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水曜日、仕事を終えた楓花は、家に帰るとポストを覗いて、すぐにイルルジオーネの泉の家へ向かった。
エルの用意してくれた夕食を食べ、朝まで6時間ほど寝る。
起きて、朝食を食べ終えると畑の様子を見に行く。
植えた薬草は根付いたようでしっかりとしてきていた。ここなら、泉の水で育てるようなものだ。浅い用水路から水を取り込めるだろう。
前に移植したヒールベリーはしっかりと茂り、実っていた。
熟した実を収穫していく。
あまり入れると、下の実が潰れてしまうので、浅めの籠に収穫物を入れた。
まだ在庫もあるので、これは地下の食糧庫で保存しよう。
でも、完熟していて美味しそうだった。
このまま食べてもいいかな?
味を知らないままなのもよくないよね?
ヒールベリーを一粒食べてみると、酸味が強めのベリーだった。
うん、でも…甘い。
これはこれで癖になる美味しさだ。
ジャムにすると美味しそう。
これだけ沢山あるのだし、全部ポーションにしなくてもいいよね?
お砂糖も確か…食糧庫にあったはず。
うん、今日はジャムを作ろう。
楓花は、大きな平鍋にヒールベリーと砂糖を交互に入れて放置する。
その間に、中級ポーションを使った薬3種を作る。
敬一郎さんが用意してくれた容器は、多角形にカットされた容器で宝石のように美しかった。色は、使い切りの薬に使っている承認スタンプと同じ色らしい。
「貴族用って言っていたけど、容器代が高そうね。」
内容量も50ml程度のようだ。自分で用意した容器は20mlだから、2.5倍ね。結構な量を使えるけど、使い切るのは大変かな?軟膏は扱いが難しいかも。
消毒薬用の容器は、豪華な容器だけれど、どうも100均で見るサイズのスプレーを嵌めているようだ。このスプレーポンプを作るのが難しいのかもね。
貴族への販売用を各種22個ずつ作った。
普段売っている使い切りパックは10mlなので、5本分となる。
でも、容器代を考えるとその倍以上の値段になりそうだ。
容器は50個ずつ受け取っていた。これが売れるようなら追加で作ればいいだろうと、楓花は考えていた。
1時間経ったので、楓花はジャム作りを再開した。
砂糖をかけたので、浸出液が鍋の1/4程まで出ていた。満杯近くあったヒールベリーも2/3程まで嵩が減っていた。
火にかけて、へらで丁寧に混ぜる。
「エル、ありがとう。お願いします。」
エルにヘラを預けた。全体に沸き上がったので、灰汁を掬いとる。
灰汁を捨て、煮詰めていく。
エルと交代しながら煮詰めた。
もう少し煮詰めるところで、汁を掬い取り煮沸したガラス瓶へ入れた。
これは、ソースとしてヨーグルトと食べたい。
ホットケーキにかけてもいいかもしれない。
残りをさらに煮詰め、ソースと同じように煮沸したガラス瓶へ入れた。それらを、湯を張った鍋に入れ、蓋を載せておく。
ぐつぐつ沸騰させてから耐熱手袋で取り出し、蓋を閉め逆さまにして冷やす。
「あんなにあったのに、ソース5本とジャム5本なんて…少ないなぁ…」
「これは、何にしますか?」
楓花が瓶にジャムとソースのシールを作って張り付けた。
「これはねぇ、ソースはヨーグルトにかけて、ジャムはパンに塗るとおいしいと思う。」
「今の作業楽しいです。」
「本当?他の果物でもできるのよ。おすすめはリンゴとオレンジだけど、オレンジやみかんの柑橘類は種も使うからちょっと違うのよね。」
「やり方を知りたいです。」
「じゃあやってみる?」
エルが謎のやる気を見せたので、リンゴのジャムとマーマレードも作った。
マーマレードを作るのに果汁と種を使ったけれど、多すぎるのでオレンジの砂糖漬けも作る。
その日は、一日ジャムと砂糖漬けを作って終わった。
15時には眠りにつき、21時に起こしてもらう。
起きたら、すぐに大和へ戻って朝の7時だった。
持ち帰ったジャムとソースを3種類2本ずつ棚へ置いた。
お弁当を作り、朝食を食べると、お米を研いで冷蔵庫へ入れて仕事へ向かった。
今日は、帰ったら炊飯器をセットしてすぐにまた泉の家へ向かえる。
向こうへ行ったら何をしようかな?
帰りがけにヨーグルトを買って行こう。考えるだけで楽しかった。
後日、敬一郎は楓花からヒールベリーとリンゴのジャムとソースを1瓶ずつお裾分けされた。
「旦那様、いかがなさいましたか?」
「ああ…ヨーグルトはないから、パンがいいかな…。」
「こちらは?」
「これは、楓花さんが作ったジャムだ。」
「ほぉ…それはそれは、フーカ様は多才でいらっしゃる。」
「そう思うだろう?問題は、原料だよ。鑑定して見てくれ。」
「はい。かしこまりました。」
ギルバートは、鑑定レンズを覗くと、何度も目をまばたいている。
「これは、ポーションのようなものでしょうか?」
「なんと出た?」
「聖なる泉の妖精と聖女が作ったジャムとソースと出ました。こちらのおふたつは、ヒールベリーのジャムだそうです。」
「そうだな…ははっ…。」
敬一郎は笑うしかなかった。
貴重なヒールベリーをジャムやソースにするなど、楓花さんしかしないだろう。
「効果は…多少の欠損や内臓の損傷を修復するそうです。」
ギルバートの言葉に、敬一郎は声が出なかった。
それでは万能ポーションに近い。
万能ポーションには、かなりの貴重な材料が多品目必要だったはずだ。それをヒールベリーと砂糖とレモンか何か程度の材料で作ったのか?
「日持ちは?」
「日持ちは…こちらのヒールベリーの2種は、50年です。リンゴジャムも同じですが、こちらは、傷を癒し害するモノを排除するそうです。」
「それはまた…」
「あ…材料が見られます。聖なる泉の妖精が育てたヒールベリーとレモン、砂糖だそうです。見られたところでという材料ですね。」
「そうだな…はぁ、全く…。」
敬一郎は、額に手を当て椅子に寄り掛かった。
とんでもない。
ヒールベリーだけと言っても、あの家で育てた材料を使ったのなら納得だった。
「食べないと楓花さんに質問をされて困る事になるだろうか?きっと、いかがでした?と聞いてくる気がする。」
「さようでございますね。開封してしまっては、日持ちしないのですか?」
「ああ、どう考えても1週間程度になるのでは?」
「有効に使いたいお気持ちもわかりますが、それであれば一つは召し上がった方がよろしいのではありませんか?」
「やはりそうか。」
「パンをお持ちしましょう。」
「ああ、頼む。」
敬一郎は、ギルバートと二人でパンにジャムをひと掬いずつ塗って食べた。
「うん、酸味が強めのイチゴジャムだな。」
「このような濃厚なお味は…ありがたい事です。」
ギルバートであっても、いやこの世界ではジャムは貴重なものだった。
ジャムが貴重というよりも、砂糖が貴重だった。
「ギルバート!?」
「旦那様、いかがなさいましたか?」
ギルバートの顔の艶が出ていた。
ギルバートは手袋を外した。たった1匙のジャムだというのに、ギルバートの手に残っていた杭を打たれた傷跡がみるみるうちに消えていた。右手は、使用に問題はなかったが、左手は少々使いにくかったはずだ。握って開いてを繰り返している。
「動かせるのか?」
「はい…信じられません。たった1匙ですよ。これぞ奇跡です。ああ、フーカ様なんという奇跡を…。」
ギルバートが、手を組みジャムへ祈りを捧げ始めた。
こんな反応になるのも無理はない。
ギルバートは先代から仕えていた。先代も彼のために手を尽くしただろう。
彼の手は、魔を纏う杭で打ち付けられたもので、万能ポーションでも治せなかった。聖水で育ったからなのか、それとも妖精の影響か、はたまた楓花さんの影響かは分からない。
ただ、少なくても…50年前勇者一行にいた斥候が力を取り戻したことだけはわかった。
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