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未亡人が、遺産としてキャンピングカーを受け取ったら、大変な事になりました。  作者: 夢
第10章 カライア帝国と港町

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8


 辺境伯は居住まいを正した。

 元帥閣下は、隊長に隣に座るよう促した。


 「では、今後の取引についてですが、治療師5名と薬及びポーションの提供を希望ということでよろしいか?」

 「はい、間違いございません。距離もありますので、難しいようであれば、1人でも2人でも…。」

 「それについては、しばらくの間は問題ないが…出来れば、そちらの領の中から治療師見習いを出して欲しいですね。見習いをしながら学び、必要な知識を得られたら治療師として認めます。力量十分となった暁には、免状もだしましょう。」

 「え?」

 

 辺境伯は、隣にいる騎士団長と顔を見合わせた。

 あのような秘術を教えてくれるというのか?

 

 「そうなれば、そちらに薬を納めるだけで済むからな。こちらから出す者は、まだまだ学ぶ事も多く、半年交代になる…。」


 辺境伯は言葉を崩し、薬を納めるだけで済むなどと軽口をおっしゃる。

 だが、薬を正しく使える者を育ててくれるというのは、信じられない提案だった。派遣するのみであれば、ずっと依存状態にさせることもできるのに、独立できるようにしてくれるというのだ。

 治療師がいるなら、以降の体制の構築もできる。

 適正に薬を使う技術を持つ者がいるなら、今とは全く別の医療体制を敷くことになる。

 

 「秘術ですよね?よろしいのでしょうか?」

 「それが、楓花さんの望みですからね。私は、彼女へ協力しているだけです。王都にも、治療所の開設をしますから、何も辺境伯だけを特別扱いするわけではありませんよ。」

 

 治療所の開設と、治療師の育成は別の話しだろうに、元帥閣下はフラットな表現を使われた。

 元帥であられるのだから、軍務だけと思われがちだ。

 だが、この方は宰相でさえ思いつかない施策を打ち出し、陛下から認められていると聞いたことはあった。今の話からも、それが真実だとわかる。

 そして、ご一族のフーカ様も同じなのだろう。

 20代の青年にしか見えないが、やはり47才だったか48才だったか…とにかく年齢相応の知識と見分、類いまれなる聡明さをお持ちの方のようだ。



 クリトン伯領の領都に最初の治療所が開かれたのは、3か月後だった。

 派遣された治療師5名、領民から集めた見習い10名と小間使い5名だ。

 建物と土地は、辺境伯が用意した。

 見習いへの小遣いや生活費は、辺境伯負担だった。

 治療師と小間使いへの掛かりは、治療で支払われる金銭で賄うという。

 治療費は、一律で決められており、辺境であるため少し高いらしいが、王都の何倍もするわけではないようだ。

 今まで大金をかけ命がけで、王都まで行って受けることの出来た治療だ。領内で受けられるのであれば、いくら支払っても高くはない。

 何より、あの隣国との戦闘から、騎士たちの命を救った治療法とあって、領民からの信頼は絶大だった。

 


 

 ある日の夕方、辺境伯は、邸宅の団欒室にいた。

 妻は所在なげに座っていた。

 その前では、息子のアッシュがフーカ様と見たことのない木の玩具で遊んでいた。

フーカ様は、なんと床に腰を下ろしていらっしゃる。メイドがクッションを渡したようで、辛うじて尻の下に敷かれてはいるが、とても貴婦人のなさりようではない。床に座り、息子をとろけそうな笑みで見ていらっしゃった。


 「あれは?」

 「積み木という遊びだそうです。なんでも…指先で物を掴む訓練になり、想像力を育むとか?」

 

 アッシュは、小さな手で四角い木を積み上げ、時には向きを変えて立てていた。そこに三角を乗せると、城によく似た形状が出来上がった。フーカ様が手を叩いて、アッシュを称えていた。アッシュも満面の笑みで喜んでいて誇らし気だ。


 「ほぉ…」

 「ちちうえ、おしろ…おしろです。」

 「ああ、すぐにわかったぞ。アッシュは他には何を作れる?」

 

 「アシュレイ様もこちらでご覧になっては?」

 「そうですね。」


 フーカ様の誘いに答え立ち上がると、メイドがクッションをもって来た。

 床に座ってみると、息子の動きがよくわかる。うまく掴めない時には、フーカ様が掴んで見せていた。なるほど、言葉もあまり伝わらない幼児だから、実際にやって見せているのか…。このような教育方があるとは知らなかった。

 

 アッシュは、三角や四角に長方形を組み合わせ、筒も使い船を作り出した。


 「ほぉ…船だな。」

 「ちちうえ、ふねでしゅ……ふねです。」


 噛んでしまって言い直す様も子供らしい。

 フーカ様は、乳母のように接してくれていた。

 アッシュは、乳母にするように遠慮なくフーカ様の胸元へ顔を埋めている。けしからんのだが、フーカ様のお顔を見ると、ここで怒るわけにもいかない。

 ふと振り返ると、妻がいつも通りに澄ましてお茶を飲んでいた。


 「アッシュ様、ほらお母上を呼んでいらっしゃい。」

 「きてくれないと…」

 「大丈夫ですよ。お誘いしなくては、見ていただけませんよ。」


 フーカ様は、アッシュを勇気づけて、妻の元へと向かわせた。


 「ありがとうございます。」

 「いえ、アッシュ様の力作ですから、見ていただかなくては。」

 「妻は…あまり子供に接しないので…お気を使わせて申し訳ない。」

 「乳母がいれば仕方のないことです。赤子は日常的に世話をしてくれる人に懐きます。母であっても、日常的に接していなければ、接し方もわかりませんよね。」

 「そうですね。ですが…フーカ様は子供の扱いに慣れていらっしゃいますね。」

 「子供は好きです。甥っ子たちを見守る事をしてきました。それに子供は、どの子も可能性の塊です。愛おしくて仕方ありません。」

 

 フーカ様のとろけそうな笑顔の中に、少しだけ影を感じ取ってしまった。

 触れない方がいいことだろう。


 妻がアッシュに、手を取られてやってきた。小さな手に握られても、大人を引きずることはないから、妻の意思で来たらしい。珍しいこともあるものだ。

 アッシュが、得意気に説明するのを、首をかしげながら聞いていた。一応、息子の話しを聞こうとしている。そんな妻は珍しく愛おしくなる。

 フーカ様は、家族団欒をご覧になりそっとソファーへ座られた。

 メイドたちが、もてなしている。

 辺境伯は、フーカ様の元へ行かねばと思うのに、目の前の妻と息子をもう少し眺めたいと思ってしまう。


 結局、もてなすためにソファーへ戻るのに数分を要した。

 戻る時には、珍しく妻が息子と一緒に戻り、息子をすぐ隣に座らせた。それをフーカ様は嬉しそうに見て、ほんの少し顔を伏せられた。

 

 「ふふっ、アッシュ様が可愛らしくて、長居をしてしまいました。あちらの積み木はお使いくださいね。では、私は失礼します。おもてなしありがとうございました。」


 夫妻は玄関まで出て、フーカ様を見送った。

 魔導車が見えなくなると、顔を見合わせた。



読んでくださりありがとうございます。

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