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未亡人が、遺産としてキャンピングカーを受け取ったら、大変な事になりました。  作者: 夢
第10章 カライア帝国と港町

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 辺境伯が、元帥閣下のいる丘の上へ到着すると、グリフォン隊隊長から、ガード内に入るための許しを受けた。手首に小さな物を貼ったのだ。

 最初に案内された天幕では、手足を失った者たちが悲痛な表情で椅子に座っていた。


 「これは一体…」

 「信じられない。誠のことか?」

 

 辺境伯と騎士団長の声に、患者たちが顔を上げた。

 手当を受けた者たちは、椅子に座っていたのだ。

 傷口は塞がっており、血を流してはいなかった。しかも、おそらくここに運んだ全員がいる。

 信じられない。手足を落とせば、半数以上は死ぬ。

 生き残ったとしても、半年以上苦しみながら傷が肉で盛り上がるのを待つ。それから義手や義足を作る。だが、彼らは今すぐにでもそれを使える状態だった。

 

 「ここに来た方は、皆さんお命はありますが、残念ながら…手足を失ってしまった方も多く…。」


 グリフォン隊隊長が、丁寧に説明をしてくる。

 残念ながらというような状況ではない。


 「それは、ありがとう。ありがとう…。本来ならこの半数以上は、命の火を消していたことだろう。あなた達のお陰だ。隊長殿もご存じだろう?手足を失えば、肉が盛り上がるまで半年以上辛い時間を過ごすものだ。それが、こんなに治っている。これならすぐに義足も義手も付けられる。辛い時間は精神を病ませるものだ。それがないだけでも、どれほどの救いかわからない。ありがとう。本当にありがとう。」

 


 騎士団長の、涙を流しながらの謝礼を聞いていた兵士や騎士たちが、顔色を変えた。

 騎士も兵士も、今まで手足を失った事に呆然としていたが、自分たちの命は助かった。

 義手や義足を取り付ければ、今まで通りとはいかないけれど、ある程度は動ける。そうだ、今まで見てきた同僚たちを思い出した。

 彼らは苦しんだ末に亡くなったり、苦しみながらどうにか半年以上耐えて動けるようになったりした。その間に苦痛のあまり病んでしまい、まともな生活が送れない者もいる。

 それと比べれば、比べるまでもなく恵まれている。

 それに、それを…涙を流して喜んでくれている上官がいた。


 そこにマントを来た魔導士が現れた。


 「あなたたち、酷い怪我ね。服を脱いでください。」


 手足を失った騎士や、兵士が苦笑いを浮かべた。

 この魔導士は、母ほどの年齢のようだ。親切で優しいが、動きは無軌道だった。

 腕は確かだが、患者の傷を治すのに必死で、相手をよく見ていないと兵士も騎士も思っていた。

 騎士から優先して治療するものなのに、下位の兵士も騎士もお構いなしで治療していくのだ。

 痛すぎて文句も言える状況ではなかったが、通常なら大問題になる。

 そして、今は辺境伯と騎士団長を捕まえて、騎士団長の治療をしようとしているのだ。

 

 それにしても…おふたりとも、ぎりぎりで躱している怪我ばかりだ。

 このままなら、間もなく体内から腐っていくのだろう。

 おふたりとも自覚なさっている。だからこそ治療もせずに、仕事を急いでおられるようだ。

 それなのに、魔導士はなんだか物凄く怒っている。

 辺境伯にあんな態度をしては、後で罰せられるだろうに。

 そう思っていると、おふたりとも軍服の上着を脱いだまま、天幕へ連れられていった。くぐもった悲鳴を上げているから、あの痛い薬を使われているに違いない。


 「寝てしまったから、目が覚めたらこちらを飲ませてください。」


 天幕から出てきた魔導士様は、フードを外していた。グリフォン隊隊長殿へ指示を出している。

 ずっとフードを深くかぶっていて、見えなかった頭部が見えた。

 黒い艶やかな髪を巻き上げていた。真っ白い肌にあまり特徴のない平坦な顔だった。

 声の様子や指の細さから、母くらいの女性だとは思っていたが…妙に神々しい。

 黒い髪は、ヒシ家の特徴だ。助けてくれたのは、ヒシ家のお方だったか。ならば、あの態度も致し方ない。むしろ、直接その手で助けてくださったことが、信じられない。


 兵士たちの視線に気が付いた元帥閣下が、魔導士にフードをかぶせてしまった。もう少し見ていたかったと思った者は少なくなかった。




 楓花は、戦いが終わったと聞いて安心して治療をしていた。

 一通り終わって外に出てみると、一番酷そうな怪我をした人たちが立っていた。白い軍服姿だが、血が染み出てきていた。


 初級癒し水を飲むだけでは、治らなかった傷なのだろう。

 それなら、一刻も早く治療しなくてはならない。


 彼らの服を脱がせて血の気が引いた。心臓近くや腹部にいくつもの刺し傷があった。それひとつで大変な状態だろうに…。

 彼らを天幕へ連れていき、意識があるうちに万能ポーションを飲ませた。それから表面の傷に高級消毒薬をかけていく。



 楓花が、必死に治療する様子を敬一郎は、険しい顔で見ていた。

 辺境伯の席が空くのは、国としての損害が大きい。アシュレイ・ドロ・クリトンの子息はまだ幼く、しばらくは使い物にはならない。

 だが、万能ポーションの存在は、知られたくはなかった。

 どうにか口止めをしなくてはならない。


 この辺境伯は、かなり聡い人物ではあるが、堅物でもある。

 どこまでの融通が利くのかはわからない。

 敬一郎は、口止め作戦を考え始めた。



 

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