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未亡人が、遺産としてキャンピングカーを受け取ったら、大変な事になりました。  作者: 夢
第10章 カライア帝国と港町

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 辺境伯アシュレイ・ドロ・クリトンは、戦後処理が落ち着いた頃に、ヒシフォートにいる元帥閣下の元を訪ねた。


 「改めて、此度の戦争へのご助言・作戦の遂行など多大なる助力に深く感謝を申し上げます。」


 元帥閣下に、国王に対するものと同等以上の礼を執った。決して国王に見られてはならない礼だった。

 辺境伯と騎士団長、側近たち同行の者全てが膝を付き、頭を最大限下げていた。


 「辺境伯、そのような礼を取ってはいけない。貴殿が耐えていてくれたからこそ、国の北西は守られています。それは、貴殿方の功績に間違いない。私は、貴殿を称える。」

 「いえ…ありがたき…ありがたき幸せに存じます。」 

 

 辺境伯は、飾る言葉を持ち合わせておらず。貴族らしい言葉を紡げなかった。

 元帥閣下が、隣にいるフーカ様へ視線を向けた。

 今日は、大魔導士のフード姿ではなく。美しいドレスをお召しになっていた。ドレスのラインは大仰なものではない。だが、フーカ様が近づいてきて驚く。ドレスの裾から腰近くまで、美しい刺繍が布と同じような色で施されていた。

 これほどの衣装は、見たことがない。

 妻のドレスに刺繍をひとつ入れることが、どれほどのものか知っているつもりだ。だからこそ、貴婦人たちは華やかな色を使い豪華さを競っている。

 その刺繍を、布と近しい色で入れるなど…そのような贅沢を出来るというのか。なんということだ…。

 元帥閣下とは、知力・戦力・そして財力も天と地ほどの差があるということか…。


 「皆さん、お体の調子はいかがですか?」

 「フーカ様、この度は私や騎士団長を始め、騎士・兵士・領民を広く助けていただき、その多大な温情に対し、報いるだけの感謝を表す術もございません。今後、私を始め辺境の民たちは、フーカ様への感謝を示すため、年2回の…」

 「辺境伯、遮ってしまって申し訳ありません。私は人としてできることをしただけで、命を助けることしか出来ませんでした。手足を失った多くの方は、今後不便を強いられます。ですから、そんなに大仰に思わないでください。」

 「とんでもありません、フーカ様の功績は…どれほど尽くしても、見合うものではないのです。」

 「それなら…少しおねだりしてもよろしいでしょうか?」

 「もちろんでございます。ご希望をかなえられるよう全力で当たらせていただきます。」

 「楓花さん、そこまでです。細かい話は…ここではなく、応接間で行いましょう。」


 無邪気に話し始めたフーカ様を、元帥閣下が慌てて止められた。

 閣下が慌てるような物をお望みになるのか?いや、着ているドレスも何もかもが見たことのない一級品だ。これらは、閣下であるから揃えられる品々だろう。

 もしも、家宝をお望みになられたとしても、献上するつもりはある。

 辺境伯は、気を引き締めた。



 応接室へと通された。

 元帥閣下とフーカ様、その後ろにグリフォン隊隊長と執事長が立ち、壁際にはメイドと執事たちが立っていた。

 辺境伯は、向かい合う席に騎士団長と並んで座った。


 「先ほどは、失礼した。何分…楓花さんは公式の場を理解しておらず…。」

 「ごめんなさい。」

 「いえ、とんでもございません。我々は、出来うる限りお望みの物を揃えさせていただきます。具体的にはどのようなものをお望みでしょうか?」


 フーカ様が嬉しそうに両手を合わせて右頬へと当てた。


 「そうですね、これから年に何度か伺ってもよろしいですか?先触れ無しでもいいですか?…よろしいのであれば、その時だけでいいので、魔導車を停める場所が欲しいです。」

 「そのような場所はいくらでも…。」

 「あとですね。辺境伯のご子息がとてもかわいらしかったので、お伺いした時には遊ばせていただきたいの。」

 「そのようなことはいくらでも…。息子がとても喜びます。」

 「あとは…港や漁業権などいろいろな利権はあると思いますが…」


 港の利権をお望みか?確かに我が領にとって最大の権利だ。

 あれらが欲しいといえば、お渡しする覚悟はあるが…それは、我が領の実質的な支配者になることを意味する。

 なんでも差し出すつもりはあるが、覚悟が足りなかったようだ。

 冷や汗が、背中を伝っていく。

 辺境伯は、楓花の次の言葉を待った。


 フーカ様は両手の指を伸ばしたまま、左右を合わせた。


「私と同行者に、釣りをする権利も欲しいです。」


 室内に静寂が訪れた。

 誰も言葉を発しない。

 今、何を言われた?

 確認の必要がある。

 港の支配権ではなく、釣りと行ったか?


 「は?釣りですか?フーカ様のお手を煩わせなくても、いくらでもお望みの物を釣り上げて献上しますが。」

 「そうじゃないの。自分で釣り上げたいの。」

 「はぁ…?」


 元帥閣下が、苦笑しながら言葉を挟んだ。


 「ああ…辺境伯、お気遣いいただいて申し訳ないが。こういう人なので、そちらの都合がよい時に釣りをさせてやってほしい。もしかしたら、私も同行するかもしれないが…」

 「まぁ!ケイさんも一緒に釣りをするの?楽しみですね。」

 

 楓花が、敬一郎ににこやかに問いかけるが、辺境伯は戸惑っていた。

 着ている物、風貌、身のこなしその全ては、彼女が貴人であることを語っていた。

 それなのに、彼女の望みは金や物ではなく、やりたい事を叶えるための一時的な場の提供だった。

港の権利もいらないのか?本当に?

 

 「フーカ様、我が家には家宝の玉などもありますが、お望みにはなられないのでしょうか?」

 「え?家宝ですよね?大切に仕舞っておいたほうがいいですよ。珍しい物を見るのは好きなので、今度見せてくれるなら、それはそれで嬉しいですけど…」

 「はぁ…」

 

 辺境伯は困ってしまい、元帥閣下を見るが気にも留めておられない様子だ。

 後ろにいる隊長と執事長も、穏やかな様子でフーカ様を見ている。

 これで普通らしい。


 「辺境伯…閣下のお名前は?」

 「アシュレイ・ドロ・クリトンでございます。」

 「それなら、アシュレイさ…様とお呼びしてもよろしいでしょうか?」

 「楓花さん、ファーストネームはいけません。家族以外では、特別な関係にしか許されません。」

 「フーカ様でしたら、どうぞお呼びいただいて構いません。私もお名前でお呼びしておりますので。」

 「ですって、ありがとうございます。では、改めてアシュレイ様、よろしくお願いします。」

 

 元帥閣下の言葉は、フーカ様には届いていない。

 フーカ様のお陰で、和やかに終わってしまった。

 だが、ここからが本番のはずだ。

 執事長が動いた。


 「フーカ様、別室にご用意がございますので、お越しいただけますかな?」

 「あら、ギルバートさん?何かありました?」

 

 フーカ様は立ち上がると、元帥閣下の執事長に促されて立ち上がった。


 「それでは失礼させていただきます。ごゆっくり。」


 部屋を出る前に、振り返り挨拶をしてくださるとにこやかに退室なさった。


読んでくださりありがとうございます。

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