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使者が戻ってくるまで、2時間以上あるだろう。
その間に、必要なことを詰めておかねばならない。
敬一郎は、タイムスケジュールを考え始めた。
救護をする、治療師がいる。
楓花さんもいるから、滅多なことは起きないだろう。重傷者はグリフォンを使い、ここまで運ぶ予定だ。
キャンピングカーの周囲に、重傷者用の救護所の設置を始めていた。
今後の動きを楓花さんと確認しつつ、聖水の在庫量を確認した。
「楓花さん、騎士たちが到着したら、それをかけてからシールをお願いします。それからグリフォンたちにもお願いしたい。」
「わかりました。いいですよ。」
「それと…そちらの水はまだありますか?」
「はい、たっぷりではないですが、10Lのタンク10個くらいは…。」
「タンク10個ですか、それは心強い。スプレーもありますか?」
「ええ、あと3つくらいなら…」
敬一郎は、今の楓花の言葉を受けて、作戦を変更することを決めた。
10Lのタンク10個分が、たっぷりではないという言葉は、スルーすることにした。
霧吹きで噴くのだから相当な回数使えるはずだ。
「閣下、辺境伯より正式な応援及び救助要請です。」
使者が戻り、手紙を受けとった。スムーズだったようで、2時間かからなかった。
「それでは、私と楓花さんは一度王都へ顔を出してくる。ガードが切れるが、乗り切ってくれると信じている。」
「閣下、お任せください。」
リハルドと騎士たちが礼を取り、車を見送った。
楓花と敬一郎が車に乗り向かったのは、王都近くの街だった。20分ほど走らせ王都へ到着した。
王都へ近づくと門の外の建物の少ない道を空間登録した。
各門では、敬一郎が顔を出すと中へ通してくれた。城門の中へと入る。
さらに40分ほどかけ先導車に案内され、中庭まで入ってしまった。
「ケイさん…ここって…お城の中庭?」
「そうです。楓花さんはこちらでお待ちください。出来ましたら…侍従の振りをして、ドアを開けてもらえますか?」
「あっ…なるほど、一人で降りるのは立場上あれですね。」
「お手数をおかけします。降りる時は、フードを被って顔を隠してください。」
楓花は、車を降りると助手席側へ廻り、手を差し出した。
敬一郎は、いつになく凛々しい表情と所作で降りてくる。
楓花は、腰を折った礼で見送ると運転席へと戻った。
さてと…暇ね。
王城内でも、ガードを張りっぱなしでいいのだろうか?
ガードを掛けているのだから、敬一郎さん以外は近づけないと思うけど…キャビンに行ってもいいかな?
料理は匂いが出るようだから、コーヒーを入れてお菓子でも食べよう。
キャビンに女性騎士を2人迎えたから、夜は…彼女たちと敬一郎さん…か。
部屋は狭い個室2つと寝室しかない。あとは、この1階のベッドだ。
啓一郎さんに1階のベッドを使ってもらい、女性2人は3階を使ってもらうのがベストだとは思うけれど、偉い人にそれは許されるのかな?
でも…古い家は、上の階は使用人の部屋だし…その感覚なら許される?
このベッドもカーテンで仕切ってはあるし…心許ない?今度、ここを引き戸にしようかな?
う~ん…悩むわ。
「楓花さん、お待たせしました。戻りましょう。」
「わかりました。」
楓花は運転席に戻ると、門を出ると少し離れた場所で空間移動を使った。
港町を見下ろす高台へ戻ると、ガードを30mに広げた。
騎士たちは、敬一郎に報告をしている。
良かった。皆さん無事だった。
車を降りた楓花は、サクラを呼ぶ笛を鳴らした。
天龍のメンバーを呼びに、2階へと上がった。
「長時間、ごめんなさい。」
「いえ、全く…食べ物を用意してくれたから、楽しく過ごせた。そろそろ?」
「ええ、近いうちにグリフォン隊が到着すると思うの。もう日も暮れますから、焚火の準備をお願いします。」
楓花は、天龍の3人に指示をすると忙しく動いた。
その頃、辺境伯であるアシュレイ・ドロ・クリトンは、山の上の焚火に気が付いた。
なるほど、あそこにグリフォン隊の先導者たちがいるのか…。
昼間は驚いた。
前線を辛うじて維持しているところに、急報が入った。
元帥閣下からの使者を名乗る者が、馬に乗って現れたという。
偽物の可能性もあると警戒したのだが、持ってきた手紙には間違いなくケイ・イチロー・ヒシ元帥閣下の封蝋が、押されていた。
辺境伯は、隣国からの攻撃を防ぐ役割を持つ。
そのため、なかなか領地を離れることは出来ない。
そして王都よりかなり遠いため、貴族が来ることは非常に稀な場所だった。
そんな私の元に、元帥に就いたヒシ閣下は何度も来てくれていた。グリフォンに乗り視察に訪れては、警備への提案をしてくれていた。
いつもならば、雪が溶けるとともに小競り合いが始まる。
春は、隣国にとって食料が尽きる時期であり、足りない食料を奪いに来る。
それを防ぐのが、春の恒例行事だったが、今年は違った。
艦隊を組んだ上での海からの攻撃が行われ、山からの歩兵の攻撃もあった。
あまりにも衝撃的で頭が痛い。
予想外の艦隊の登場に、対応が遅れ怪我人も続出した。
あと数日が限界…数日前に近隣の領主へ手紙で応援要請を出したが、返事は戻っていない。自分自身も何度か前線へ出ていたので、傷だらけでもあった。
考える余地などない。
元帥閣下からの「協力が必要であれば要請を」との手紙にすぐさま、返信を書いた。
戦争への協力要請だった。
元帥閣下のグリフォン隊は、王の剣でもある。
無断での派兵はできないから、王都へ出向き、許可を求めてからになる。王都へ行くために、グリフォンであっても1日はかかるだろう。
往復2日とそれからの派兵だ。ここにグリフォン隊が来るまで1週間はかかるだろう。
これで、1週間耐え抜けられれば、どうにかなる。
1週間…長いが、きっとどうにか耐えられるはずだ。
「これを、元帥閣下へ頼みたい。」
「かしこまりました。お預かりいたします。」
兵士に手紙を渡すと、兵士は籠を1つ取り出した。
「こちらは、直接渡すようにと預かった物です。」
「確かに受け取った。」
兵士は、礼を取りすぐさま馬で駆けていった。
渡された籠は、大変に素朴な籐を編んだ物だった。
天幕に戻り、中身を確認する。
見慣れない物ばかりだった。
大きな水の入ったボトルに、見たことのない持ち手の付いた物。それに小さなやわらかい容器だった。
手紙が入っていた。
容器の絵がついていた。
・スプレーボトル:聖水…人・天幕などに吹きかけることを推奨する。
・癒し水:飲むと疲れが取れ傷を多少治す。
・傷薬:目や粘膜には使用できない。それ以外の場所へ少し垂らすとよい。一瞬だけとても痛いが傷を治す。
・軟膏:傷を治す。白湯で洗った傷へ、よく洗った手で塗ること。
到着まで健闘を祈る。
治療師も連れて向かう。
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