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楓花は、合間を見ながら初級ポーションの作り方を書き出していた。
そのほとんどは、作り方というよりも、材料にする薬草の見分け方だった。フレッシュを用いた場合と、乾燥を用いた場合に効果を同等にするための分量の違いなども説明している。
薬師の館にいる限りは、材料はフレッシュで質の良いものを使える。
楓花が採取を行っているし、リュシーが聖水を使い育ててくれているからだ。
基本的には、真珠宮へ顔を出すことはあるけれど、滞在するのはお屋敷の方だった。
薬師の館へ通うために訪れたお屋敷だったが、いつもなら出迎えに出てくれるギルバートさんの姿が見えない。
その代わりに、ギルバートさんによく似た中年の男性が出迎えてくれた。息子さんだろうか?ギルバートさんほどの渋みがないけれど、穏やかそうな人だ。
「フーカ様、ようこそお越しくださいました。
「4日間の滞在になります、よろしくお願いしますね。」
ギルバートさんによく似た執事に戸惑いつつ、部屋に案内してもらった。お屋敷のいつもの部屋に、執事といつものメイドさんがついてくる。
「あの…ギルバートさんは忙しいの?」
執事が立ち止まり、メイドと顔を合わせると、こちらを向き直った。
「フーカ様、私がギルバードです。」
「え?まぁ!どうしてその姿に?」
「フーカ様の御業ですよ?」
「え?私ですか?」
「はい。」
ギルバートさんを名乗る執事がメイドをちらりと見た。
メイドが廊下の端へ下がった。
ギルバートさんは、不快にならないギリギリまで近づいてきた。
「フーカ様が旦那様へお渡しになった、ヒールベリーのジャムをいただきましたところ、このようになった次第です。」
「え?あれで?」
意味が分からない。
確かにポーションの材料ではあるけれど、こんな効果があるならとてもじゃないけど、外に出せない。ちょっとジャムにしただけなのに、深みのある壮年の男性を若返らせてしまった。なんてことだ。
楓花は悔やんだ。
ザ執事然とした、ギルバートの姿は気に入っていたのだ。
「フーカ様?」
「それは、なんだか申し訳なくて…。」
「とんでもございません。」
メイドが近づいたので、ギルバートさんは話を辞めた。
「先にお部屋へご案内します。」
いつもの部屋へ通された。
楓花は案内されるままに、ソファーへ座った。
ソファーといっても、片側にだけ肘掛のあるカウチになっていた。
「それで、本当に若返ったの?」
「はい、それとともに傷も消えました。」
「まぁ…」
「お茶のご用意をします。」
メイドの言葉が聞こえると、ギルバートさんは頷いた。
ドアが閉まる音がしてすぐに、ギルバートさんが目の前に跪いた。
「あの…」
なんと声をかけるべきか。
楓花は言葉を持ち合わせていなかった。
「御業のお陰で、古傷の全てが修復されました。」
「それは、よかったですが…そのような効果があるとは知らず…。あのケイさんはなんと?」
「よかったじゃないかと…。」
「そうですか、それであればいいのですが…。もう頭を上げてください。私は特別なことをしてはいないので…。」
「いえ、特別なことです。旦那様へお渡しになったものからのひと匙で長年の苦しみから解放されたのです。」
たったひと匙!?
執事だから、毒見を兼ねて食べることもあるだろうし、それがなくとも一緒に楽しみを分かち合うこともあるだろう。
だけど、長年の苦しみ…そう言われるとなんと返すべきか…。
「お辛い症状があっはたのなら、教えてくださればいいのに。ポーションはいくらでもあるのよ。」
「いえ、先代がお作りになった万能薬でも治りませんでした。特殊な魔物と戦った時の傷は、血を浴びた背中と腕にひどい痕と痛みを残したのです。」
「あら、ギルバートさんが魔物と?」
「私は、元は冒険者です。執事を輩出する家の出身ですが、30までは冒険者でした。」
「そうですか…。」
「お時間をいただき、申し訳ありません。ごゆっくりお寛ぎください。」
ギルバートが立ち上がると、メイドがワゴンを押して入ってきた。
最初のお茶を淹れ、楓花に提供して部屋を出ていく。
その見事な礼を見送りながら、楓花はふわふわと散らばっていた言葉の欠片を集めていた。
「ねぇ…ギルバートさんってどんな冒険者だったのかしらね?」
「執事長は、有名な冒険者だったと聞いています。そうですね、少しお待ちください。」
メイドが部屋から下がり、十分ほどで戻ってきた。
「こちらをどうぞ。」
差し出されたのは、大きな絵が描かれた童話だった。
「童話?」
「はい、勇者と大蛇です。」
「これとどういう関係が?」
「これに出てくる斥候が執事長です。」
メイドは「ふんす」と後ろについていそうな風情だ。
「まぁ、物語の題材になるほどの活躍を?」
「はい、国を襲ってきた大蛇を倒した勇者一行に入っていたようです。これは、他の家の方々もご存じのことなので、機密ではありません。」
メイドは得意げだ。
私が疑わし気な視線を向けてしまったのかもしれない。
楓花は、スマホを使うために敬一郎さんの執務室を訪ねた。
部屋へ入るなりキラキラと光りが舞った。
「え?」
「ほぉ…。」
楓花が驚きの声を上げ、敬一郎は感心したような声を出した。
「あら、お家の妖精さん?」
「見えるのですか?」
「ええ、うっすらと…でも…。」
楓花の周りを光が舞っている。
楓花は、自分で編んだレース編みのひざ掛けを取り出した。
「これを差し上げましょう。」
楓花がひざ掛けを掲げると、ひざ掛けが消え、光が終結し曖昧な人型を作った。
ボロボロだったはずのドレスが美しい物に変わっていた。
周囲にいた使用人たちが一瞬どよめいたが、すぐに口を閉じ壁の花になった。
楓花が、バックの中から泉の家で育てた果物を取り出した。
今はイチゴが旬だが、グズベリーもたっぷりと実っていた。それも持っていた。
「これがイチゴで、こちらがグズベリー美味しいですよ。」
言いながら、お皿に入れて渡すと妖精がそれらを口にした。
皿のベリーが減るごとにはっきりとした輪郭を現した。
現れた妖精は、楓花と敬一郎に祝福のキスを送り消えた。
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