ないので、説明書を書くしかないのだ。

 

 治療師になる時に、薬はどのように作られているのかも見せてもらった。

 ポーションとワセリン、ポーションと消毒薬、ポーションと癒し水を混ぜ合わせていた。

 それならば、ワセリンや消毒薬という物を手に入れられれば、自分で作って売れるのかと少し頭をよぎった。

 だが、ポーションは初級であっても購入する術がなかった。

 それ以上に、ワセリンも消毒薬も、それ自体を見つけられない。

 癒し水は、誰も聞いたこともなかった。


 教会には聖水がある。

 癒し水の代わりに使おうかとも考えた。

 それは、お布施という名で金貨を積むことで、手に入れる事は出来る。

 だが、聖水は量が少ない。おそらくこの癒し水のパック2つ分くらいしかないだろう。

 とても、割に合わない。

 大人しく治療師になって、雇われる方がいいと分かった。

 

 だが、自分でも作れそうだと止めていった奴もそれなりにいた。

 彼らが今、どうしているのかは分からない。

 だが、ハサンは成功するわけがないと思っていた。


 フーカ様もヒシ閣下も、おそらく儲けなど気にしていない。

 儲けを考えるなら、ポーションでも治せない膿んだ傷を治せる消毒薬を、これほどの低価格で使わせるはずがない。

 金貨数枚で治療をする治療院を作ったのは、どう考えても施しのような物だった。


 専用の建物を各地の領主が建て、助手や手伝いを雇っていた。

 派遣された治療師がいくら治療しても、頂くお代は薬代に若干の色を付けただけのものだ。これと金額面でも効果でも、張り合える治癒士も薬師もいないだろう。


 ハサンは、子供の頃は治癒の才があると認められていた。

 だが、スキルはあるが、治癒の才が使えることはなかった。

 それなりの商家で育ったため、親は治癒のスキルを使えるようになるようにと、随分と金を費やしてくれた。それだけに使えないままだった事を申し訳ないと思っていた。

 だから、治療師の話を聞いてすぐに申し込んだ。

 もしも、治療師になれたら親へ顔向けが出来る。そう思った。


 この薬はすごい。

 治癒士にはなれなかったが、この薬を使えば俺でも人を癒す事が出来る。

 それは、治癒士になれずにいたハサンにとって救いだった。


 

 「そういや、新聞読みました?」

 

 治療していると、患者が聞いてきた。

 

 「しみるぞ。」


 湯冷ましで傷を洗い終えたので、下級消毒薬を吹きかけた。


 「痛てえ。」

 「そりゃそうだ。そう言っただろ?」

 「いや、まあ聞いたけど…。うわ…すげーな、噂通りの効きだ。」

 「噂?そりゃあ、この薬はしっかり管理された環境で作られているからね。」

 「本物を使ってもらえるなんてありがてえ。」

 「さっきの…新聞って、偽下級ポーションの話か?」

 「ええ、ここは評判がいいからそんな物は使わないだろうが…そんな物に頼った人は気の毒だよ。」

 「そりゃあな…印のない物は信用しないで欲しいもんだ。ヒシフォートの薬師の館製は、必ずこうやって印と使用期限が付いている。小分けパックを購入する時には気を付けてくれ。本当に偽物が多い。」

 「悪いね。つい不安になって聞いてしまった。」

 「いや、構わないさ。不安になるのはわかる。」



 数日前の新聞では他領の事件が掲載されていた。

 薬師の館と同じ作り方を謳った下級ポーションを販売した薬師が捕まったらしい。

 飲んだ客が数十人亡くなったらしい。


 薬を飲んでも亡くなる事はある。

 だから、亡くなったとしても、ポーションが原因とは限らない。

 だが、そのポーションは、毒であると鑑定結果が出たようだ。取り扱いが悪いのか、それとも薬師としての腕がないのかはわからない。

 治療院で、少し話題に上がった程度の話だった。


 

 




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