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戸惑うリュシーに楓花が問いかけた。
「ご実家に影響があると考えますか?」
「はい、少なくはないと…持ち帰って相談してからでもよろしいでしょうか?」
「もちろん、構いません。ですが、協力してくださるなら、こちらもヒエ草を使った薬の開発をしようと思いますので、トウヨ子爵家へ増産のお願いをできると思います。」
「ヒエ草の増産ですか?」
「はい」
フーカ先生は、勝算はあるという顔をしていた。
そして、確かにあると思う。
ヒエ草は、育てやすいけれど土を選ぶ。領地の一帯でしか育たない草だ。今までは熱さましに使っていたが、乾燥させると薬効が半減してしまうため、使い勝手が良くなかった。だから売りにくい。作ろうと思えば、今の10倍くらいは作れる。
「そうでした。リュシーさん、ご一緒にお茶をしませんか?珍しい菓子を用意したの。」
「お誘いありがとうございます。ぜひ!」
フーカ先生は、見慣れない緑色のお茶を淹れてくれた。
ほのかに甘く草の香りがするが、渋みもある。
「珍しいお茶ですね。」
「これは、茶葉を蒸して揉んで作られたお茶です。紅茶はこれを発酵させて作ります。」
フーカ先生は本当に物知りだ。茶の作り方もすらすらと出てくるらしい。
「1つずつだと多いと思うので、1口ずつ用意しました。右側からどうぞ召し上がれ。」
フーカ先生と閣下が、一緒にテーブルについた。閣下は毒見もしていないのに、フォークを刺して口に入れた。その表情から美味しいのだとわかる。
珍しいとはおっしゃっていたけれど、本当に見たことのない物だった。
右側からか…右端には、緑色の丸いものがあった。
その隣には、それに赤茶色の粒粒したものが乗っているものがある。
中央には、パンのような物があり、その隣にはパンの中に赤茶のなめらかな物が入っていた。そして左端には、右端と同じようだけれど中に赤茶のものが入っている。
リュシーは、右端の丸いものを食べて弾力というか経験のない粘りに驚く。だが、いやな物ではなく、かみ砕いているうちに飲み込めた。ほのかに知っているような香りを感じる。
次の物は、粒粒したものが甘い。そして、下の物は先ほどと同じものだった。甘いものが乗っているのが美味しい。
「いかがかしら?」
「初めて食べます。でも、甘くて美味しい。それにこの歯にくっつくような感じが、面白いですね。」
「ふふっ、お団子というお菓子なの。」
「これはパンですか?緑色ですね…あっ…やはりどこかで…」
「乗っていたのは小豆です。それを潰したものが次のお饅頭と最後のお餅にも入っているの。」
「へぇ…材料は同じで姿が変わっているのですか?面白いですね。」
リュシーは、最後に半月型のオモチを食べた。最初のダンゴというものに似ていたが、より食べ応えがあった。色は濃い緑色で草の繊維も沢山見えた。
そして、強い香りの正体が分かった。
「これ、ヨモギ草ですか!?」
「当たりです。おいしいでしょう?私の生まれ故郷では、昔からこうやって食べられているの。」
「こんな…薬草を菓子にするなんて…でも、これは食べやすい…」
「食べ物と一緒に美味しく食べて、胃腸も健康になって、お肌にもいいなんてとてもいいと思うのよ。」
「驚きました。こんな使い方があったのですか。」
「いろいろと活用法があるの。もちろん、成分を取り出して薬にも出来るでしょう。」
「なるほど…相談してみます。」
リュシーは、家に帰るのが正直怖かった。
薬師にはなれなかったと親へ報告したら、勘当されると思ったのだ。
だけど、フーカ先生のおかげで閣下から「薬草庫と薬草園の管理者へ任ずる」と書かれた任命書をいただいた。それを手に親と交渉をしなくてはならなくなった。
「ほぉ…管理者か…。」
「父上の許可が必要になります。お願いできますか?」
「そなた…薬師になるのではなかったのか?」
父の目が怖い。いつもそうだ。近くにいるだけで怖くて震えてしまいそうだ。
リュシーは、ポーションを5本父の机に並べた。
「はい。薬師の勉強は致しました。これらは、私が作った下級ポーションです。全て良です。こちらは父上へお渡しします。」
「なんと!下級ポーションが作れるようになったか!しかも良とは、よいではないか!!その上で、薬草庫の管理者か…。ふむ、だが…薬草園とは何だ?お前は家業をわかっているのか?」
「はい。我が家は、ヨモギ草とヒエ草を栽培し販売しております。」
「ならばなぜ?閣下も閣下だ。我が家の稼業を横取りする気か?」
「違います。閣下の薬草園で、その2種類を栽培する予定はございません。」
「では、何を栽培するつもりだ?」
「癒し草と露草だそうです。私が、閣下の元で勤めることが条件ではありますが、こちらの農園を広げられるなら、ヒエ草の収穫量を増やし買い取りたいとも仰せでした。」
「なんだと?」
「品質は見られます。上より上の物でなければ、買い取っては貰えません。ですが、私がヨモギ草やヒエ草で得た知識をもとに、癒し草と露草を育てるのであればと…お気遣いくださいました。」
「なんと…それは良い話しだ。早速、閣下の元へ参らねばならん。」
父が慌てて出ていくのを、リュシーは見送った。
嘘は言っていない。本当のことも言っていないが、父の興味は別のところへ向いている。ほっと胸を撫で下ろした。
ポーションは作れる。効果がないポーションを売って薬師を名乗っている者より、ずっとマシな物を作れる。だけど、ギルドで求める水準ではない。それだけのことだ。
翌日から、リュシーは管理者として勤務することになった。
朝、工房に薬草を届ける。翌日の必要数の予定を聞き、手配をかける。午後に正式な数の依頼が届いたら微調整をするというのが、メインの仕事となった。
さらに、管理室のある学び舎の近くに畑も作られた。
栽培用の苗や種をフーカ様が用意してくださった。それらを使い農夫とともに育て方を試し始めた。
7日目、楓花たちはヒシフォートを離れようとした。
楓花とララ親子、リリーとサナの5人だ。
女性2人に子供3人という組み合わせだけでは、「危険すぎる」とストップがかかった。
だからと言って、他領を周りたいのでヒシフォートの騎士たちは連れていけない。
解体を教えている天龍に声をかけるのは、申し訳なかったけれど、声をかけるしかなくなった。
ケイさんを連れて、アートンを訪ねた。
「もちろん同行します。今時期は、ツリーホーンを覚えていればどうにかなります。」
「そうなの?それなら、よかったけど…」
ケントの返答に拍子抜けしてしまった。
4種類も預けていたから、1種類に3日かけてもそれなりに時間がかかると思っていたのに…。
天龍の6人も加わり、一度ヒシフォートで敬一郎を下ろし、11人で他領へ出かけようとすると敬一郎が声をかけた。
「必ず毎日連絡をしてください。居る場所と会った人物など必ず!」
「ケイさん、大丈夫ですよ。」
「大丈夫ではありません。必ず連絡を。」
「わかりました。連絡します。」
楓花は挨拶を終えると出発した。
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