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「あら、村長さんの奥様手が荒れていますね。」
「ええ、まあ…」
「これは低級軟膏といいます。一度この水で手を洗ってください。」
フーカさんは、透明な細い物を取り出すと、その先を切った。中に入っている半透明のものを押し出して妻の手に乗せた。
「こちらをこうやって手に広げてみてください。特に指先には多めにつけるよう意識して…。」
「こうですか?え?あら…あら…まあ…治っていく…。」
「いいでしょう?」
そう言うと、フーカさんは立ち上がり村人を見た。
「こちらの軟膏は、手のあかぎれやちょっとした傷に効きます。1本銀貨1枚です。村長さんと同等の葛粉であれば、500gでも構いません。いかがですか?」
それは、葛粉500gを銀貨1枚で引き取ると同様の言葉だった。
葛粉は、貴族たちや商人たちには見向きもされない物だ。
村人たちは、畑に実るまでの5月までは葛粉で食いつなぐので、葛粉はそれなりに持っていた。
それらは、5月までの大切な食糧ではあったけれど、もう何年も治らない手の傷が治るのであれば、多少のことは我慢できると考えた。
葛布もそれぞれの家には沢山ある。あまりにも売れないけれど、冬の手仕事だから織っていた。それらが一気に持ち出された。
楓花は、キャビンの棚から木綿糸の縫い糸100m巻きを20個ほど取り出した。
「またこちらの町に来たいと思います。これから葛布を作る時に、この糸を縦糸に使って欲しいのです。その布の方が美しく仕上がるはずです。」
「その糸は、高いだろう?」
「そうですね…安くはないですが…この葛布1枚でこの糸2個と交換しましょう。この糸を使ったこの大きさの布は、銀貨2枚で買い取ります。」
「おおっ」
村人たちはどよめいた。
「可能であるなら、もう少し繊維を叩いて細く出来るならより美しく仕上がると思います。それであれば、幅ももう少しこのくらいにして長さも3mほどになれば、買い取り額もぐっと上がりますよ。」
葛布は、横幅50㎝ほどで縦に1mほどしかない。
生地としてもかなり厚みがあり、使い道は考えなくてはならない。
大和では高級な襖紙や衝立に使われているから、もっと薄く大きく織れるならその方が使い道はある。
あまりにも村人たちが品を持ってくるので、楓花が物を査定して、いくら相当かを紙に書きだした。天龍達に販売を任せ、紙に書かれた金額で交換する方式にした。
村長は、低級軟膏2つと低級消毒薬という物、生肉1㎏の塊、干し肉200g入り袋5個と木綿糸4個を手に入れた。
干し肉という物は、透明な袋に入っていて口は捩じって結ばれていた。
これは、販売している人が言うには、封を開けなければ3か月も保存できるという。自分たちで作った物を食べ終えてから食べるつもりだ。
布が多くあったのは、足が不自由で畑仕事ができない息子が作っていたからだった。
これだけの肉があれば、葛粉が残り4壺でも過ごせるだろう。
葛粉を食べるより、肉の方がずっと食べ応えがある。
それに、あの大きさの布を倍の価格で買い取ってくれるなら、糸を買ってもいい値段だと思えた。しかも、もっと大きく作ればさらに良い値で買い取ってくれるという。織機の横幅はさらに倍ほどはとれる。使っていなかっただけだった。
糸の色は様々で真っ赤な物まであった。これほど細い糸を撚るのも、色を染めるのも自分たちではできない。美しい糸だ。葛もこの糸ほど細くは無理でも、もう少し細く撚ることはできるだろう。
息子は、足元に掛けられた布を撫でまわしていた。
少しすると、フーカさんが息子の足元の布を外した。
それから横に当てていた板を外し後ろの板だけが残った。その状態で、息子を立ち上がらせた。
「まだ痛いと思いますが、足をつけられそう?体重はかけないように、お母さん手を支えてください。」
「痛みはあるけど、立てる。それに…足がまっすぐに見える!!」
息子は驚き、妻は泣きだした。
村人たちもそれを見て、慌てて家へ戻っていく。
寝たきりの子や動けなくなった者を担いで連れてくる。
「まだ、完全にくっついてはいないので、しばらくはこの木を当てて太ももと足首の上、膝あたりを巻いて過ごしてください。1週間ほどしたら、外して歩けるか試してください。それで大丈夫ならいいし、まだ不安なら1か月先くらいまでつけていてもいいと思います。」
「治癒士様、ありがとう。」
「治癒士ではないの、そうね…敢えているなら、治療師かな…。隣のヒシフォート領では、治療師が活躍しているのよ。」
「そうなのか。治療師のフーカ様、ありがとう。本当にありがとう。葛布も気に入ってくれてありがとう。木綿糸を使った布も織るから楽しみにしていて。」
「ええ、楽しみだわ。」
「次は、いつ頃来てくれるの?」
「冬か、その前に来たいとは思っているわ。」
「わかった。それまでに織っておくよ。」
息子は、フーカさんと話し終えると、家へと戻っていく。
トトは、息子についていった妻が戻ってくるまで、買いにきた村人たちを見守り、戻ってくると怪我人や病人を運ぶのを手伝った。
フーカさんと少女2人が、治療をしてくれていた。
息子のようにおかしな位置で骨が繋がった者はいないので、その後の治療は穏やかなものであった。
楓花が去った1週間後には、村人たちは総出で畑仕事をしていた。
寝たきりだった者も働けるまでに快復していた。あかぎれで手が痛く、作業をしにくかった者たちは、あかぎれが治ったおかげで指がスムーズに動くようになり、作業も捗るようになった。
トトの息子は、動けるようになると、昼間は畑仕事をし、夜には葛を叩いて糸を撚り、布を織っていく。縦糸に木綿糸を入れると、平らな美しい布になっていく。折り目から除く糸の色が鮮やかで美しい。トトの息子は、楓花の助言に従い大きな布を織り始めた。
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