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楓花が頬に手を当てる。
「あら、キスをされてしまったような?」
「それは、妖精の祝福でございます。」
ギルバートの声が響いた。
「祝福?」
「はい。気まぐれな妖精でございます。祝福を与える事は非常に稀と伝え聞いております。私は、今奇跡を見ました。」
「奇跡?」
戸惑う楓花だったが、敬一郎も戸惑っているようだ。
敬一郎にしてみると、前回見た時にはドレスはボロボロだったように思う。
それを、あのレース編みで補修したのだろう。美しいレースのドレスを身にまとっていた。
楓花にとっては、エルにされたことがないので驚いただけだ。
敬一郎は、スマホを使いたいだろうと思い、人払いをした。
人払いをしても、ギルバートは残っている。
うん、ここで聞いてもいいのだろうか?
「あの…この間のジャム…」
「ああ、あれですね。驚きましたよ。ギルバートの皺がみるみるうちに消えて。」
敬一郎はそう言いながら笑っていた。
「ごめんなさい。こんな事になると思っていなくて…。」
「ギルバートは喜んでいますよ?」
「はい、ご本人から聞きましたが、でも…その…。」
「どうしました?」
「せっかく素敵な老執事然とした方を若返らせてしまって…お屋敷の貫禄とか…。」
「はぁ…」
「いや、もう…。」
楓花は、謝っているようで謝っていなかった。
渋い老執事を若返らせた事を後悔しているだけだ。
「ああ、なるほど!」
そんな楓花を見ていた、敬一郎が手を打った。
「あなたのお好みでしたか!」
「え?ちょっと待って…。」
楓花は慌てて両手を出して、敬一郎を止めようとした。
「変な意味じゃないのよ。」
「へぇ」
「見ているだけでいいの。」
「まあ…」
「癒しだったの!」
言ってから、楓花は口に手を当てた。
ああもうっ。
自分でしゃべってどうするのよ。
顔を上げると、敬一郎はニヤニヤとしている。
「旦那様も年上でいらっしゃいましたし、まあ…そういうこともあるでしょう。」
敬一郎の表情はなんだか歪んで見えたのは、私が涙目だからだろう。
「それはまあ…でも、本当に不用意だったわ。」
「いえ、そんなことはありません。1瓶ずつ残してあります。ギルバートのような苦しみを持つ者と会った時に使わせてもらいます。」
「それって…勇者一行の?」
「ああ、お聞きになられたのですね。」
「少しだけ…。」
敬一郎さんは、顔を上げた。ドアの近くまで下がっていたギルバートさんがやってくる。
「あのジャムを食べさせたい者はいるか?」
敬一郎さんの問いかけにギルバートさんは、顔を歪めた。
「いえ、残念ながらおりません。」
「おりません」ということは、勇者一行は生きていないのかもしれない。楓花は二人のやり取りを見ていた。
「ですが、あれから50年です。最近のホワイトジャイアントの発生を見ても、近いうちに大物が出ても不思議ではありません。」
「そうだな…。」
大物?
あのホワイトジャイアントよりも大物?
それは相当にまずいのでは?
「今であれば、聖女様もいらっしゃいますし…」
「あれ?違うのでしょうか?」
ギルバートがこちらを見て敬一郎を見た。
「楓花さんは、過去結婚していましたが、聖女です。」
「え?敬一郎さん、それは違う。」
「結婚していたというのは…白い結婚ですか?」
ギルバートさんが、呆気にとられた顔をして聞いてくる。
思わず、答えてしまった。
「いえ、普通に当たり前の夫婦でしたよ。」
楓花は失礼だと思いながら答えた。
白い結婚と思われるなんて…。
ギルバートさんは相変わらず呆けた顔をしている。
「えっ…と…旦那様、どういうことでしょうか?」
「楓花さんは、聖女で間違いない。聖水の妖精も認めている。」
「あの、敬一郎さん?」
「もしかしたら、こちらでしていないから聖女のままなのか?」
「敬一郎さん?」
「あ、失礼。えっと…なんでしたかね?」
「今、とても失礼なことを考えませんでしたか?」
「いえ…」
楓花はじーっと敬一郎を観察した。
確かに、こちらではそういうことはしていない。
でも、だからと言って…口に出す?
言っていいことと悪いことがある。
ベッドの話なんてプライベートな事例を他人に言うはずがないのだ。
「楓花さん、これを聞くのは大変失礼と承知しているのですが、こちらに恋人はいますか?」
「いませんよ。居たら…こんなにこちらには来ていません。」
「そうですよね。」
「なんで私が聖女扱いされているの?」
敬一郎に問いかけると、一枚の紙を置いた。
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聖なる泉の妖精が汲んだ聖水
聖女の噴霧器(聖水入り)
――――――――――――
「これは?」
「楓花さんの持って来た品を鑑定するとそれが表示されます。」
「え…これが?」
噴霧器はスプレーを視たらこうなっているってこと?
そんな馬鹿な…。
「まあ…泉の家は引き継ぎましたが、聖女でなくとも住める場所ですよ。そうでしょう?敬一郎さん。」
「それはそうかもしれませんが…。」
「とにかく、私はそのような者ではありません。」
「はぁ…わかりました。そういう事にしましょう。とにかく、ギルバードは、貴方のジャムで若返った。それだけです。」
「そうですか。わかりました。」
子供のような言い方をした敬一郎に対し、楓花も返した。
なんだが、落ち着かない。
「敬一郎さん、少し場所をお借りしますね。」
そう声をかけて、最初の目的を果たすためにスマホを開いた。
執務室で妖精の実体化を見た従業員たちは、その奇跡を同室の者に話した。
外の人には絶対に言わないが、屋敷内の事を屋敷内の者同士で話すのは普通の事だった。咎められる性質のものではない。
だって、奇跡を目にしたっていう情報共有なのだ。
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